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ブロードバンドの屋台骨 「メトロ」を完全解剖

ダークファイバに灯をともせ!─動向編

2001年04月12日 08時21分更新

文● データコントロルズ 島田仁志

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 一方、日本はすべての電話線はその地区の電話局舎から家庭や事業所内に引き込まれており、地域会社と長距離通信会社に分割されたNTTが現在も強力な力を誇っている。加入者線から中継系まで基本的にすべての通信は、NTTによって行なわれているわけだ。

 早くからFTTHの構想を打ち出してきたNTTは、全国での光ファイバ網構築を積極的に進めてきた。実際、交換機は100%デジタル化されていると言われているし、都市部での光ファイバ網の普及率もかなり高い。では、なぜ日本はブロードバンドの波に乗れなかったのか。特筆すべきなのは、日本のWANがISDNとATMをベースにして、現在に至っているという経緯である。

 約15年前、NTT(当時は電電公社)は狭帯域サービスとしてISDN、広帯域サービスとしてATMを選択した。広帯域とは狭帯域の反対語で、英語では広帯域のことをブロードバンド(Broadband)と狭帯域をナローバンド(NarrowBand)と呼んでいる。しかし、これらは同じISDNだが、速度も用途もまったく異質のサービスである。

 前者は64/128kbpsのダイヤルアップ型の統合デジタル網で、ナローバンドISDN(N-ISDN)と呼ばれている。目的は、今まで電話やデータ通信などサービスごとに分かれていた加入者線を統一することである。結果として日本はオーストラリア、イギリスとともにISDNがもっとも普及した国となっている。日本の通信事業者がISDNを選択したため、必然的にナローバンドの64/128kbpsの低速インターネットだけが実現し、ようやくADSLという段階を迎えている現状だ。そのADSLの普及率も日本ではまだ1万回線を越えた程度であり、韓国の0.5%にも及ばない。

 一方、後者のブロードバンドISDN(B-ISDN)のATMサービスの目的は、回線網の統一である。音声やデータ通信などを1つの回線網でまかなってしまうのが究極の「統合デジタルサービス」というわけである。ATMは一般にWANで使われるパケットより、ずっと短いセルという単位に分割され、セルとセルが一定であるため、音声の途切れや動画の乱れなどのない、品質の高い通信を行なうことができる伝送方法である。1980年代から、NTTは局舎間をすべて光ファイバで接続し、ATMでメトロポリタンエリアネットワークを構成する計画を進めた。NTTは横須賀通信研究所や武蔵野通信研究所など世界でも有名な研究所を保有しており、このインフラだけを見れば当時は世界でもトップレベルだったのだ。

 しかし、残念なことに現在、光ファイバ網の多くはATMやフレームリレー、高速ディジタル専用線など企業向けのデータ通信サービス、および電話が中心になっている。確かに「ATMメガリンク」などのサービスは、電話会社や、本社支店間のイントラネットの幹線などで利用されるデータ通信品質(QoS)要求されるような重要なネットワークへの利用に適している。しかし、価格的に個人や小規模事業者が気軽に利用できるサービスではなく、セル分割のオーバーヘッドが大きいため高速化に関してもすでに限界に達している。

 つまり、低速なISDNと高価なATMをベースにしている限り、光ファイバの有効な活用は行なえないのだ。ISDNとATMを主軸に据える国はまだまだ多いが、米国や韓国などではすでに高速で、収益性の高いDWDM(Dense Wavelength Division Multiplex)やギガビットEthernetなどのテクノロジーに完全に移行している。

N-ISDN図
N-ISDNによる加入者側インターフェイスの統一。DSU(Digital Service Unit)によりインターフェイスを統一し、電話局などでサービスごとに振り分け、サービスごと特性に合わせた回線網に流すわけだ
B-ISDN図
N-ISDNのあとに実現されるB-ISDNによる回線網の統一。光ファイバとATM交換機をベースにした高品質なデジタルバックボーンに、電話、データ通信、マルチメディアなどを統合していく。ただし、現在では高価なフレームリレーやATM専用線などの光ファイバインフラとなっている

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