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経済予備校 第5回

CSR~単なるコスト負担と考えるなかれ~

企業が生き残るために今すべきこと

2008年08月04日 04時00分更新

文● 金山隆一、稲垣章(大空出版)

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経済予備校

近年、「CSR」という言葉が飛び交っている。正式には「Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任)」という意味だ。CSR活動は直接収益を上げるものではないとして、実際には取り組めていない企業が多いが、侮ってはいけない。企業が今後存続していくためには、無視できないものとなっている。

長続きする企業

日本総合研究所 古賀啓一氏

古賀啓一氏
日本総合研究所
創発戦略センター/ESGリサーチセンター 研究員

日本総合研究所

 CSRはもともと、途上国の労働問題などを重視するNGO(非政府組織)や、環境破壊などを問題視する株主などからの強い圧力にさらされた欧米企業が中心に、1990年代から取り組みはじめたものだ。しかし、日本総研の創発戦略センターの古賀啓一氏によると、「古来から日本には同じような概念として“三方よし”があった」と語る。「三方よし」とは、「売り方よし、買い方よし、世間よし」とする江戸時代の近江商人の経営理念で、売り手や買い手の利益だけを追求し、社会貢献の視点を欠く事業は、長続きしないことを説いている。

 近年、CSRが特に注目されている背景には、企業の環境に対する意識の高まりがある。環境に配慮し、温室効果ガスの抑制などに貢献しなければ、異常気象の増加や生物多様性の減少が進む。すると、資産に対する被害や原料が入手困難になるといった問題が表出し、企業が事業を持続することができなくなる。こうした懸念が広く共有されるようになってきたのだ。

「いかに温室効果ガス──二酸化炭素(CO2)の排出を少なくできるサプライチェーンマネジメント(SCM)を構築できるか、といった対策が企業にとって重要なCSRの課題になっています」(古賀氏)

投資という視点からもCSRは外せなくなっている!

 近年は、こうしたCSRを重視する企業に投資するSRI(社会的責任投資)と呼ばれる新たな投資手法が注目されている。調査会社などのアンケートの結果から、CSRを重視する企業に投資する投資家が増えていることが判明しているという。温室効果ガス抑制に貢献している企業や省エネ・省資源活動を活発化させている企業のみを選んで投資する「エコ・ファンド」などがその一例だ。SRIが投資の一手法として浸透する背景にも「CSRを重視する企業が、結局は持続可能な企業となる」という投資家なりの判断があるわけだ。

 古賀氏によれば、日本の個人金融資産1500兆円のうち、約9000億円がこうしたSRIの手法で投資されているという。金融資産全体に占める比率はまだ1%にも満たないが、「CSRは、時代が何を求めているか、社会が何を要請しているかに敏感に対応している企業かどうかを図る物差しでもある」と古賀氏は分析する。

 実際、国連は2006年4月、年金基金などの機関投資家に環境・社会・企業統治の3要素を重視するよう求める「責任投資原則」を定めた。また、米国でのSRI投資は2007年時点ですでに2兆ドル(約210兆円)を超える規模にまで拡大しているという。企業はもはや、CSR抜きに事業を継続できないところにまできていると考えた方がいいようだ。

意外に知られていないポイント
IT業界のCSRは「ワークライフバランス」がカギ

 労働集約性の高いIT業界では、長時間労働の問題や30歳定年説のようなキャリアパスに関する問題など、業界に特徴的なテーマが浮き上がっている。こうした中で、たとえば労働環境の問題を重要課題と位置づけ、「ワークライフバランス」を積極的に推進しているIT企業は、社会に「CSRに積極的な企業」と見られる。つまり投資家などからも評価される対象となるということだ。

 「ワークライフバランス」とは、従業員の仕事と家庭生活、勉強、趣味などの私生活を調和させ、両立させる働き方のことをいう。企業の具体的な取り組みとしては、子供を持つ女性の社会進出と重要ポストへの配置、育児休暇中のキャリアロスの回避。男性では趣味を楽しんだり、家族や友人と触れ合う機会が多く持てるように仕事量を調節したりすることが挙げられる。これらを行なうことで、「仕事にメリハリがつき集中力が高まる」「創造性が増す」といった効果を期待できるだけでなく、ワークライフバランスを重視する企業ということで、有能な人材を引きつけることができる。つまり、企業価値が高くなるというわけだ。

 逆に、偽装請負いや違法派遣などを行なう企業に有能な人材は集まらず、こうした風評が明らかになれば社会的にも批判され、株式市場の厳しい目にもさらされることになる。

(次ページ、「CSRを単なるコスト負担と考えると損だ」へ続く)

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