現行法でも抑止力はある
── 違法ダウンロードは増えつつあるし、「法改正をしないと歯止めが利かない」という権利者側の意見にも一理あるのではないでしょうか?
津田 違法ダウンロードの抑止が目的だったら、現行法でも十分対応できるはずです。送信可能化権の侵害でアップロード側を逮捕したケースは数多くありますし、実際に今年の頭からレコード協会が違法に着うたがアップロー ドされているサイトに警告メールを出したことで、大部分の違法着うたサイトは潰れました。
特に違法着うたサイトはシンプルなアップローダー形式の体裁になっていることが多いので、違法サイト監視ソリューションなどを利用すれば、潰れたあと新しいサイトが出てきても、しらみ潰しにしていくことは比較的容易だと思います。
── “違法ダウンロードも違法”と法律で定められれば、やっぱり抑止力になりませんか?
津田 今回の法改正案では、利用者への罰則規定はありません。だから違法コンテンツのダウンロードが“違法”ではあっても刑事罰に問われることはないのですが、ダウンロードによって損害を受けたとする権利者側が、ユーザー個人個人に対して民事訴訟を起こすことはできます。
過去に 米国でRIAA(全米レコード工業会)が、違法ファイルをダウ ンロードしたユーザーを相手に和解目当ての民事訴訟を起こしたことは何度もあります。動画の話でいえば、現在はシンガポールの動画配信サイトOdexが、日本のアニメを共有するBitTorrentユーザに3000ドル超の賠償金を請求するといった動きもあります(参考リンク)。
日本ではまだダウンロードした個人に対する民事訴訟は起きていませんが、2005年に日本レコード協会はファイル交換ソフトを使って音楽を交換していたユーザーに対する損害賠償請求を起こして和解に至ってます(参考リンク)。この法改正が行われた場合、ダウンロードユーザーに対して同じような民事訴訟を行っていく可能性は十分あるでしょう。
世界中の著作権法を比較しても、ダウンロードする側を違法に問えるというのはまだまだ例が多くありません。そもそも今回の法改正案は違法性の定義があいまいなうえ、 罰則がないので実効性の点で見ても疑問が残ります。要するに今回の改正で“得をする”のは誰なんだ、という話ですよね。
あとはパブリックコメントを残すのみ
── もし著作権法を改正するとしたら、今後、どういうプロセスで決まっていくんでしょうか?
津田 過去の例を見ると、小委員会でまとまった結論というのは、そのまま法制問題小委員会に上がり、文化庁や国会で承認されていくということが通例です。私的録音録画小委員会ではこの議題について続けて話し合われる雰囲気ではないので、もう実質的に後がないところまで来ているでしょう。
ただ、小委員会を通った後には、ユーザーや企業などの意見を反映させるために、パブリックコメントを募集します。もしそのパブリックコメントで法改正反対の意見が多ければ、官庁側もそれを押し切って通すことは、多少はやりにくくなるはずです。
この問題に対して十分な議論を尽くすためにも、“ダウンロード違法化”に反対するユーザーの人は、ぜひパブリックコメントを送ってもらいたいと思います。
筆者紹介-津田大介
インターネット媒体やビジネス誌を中心に、幅広いジャンルの記事を執筆するライター/ITジャーナリスト。音楽配信、ファイル交換ソフト、CCCDなどのデジタル著作権問題などに造詣が深い。音楽配信関連の話題を扱うウェブサイト“音楽配信メモ”の管理人としても知られる。この8月に小寺信良氏との共著で『CONTENT'S FUTURE』を出版。
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