辞めてもらうために、しっかり退職金を用意する
── 30代代表として津田さんにお聞きしますが、もし世代交代が求められている企業のトップになったとしたら、まず何をします?
津田 何が問題かをいちばん分かっているのは現場だと思うので、最初に現場の声を聞くことから始めるしかない気がします。
これは音楽業界の笑い話なんですけど、iTunesが始まる直前の頃は、日本でも「そろそろ音楽配信の時代が来る」と言われていて、その種のデジタル系の勉強会が業界内でも行なわれていたんですよね。 普段、そういう勉強会に来るのは現場の人が中心なんですが、たまたま役員の人が来たら、彼は「MP3」が何だか分かっていなかったという。2005年にそんなんでいいのかっていう(笑)
一同 (笑)
津田 もっとも、最近は少しずつそういう経営陣の人たちの意識も変わってきたと実感します。ネットで著作権問題が騒がれるようになったことも大きいのでしょう。昔だったらあまり消費者のことを考えずに好き勝手やれていたのが、今はそういう風にはできない感じになっている。
あの官僚的なJASRACですら、オープンな議論に参加するようになってきています。ちょっと前までは、改革派とかユーザーの意見にはまったく聞く耳を持たなかったことを考えれば、進歩はしていると思いますよ。ただ、こういう過渡期に変化のスピードが遅いと手遅れになっちゃうのでは? という気もしますけど。
小飼 いや、それでもその社長がそういうことを言えるのは、株式市場の洗礼を受けていないからでしょう。もし米国で日本のような眠たいことをやっていたら、経営陣ごとクビになるわけです。
僕がもし世代交代が必要な企業を経営することになったら、まずは「どこまでやれて、いくら使えるのか」という権力の確認をします。もしそれが十分であれば、しっかりと退職金を用意して、辞めて貰いたい人全員に辞めてもらう。
辞めてもらうときに「お前らお払い箱だから」と言って、切ってしまってはダメなんです。例えば、辞めて欲しい人があと10年在籍したら退職金が1億円貰えるという状況にあるならば、私は「3億円渡すからすぐ辞めてくれないか」と話を持ちかけます。
役に立っていない人にどいていただくには、きちんとお金を払わないといけないんです。新しく家を建てる時に、前にあった家を強制的にどけたら遺恨が残ってしまうのと同じで、ちゃんと礼を尽くした上で、立ち退き料を払う必要があるんです。
名誉で支払うという方法も
津田 早期退職という制度が、もっと上手く機能すればいいんでしょうね。レコード会社の話で言うと、2000年代以降、早期退職を募ってどんどんクビを切ってきました。でも、変われないレコード会社に危機感がある人が辞めていって、本当は切りたかった人がみんな残ったというような話はよく聞きます。音楽業界に限らない話かもしれませんけど、そういう制度がうまく機能しないのは悪循環ですよね。
小飼 それはやはり退職金をケチったんじゃないですかね。あと、日本人というのはお金だけでは中々動かないので、一緒に名誉を渡すような形にすればよかったかもしれない。基準を明確にすれば名誉もアリだと思います。
米国だと、名前を建物などに付けるといった、名誉を支払う方法論が確立されていて、それで上手くいっています。日本には退職金をボンボン払って、「あとは残った俺たちが何とかしよう」と考える人があまりいない。