IT業界は“底辺に向かう”競争をしているのか!?
先に挙げた「正規社員を使いつぶす」ことは、IT業界でも深刻な問題になっている。
●ケース「下請けソフトウェア開発会社の若手SE」
BさんはIT系の専門学校を出て、最大手メーカーの関連会社にシステムエンジニアとして入社した。大手メーカーの仕事を孫受けしている企業だ。Bさんはシステムエンジニアとしての能力があり、勤務態度もよかったため、数人のプロジェクトのリーダーに抜擢された。リーダーになったことで勤務時間が増加したが、それでも責任のある仕事を何とか回していっていた。
ところがある日、いつものようにパソコンの前で作業をしていると、足元の床が濡れているのに気付く。Bさんは自覚なく自分が失禁していたのだ。それまで、冷たさにもにおいにも気が付かなかったそうだ。その後、Bさんは病院で重度のうつ病と診断され、長期休養をとることになった。
過密な労働によって、優秀な若手のシステムエンジニアが使いつぶされてしまった事例だ。このようなIT現場が増えている。その背景には、IT業界の多重請負の構造がある。下請け単価は下の層にいくほど安くなっていき、しかも単価の安さが競合との競争力になっている。IT業界は安い外注単価と未払いの残業代の上に成り立っているという。そして、その被害を一番被っているのが、下層の正規社員というわけだ。
河添氏は「企業に労災などの話をつけにいくと、よく『IT業界では残業代が出ないのは常識だ』と言われる。でも、それならば『IT業界の常識は、世間の非常識だ』と私は言いたい」と語る。また、このような単価の安さで勝負している状況を「底辺に向かう競争」と表現し、これは長期的に見ると経営側にとっても不利益だと語る。
「若く優秀な人材を使いつぶしていくことで、会社には常に優秀な人材が不足することになります。それが、また会社の技術的な競争力を低下させ、単価の安さで勝負するしかないという悪循環が生まれます。海外との競争も激しくなっていく中で、単価を競争力にして生きのびていけるかを考えてほしいですね。底辺に向かう競争では、日本のIT業界全体が落ち込む恐れもあると思います」(河添氏)
(次ページ、コンサルタント・インタビューへ続く)
- ■取材協力
首都圏青年ユニオン
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