予想通り話題豊富だったスティーブ・ジョブズ氏の基調講演の中から特に『iBook』に関わるハイライトシーンだけを抜き出して詳しくお伝えする。
今回のEXPOはコンシューマー製品に注力
スティーブ・ジョブズ氏はアップルが今後、プロ用デスクトップ機としてPower
Mac G3、そしてプロ用ノート型機としてPowerBook G3を提供し、コンシューマー用にもデスクトップ型機とノート型機を提供するという同社の製品戦略を振り返り、今日の講演ではコンシューマー用製品に焦点を絞って紹介すると語った。壇上をところ狭しと動き回るジョブズ氏。ちなみに、50以上の新機能を備えたMac OS 9(コード名、ソナタ)については、アスキー刊のMACPOWERとMacPeopleで詳細をお届けする予定 |
世界中で社会現象にまでなったiMacが発売されたのは昨年8月15日で、今からおよそ1年前のこと。アップルは発売1周年の8月15日までには累計190万台を出荷することを予想している。iMacユーザーの33パーセントはパソコンを初めて購入するユーザーで、89パーセントはiMacをインターネット接続に使っている。このiMacはUSBを採用した初のMacだったが、同機の登場以来USB周辺機器の数が飛躍的に増えたことを紹介した。
またMac対応のソフトも増加傾向にある(iMac発表後に1万3000種以上の製品が登場した)とした上で今後、登場する注目ソフト2本を紹介した。1本はOpenGLを使って動作する米BUNGIE社の新作ゲーム。スクリーンには、なめらかに動くまるでSFアニメーション映画のような映像が延々と映し出された。BUNGIE社の開発者はこれがすべてリアルタイムで描画されたものだとした上で、アップルが高性能のビデオチップを採用したからこそ実現できたと語った。
続いて紹介されたのはIBM社の音声認識ソフト、『ViaVoice』だ。デモでは実演者がやや早口気味にとぎれなく話しているにも関わらず、音声認識による文字入力が1語の間違いもなく正確に行なわれた。
『ViaVoice』のデモ。音声認識により正確に文字が入力された |
iBook登場
ジョブズ氏の基調講演がクライマックスを迎えたのは開始から50分後のことだった。iMacの紹介を終えたジョブズはいよいよアップルのもう1つの製品を発表する――『iBook』だ。12.1インチのTFT液晶を備えた『iBook』 |
アップルはコンシューマー製品の名前は小文字の“i”で、プロ用の製品は“Power”という語で始め、デスクトップ製品の名前は“Mac”で、そしてノート型製品の名前は“Book”で終えるという新しいルールを作った。“iBook“の名前はこうして決まった。
iBookはiMac同様に家庭や教育市場をターゲットにした製品だ。アップルはこの市場にふさわしいノート型コンピューターがどういったものかを熟慮した結果、“持ち運び可能なiMac”こそが理想の形だという結論に達した。
持って行けるMacintosh |
もちろん、コンシューマー製品だからといって決して妥協はしない。液晶には十分大きくて見やすい12.1インチのTFT液晶を採用し800×600ドットの解像度を実現、さらにビデオチップにはノート型としては最速のATI社RAGE
Mobilityを採用した(VRAMは4MB)。
CPUは300MhzのPowerPC G3だ。ジョブズ氏はこれが非常に高速なプロセッサーであり、iBookは世界で2番目に高速なノート型コンピューターだとアピールした。もちろん、1番目は同社のプロ用ノート型機、『PowerBook
G3』だ。
アップル社のブースに展示されたiBook。操作している横からみると、豊富に詰まっているとは思えない薄さ。キーボードの大きさも十分のようだ |
CD-ROMは24倍速のものがiMac同様にきれいに本体に埋め込まれており、メモリーは32MB(最大160MB)、ハードディスクは3.2GB。外部接続の手段としては56Kbpsモデム、USBポート、10/100Baset-Txのイーサネットを標準で装備する。
キートップの文字が小さく、アイスホワイト色が強く強調されたキーボードは、フルサイズ仕様。ノート機だからといって使い心地の点でも決して妥協はしない。
アイスホワイトを強調したキーボード |
さらにすごいのが電池駆動時間だ。iBookはこれらすべての機能を実現した上で、約6時間の電池駆動が可能になっている(横長の充電地は特殊サイズで、ネジやコインを使ってふたをはずした後に出し入れする)。
