ラップがくっつくのと同じ原理でLEDを接合
遠藤 ところでこのOKIの LEDヘッドには、エピフィルムボンディングという接合技術が使われていると聞きました。いったい、どんなテクノロジーなのですか?
荻原 ものすごく簡単に言えば、接着剤を使わずに異なる物質をくっつけるという技術です。発光部である「LEDアレイ」を、LEDを制御するドライバーICの基板上にくっつける際に使っています。
遠藤さんは「分子間力」をご存知でしょうか?
遠藤 ええ。食器にかけたラップがくっついたり、重ねたガラスのコップが外れなくなるといった現象のことですよね?
荻原 それです。表面が平らな物質同士をぴったりくっつけると取れなくなるという分子間力で、LEDアレイとドライバーICを接合する。
従来LEDアレイとドライバーICは、別々にLEDヘッドの基板上に取り付けて、両者を金のワイヤーで配線していました。
一方、エピフィルムボンディングでは、いったんガリウムヒ素の基板上にフィルム状のLED薄膜(エピフィルム)を作り、これをはがしてドライバーICの基板に置いて接合する(ボンディング)という手順を取ります。
遠藤 シリコンウェハーの表面はもともとナノメーターレベルで平らですよね? その上で作った半導体も表面の凹凸がほとんどないから、分子間力で結合しやすいと。
荻原 確かにLED薄膜やドライバーICの接合面は平らなんですが、LED薄膜が2マイクロメートルの厚みしかないため、薄膜をどうやってはぐか、どうやってハンドリングするか、きちんと張り付けられるのかといった点が難しい。
また、LEDとドライバーICでは、物質の特性や作り方がまったく違うため一緒にするのも難関でした。例えば、LEDを作る際の基本的な物質が、実はドライバーICのシリコン基板では不純物になってしまうのです。
LEDとICドライバーをなんとか一体化したい。これは弊社として、念願というか、長年の夢だったんです。研究を続けてきた結果、素材の問題や、半導体のハンドリング技術を確立して、ようやく世界で初めて量産化に成功できたわけです。
遠藤 量産化の実現まで、簡単ではなかったと。
荻原 簡単ではありませんでした。新型LEDヘッドの初歩的なものを完成できたのは2002年10月くらいになります。当時、文部科学省のナノテクノロジー総合支援プロジェクトに参加していた広島大学の実験設備をお借りして何度も実験を繰り返しました。
LED薄膜を何度はがしても壊れてしまう。泊り込みで研究を重ね、最後になんとかLEDを光らすことができたときには本当に嬉しかった。実は、そのLEDが初めて光った日は、私の誕生日だったんです。