curlybot
もうひとつのTUIプロトタイプ「curlybot※2」は、自身の物理的な動きを記録し、それを再現する教育用の玩具である。
※2 「curlybot」のプロジェクトは、純粋で最もシンプルな形態のTUIを追求したということのほかに、教育のためのコンピューター玩具の応用という点でも意義がある。カーリーボットにはインタッチで開発されたフォース・フィードバック技術が組み込まれており、フィル・フライとヴィクター・スーの協力を得て、'99年に最初のプロトタイプが誕生した:Frei, P., Su, V., Mikhak, B., and Ishii, H., curlybot: Designing a New Class of Computational Toys, in Proceedings of Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI '00) , (The Hague, The Netherlands, April 1-6, 2000), ACM Press, pp.129-136
記録ボタンを押し、ユーザーがカーリーボットをつかんで平面上で動かすと、カーリーボットはその軌跡をメモリーに記録する。今度は再生ボタンを押して放すと、カーリーボットは休止や加速、ユーザーの手の震えまで含めた複雑な動きを繰り返し再現する。このデバイスは、子供たちの幾何学的な思考を助けると同時に、情緒的なジェスチャー表現を支援する。
例えば、ある子供が、カーリーボットを2回前後に動かし、それから左右に2回振った直後、その動きを再現するカーリーボットに対して「ぼくのこと、好きかい?」と問いかけた。カーリーボットはその動作原則に従って前後に2回動くが、子供はこの動作を「イエス」ととらえ、続いて発せられた「じゃあ、○□君は?」の問いかけでは、カーリーボットが左右に2回頭を振って「ノー」と応える──このような光景が、子供のためのワークショップで見られた。ほかの子供もすぐそれに倣い、数々のストーリーテリングをカーリーボットを使って実演してくれたのだ。
インターフェースの観点から見ると、カーリーボットも入力と出力の境界がまったく存在していない。タンジブルなカーリーボットとその動きが物理的な情報表現であり、同時にジェスチャーを記録するための入力機構でもある。教育的な観点からは、カーリーボットが子供たちの数学的な概念理解のために新しい手法を提供している。子供たちがカーリーボットを直接つかんで動きを教えることにより、身体の動きと高位の概念との間に強い関係が生まれ、それが学習を助ける。例えば位相幾何学がその例である。10センチ直進し、右に90度回転するという操作を4回繰り返すことで正方形を描けるといった繰り返しの概念の習得。LOGO言語※3におけるタートル・グラフィックスと同様の役割を、コンピューター・プログラミングという手法を用いず、単純に玩具を動かすだけで体験できるのだ。
※3 子供の数学的思考能力を伸ばすため'80年代に開発されたコンピューター言語「LOGO」では、画面のX/Y座標指定ではなく、タートル(亀)と呼ばれるカーソルを基準に回転角度と進行距離を命令して図形を描く「タートル・グラフィックス」が備わっていた。
入出力一体型TUIは情報の表示に動きを使う。しかしこれでは、より複雑かつ多様な情報表示に応えるには限界がある。次回、この限界を超えるため、出力にビデオ・プロジェクションを加えたTUIの例を紹介したい。
(MacPeople 2005年11月号より転載)
筆者紹介─石井裕
米マサチューセッツ工科大学メディア・ラボ教授。人とデジタル情報、物理環境のシームレスなインターフェースを探求する「Tangible Media Group」を設立・指導するとともに、学内最大のコンソーシアム「Things That Think」の共同ディレクターを務める。'01年には日本人として初めてメディア・ラボの「テニュア」を取得。'06年「CHI Academy」選出。「人生の9割が詰まった」というPowerBook G4を片手に、世界中をエネルギッシュに飛び回る。
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