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松岡美樹の“深読みインターネット” 第2回

「ブクマ・ジャーナリズム」はマスコミを屈服させるか?(後編)

2007年11月22日 20時00分更新

文● 松岡美樹 イラスト●さとうゆり

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第五の権力=CGMがマスコミをチェックする


 ブログが登場した初期には、記者ブログがやたらに炎上した。また当時はネット上で絶えずヒステリックなマスコミ批判が続いていた。だがこれはWeb 2.0の黎明期であるがゆえの現象ではないかと思う。

 マスメディアは権力のチェック機構とされ、第四の権力と呼ばれてきた。だが立法、行政、司法の三権はチェック・アンド・バランスの関係にあるにもかかわらず、第四の権力であるマスコミはある意味野放しだった。人々は買わないことでしか、新聞やテレビをふるいにかけられなかった。

 だがインターネットが水道のように行き渡った今では、ネットユーザーはCGMを使ってマスメディアをチェックできる。

 人々は報道機関から得た情報をもとに、あるときは別の解釈をする。またマスコミの行き過ぎた取材やセンセーショナリズムを読み取り、CGMに上げる。CGMは既存メディアほど(身の回り以外の社会的な)一次情報を取ってくる比率は高くない。だが既存メディアからネタを仕入れて加工する分析&チェック機能に長けている。

 するといったい何が起こるか? 権力の食物連鎖の頂点にいたマスコミ人は、他者から直接的に評価・審判を下されることにまだ慣れてない。それどころか「われわれは大衆を啓蒙し、教え導く使命があるんだ」と考えているフシさえある。コンシューマの批判を取り入れ、コンテンツ作りに生かすメンタリティーなんて育ってない。

 だから彼らはネットユーザーにネガティブな評価をされると、過剰反応しがちだ。典型が記者ブログである。特に2004年から2005年にかけ、城は次々に燃え落ちた。ではなぜ記者ブログが炎上しやすいのか? 紙の新聞とちがい、ブログ上では記者と読み手がダイレクトに、かつ双方向でコミュニケーションを取るからだ。

 また一方のネットユーザーにしても、今はまだCGM(特にブログやブクマ)というマスコミによく効くクスリを手に入れたばかりだ。ややもするとその万能感に酔い、はしゃぎすぎる傾向がある。だから彼らのマスコミバッシングは必要以上に過激になりがちだ。

 だがそれも時間の問題だろう。マスコミ人もネットユーザーも、過去の炎上事例を消化しつつあるように見える。その証拠にこの1年ほど、冷静で客観的な意味のある批判や、批判への対応が目立つようになった。もちろんまだ一部に見られる芽にすぎないが、いずれはネット社会全体に広がっていくのだろう。



マスコミとCGMは相互補完の関係になる


 マスコミは取材力を生かし、一次情報を掘り出す。CGMはそれらを取り込み、プロにはないものの見方やユニークな分析を提供する。従来ならマスコミが一方的に行っていた情報の価値判断も、CGMを使ってネットユーザーがやるようになる。

 かくてCGMとマスメディアは足りない部分を補い合い、相手の批判を取り入れながら進化する相互補完の関係になる。

 ネットは新聞を殺すのではなく、たがいがたがいを生かし合うのだ。


松岡美樹(まつおかみき)


新聞、出版社を経てフリーランスのライター。ブロードバンド・ニュースサイトの「RBB TODAY」や、アスキーなどに連載・寄稿している。著書に『ニッポンの挑戦 インターネットの夜明け』(RBB PRESS/オーム社)などがある。自身のブログ「すちゃらかな日常 松岡美樹」も運営している。

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