ストレスからユーザーを解放
――SaaS事業を始めた理由
――藤縄さんは、ロータス、マイクロソフトと、一貫してパッケージソフトのビジネスに関わってきたと伺っています。そもそも、なぜ、こうしたサービスを始めることにしたのですか。
藤縄氏:2つあります。1つは「時流」です。100%はないにせよ、企業のあらゆるソフトウェアがインターネットに出て行く時代が来ると考えています。
これは私自身がソフトウェアビジネスに取り組む中で認識したことでもありますが、原状のシステムに対して「ユーザーがストレスを感じている」という状況があると思います。
たとえば、ソフトウェアのアップグレードコストは非常に高価です。ライセンスがあっても、インストールの手間や移行のためのコストが必ず発生する。また、数千万円から億単位の導入費用がかかるのに、「稼動しない」「機能しない」「効果が出ない」といったケースがざらにあります。システムは、本の立ち読みのように中身を見て買うことはできません。
SaaSなら、気に入らなければやめてもいいし、メンテナンスもされている。しかも、ユーザーが何もしなくても品質が上がっていく。これはユーザーにとって大きな魅力ですし、何よりストレスを感じない、心地よいシステムの姿なのではないでしょうか。
――もう1つの理由というのは?
藤縄氏:インターネットをプラットフォームにするサービスが普及すると、サービス間連携の必要性が必ず高まってくるでしょう。従来型の情報システムで起こったことが、インターネットの世界でも本格化するはずです。
当社の親会社であるインフォテリアは、EAIやB2Bといったデータ連携を生業としている、いわば「つなぐこと」のプロフェッショナル。その我々が、入り口となるフロントのサービスも出していけば、SaaSの世界に広がりが出てくるし、おもしろいシステムを作れるのではないか――そう考えたのがもう1つの理由ですね。
グーグルでもヤフーでもなく、
セールスフォースでもオラクルでもなく
――データ連携をベースとして、フロントのサービスも提供する。そのインフォテリア・オンラインは、どのようなサービスを提供していきますか。
藤縄氏:当社のWebサイトに「世界中の情報をオンラインでつなぐ」というビジョンを掲載しています。ここに込めたのは、使っていて「楽しい」とか「わくわくする」といった感覚を大事にしたいという想いです。
振り返ってみると、Windows 95登場以前のPC黎明期、ユーザーは本当にわくわくしていました。新しいソフトをどんどんインストールして試していたと思います。そのころの「わくわく感」や「試してみたい」といった感覚はなくなったわけではなくて、今はインターネットの世界に移行してきています。
そうした感覚を持ちながら、どんなにシンプルなツールであっても、人と情報をつなぐ、便利で楽しいサービスにしたいと考えています。ユーザーが使ってみたいと思えるような、心地よいサービスを提供する。具体的なことはまだお話できませんが、それが今後、提供していくサービスのコンセプトになるでしょう。
――では最後に、今後の具体的な計画や目標があれば教えてください。
藤縄氏:発表直後には、「OnSheetの次は『OnDoc』や『OnPresentation』でもやるんですか?」との声もいただいたのですが、それは今のところまったく考えていません。
まず、OnSheetの課金ユーザーとして、20~30人程度の規模の中小企業を2年間で1000社獲得するのが目標です。それがビジネスの存続価値を図るのに、重要な指標になる。達成は決して難しくないと思っています。
OnSheet以外では、携帯電話対応を含むコンシューマ向け新サービスの開始と、法人向けサービスの拡充、海外進出の3つを柱に4月から取り組んできます。コンシューマ・法人と併せて、今後3年間で10数本のサービスを立ち上げる計画です。また、パッケージソフトでは難しかった海外進出も、SaaSであれば比較的簡単です。障壁は非常に低くなっていますから、積極的に取り組んでいきます。
将来的に目指したい姿は、「家族が知っているようなサービス」を提供する会社ですね。企業でも家庭でも、誰もが知っていて、みんなが使ってくれているというのは、大きなモチベーションになります。
そういった意味では、グーグルやヤフーではありません。セールスフォース・ドットコムやオラクル、SAPでもありません。コンシューマと法人ビジネスを両立させた、インターネット総合サービス企業が理想だと思っています。私の知る限り、この2つを両立させているのは、ソフトウェア業界におけるマイクロソフトぐらいしかありませんが(笑)。