色はiMacでおなじみのブルーベリーとタンジェリンの2色。基調講演の後、アップル社デザイン部門の副社長、ジョナサン・アイブに聞いたところ、iBookの材質ではこの2色が一番映えたということだ。同機は色つきの部分が傷つきにくくいようにゴムでコーティングされている。
iBookの材質では、この2色が一番映えるという |
しかし、なんといってもデザイン上の最大の特徴は、手提げスタイルで持ち運ぶための取って(ハンドル)がついたことと、ラッチ(留め金)がなくなったことだ。
色つきのハンドルは本体と液晶の間のちょうつがいから伸びており作業時のiBookでも背面から見たときにちょっとしたアクセントになっている。ラッチをなくしたiBookは折り畳み式携帯電話のように簡単にたたんだり、開いたりできるようになっている。
開いたふたを外から覗いても、すっきり見えるようにデザインされている |
そしてグレーの大きな丸形のACアダプターは、まるで巨大なヨーヨーのように使い終わったケーブルをその周りに巻いて収納することができるようになっている。
iBookは米国では9月に1599ドルで発売が開始する(後でジョブズに聞いたところ、世界同時発売となる予定だそうだ)。
スティーブ・ジョブズ氏は基調講演が終わるとすぐに米CNBC放送のニュース番組に生出演し、アップルの好調な業績を振り返った |
ジョブズは続いて同社が試作した4種類のiBook用テレビコマーシャルを披露した。
iBook本体の背面 |
世界初の無線対応ノート
しかし、聴衆が度肝を抜かれたのはこの後だった。ジョブズは「もう1つ見せたいものがある」とiBookを手に乗せて歩き始めるた。しばらくすると聴衆はこのiBookがどこにも線でつながっていないのにちゃんとWebブラウジングができていることに気づきしだいに場内がざわざわとなり始めた。そう、iBookはなんと最初から無線通信に対応できるように設計されているのだ。プラグの必要がないMacintosh |
ジョブズはこのiBookが本当に無線通信をしていることをアピールするために、手にしたiBookにフラフープをくぐらせるという演出を行ない、場内は喝采で埋まった。
この無線通信は『AirPort』というアップルが米Lucent Technologyと共同で開発したオプション製品を使って実現している。
AirPortは業界標準のIEEE 802.11という無線LAN規格に準拠した製品で、11Mbpsでの通信が可能になっている。
利用するにはまず『AirPort Base Station』という無線通信の親機を、イーサネット経由あるいは電話線経由(同製品は56Kbpsモデムを内蔵している)でインターネットに接続し、iBookのキーボードの下にAirPortカード(大きさは違うがコネクターの形状はPCカードに準拠しているらしい)という子機を設置する。
こうするとiBookの液晶フレームの左右に埋め込まれた2つのアンテナを使って、最大11Mbpsの通信が可能になる。
1つのBase Stationには最大10台までのiBookが無線接続可能で、有効距離は最大150フィートと非常に広範だ。ジョブズは「たいていの人の家はこの距離内に収まるはず。収まらないとしたらそれはビル・ゲイツの家だ」とジョークを放ち、聴衆の笑いを誘った。ちなみに150フィートはメートルにして46メートルぐらいになる。
AirPort Baseの価格は299ドル、AirPortカードの価格は99ドルで、iBookと一緒に9月に発売となる。
AirPort CardはiBook本体内に埋め込むため、あまり目立たないが、iBook
Base Stationは白黒SF映画に登場するUFOやキスチョコレートに似た不思議な形をしている。
ジョブズ氏は、最後にこのAirPort Base Stationが怪しいUFOのような音を立てながら画面中を飛び回る試作テレビ広告を披露して壇上を去ろうとしたが、その前に、「最後にアップルの社員たちを褒め称えたいとして」、1度、客席にいるアップルの社員達を立ち上がらせた。実はこれがジョブズのもう1つの演出への伏線だった。
なんと、たったアップル社員のうち、約100人ほどはこの基調講演の間中、iBookをかばんの中に隠していたのだ。
隠していたiBookを高々と掲げるアップル社員たち |
講演は「もし、iBookに興味があれば、ぜひ近くのアップル社員を捕まえて実際の製品を見て欲しい」というジョブズの言葉で締めくくられた。