Town Meetingでは著名人が注目ソフトを紹介
米時間20日9時、MACWORLD EXPO/NEW YORK '99最初のイベント、“Town Meeting”が行なわれた。展示場が開くのは現地時間21日午前9時、スティーブ・ジョブズ氏の基調講演が終わってからで“Town Meeting”はEXPO本番の前夜祭(前朝祭)的イベントとして位置づけられている。Town Meeting前半では、米国のMac関連の雑誌・書籍・電子ニュースメディアで有名な著者や編集者達が最近のアップルの状況を振り返ったり、アップルへの要望を語ったりした。
続く後半は、まずアップル社マーケティング担当副社長のスティーブ・ウィルハイト氏が登壇した。同氏は昨年、米国広告業界でアップルの“Think Differentキャンペーン”と並んで絶賛された米フォルクスワーゲン社の広告戦略の中心的人物だ。
昨年暮れごろ、突然、フォルクスワーゲン社を退社したが、今年、春ごろになって、アップル社がヘッドハントし、その一挙一動が注目を集めていた。
おそらく米時間21日、スティーブ・ジョブズ氏の基調講演が行なってからマンハッタン中を使って展開される広告キャンペーンは、彼の手によるものだ。
ユーザーから経営者へ
ウィルハイト氏は、Windows優勢の米フォルクスワーゲン社に最初にMacを持ち込んだ時の経験を語った。はじめのうちはMacを使うのは彼だけだったが、そのうち、Macの使いやすさを知るにつれて、彼の秘書がMacを使い始め、続いて広告部門もMacを使い始めた。結局、彼がフォルクスワーゲン社を辞める直前になって、Mac/Windowsの両プラットフォームをサポートするのを嫌ったコンピューター管理部門によって、Mac撤廃命令が下されたという。フォルクスワーゲン社を辞めた彼は、しばらく隠居生活を送ろうと思っていたが、スティーブ・ジョブズ氏に説得され、そのカリスマに惹かれてアップルへの入社を決意したという。
ウィルハイト氏は、“アップル”は個性の尊重や革新性といったことを連想させる力を持つ数少ないブランドであり、そのブランドを顧客に正しく伝えることこそが彼の使命だとした語り、そうしたアップルの魅力を最もうまく紹介できるのが、Apple Masterたちだとした。
これを受けて何人かのApple Mastersたちが、最近の作品や作品作りに使っている製品の紹介を始めた。
米フォルクスワーゲン社の広告戦略の中心的人物だったウェルハイト氏 |
Apple Mastersが注目ソフトを紹介
最初に登壇したのはビジュアルアーティストのPaul Davis氏だ。Davis氏は、Painterを使って作成した彼のアニメーション作品を2つ紹介した後、今回のEXPOで新発表となるまったく新しいタイプのグラフィックソフト、『Studio Artist』(米シャイテスィックソフトウェア社開発)を紹介した。同ソフトには絵の造形を人間と同様に理解し、解析するインテリジェント機能が組み込まれている。絵や写真を元となる絵の作風にならって描画し直したり、まったく新しい絵を描き出す機能を持っている。同ソフトの開発者、ジョン・ダルトン氏は、人工知能や認知科学に精通しており以前からこうしたさまざまなアート表現のシンセシス(合成)を実践しようとしていた。同氏はMac用音楽ソフト、『DECK』(その後、マクロメディア社に買収された)の開発を始めた人物でもある。
EXPOで新発表となる新グラフィックソフト『Studio Artist』 |
マイケル・バッカス氏は新しいゲーム開発を手がける
続いて、ジュラシックパークなどのSFXを担当したマイケル・バッカス氏が登壇し、現在、彼がかかわっているプロジェクトを紹介した。ハリウッドが長いことパソコン用のインタラクティブ映画作りに多大な投資をしてきたが、結局こうしたインタラクティブ映画は制作が大変なだけで、今ひとつ大衆への受けがよくないことを悟ったと、彼は語る。そんな彼が現在、取り組んでいるのは『Fight of the Cube』というまったく新しい高速3Dレンダリングエンジンを使ったゲーム開発だ。同氏は簡単に同エンジンの描画性能をデモした後、1年以内にこのエンジンを使ったゲームを出したいと語った。
高速3Dレンダリングエンジン『Fight of the Cube |
バッカス氏は続いて、映画『タイタニック』や『トルーマンショー』でも使われた波紋描画用ソフトがMacに移植されたことを紹介した。『Psunami』と呼ばれるこの波紋描画専用ソフトはアドビ社の高級ビデオ編集ソフト、『After
Effect』のプラグインという形で米アトミックパワー社から発売される。
バッカス氏は、実際のタイタニックの制作ではSGI社製グラフィックスワークステーションを使って波紋のレンダリングを実行したが、同じ処理を新型Power
Mac G3で行なったところ、こちらの方が高速に処理できたと語る。今後、ハリウッドが再びMacを積極的に使うようになるだろうと予想した。
映画『タイタニック』や『トルーマンショー』でも使われた波紋描画用ソフト『Psunami』がMacに移植された |
Town Meetingでは続いて、ミュージシャン、デイブ・マッシュ氏がアドビ社の製品デモなどにBGMを作曲した時の経験談を、そしてビジュアルアーチストのジム・ラドック氏が彼の作成したアニメーション作品などを紹介した。
開催前日のEXPO会場には、「これで本当に間に合うのか?」と心配になるほどの、のんびりムードが漂っていた。中にはテクトロニクス社の新製品とおぼしきiMacカラーのカラーレーザープリンターや、Mac用Linuxの中でも最近注目を集めているYellow
Dog Linux社のブースも見られた。
iMacカラーのカラーレーザープリンター |
PIC Yellow Dog Linix社のブース |
夕方6時前後になると、アップル社のブース全体が黒い幕で覆われてしまった。いよいよ明日、21日(米国時間)は基調講演。何かとても大きな発表があるという噂も流れているようだ。こちらの大きな期待と不安まじりをよそに、EXPO会場にも静かな夜の帳が降りてきた。