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Dataiku Data & AI Day 2023レポート

工場・研究の現場担当者がデータ・AI活用で躍動 ― カネカとENEOSマテリアルのDataiku事例

2023年11月02日 08時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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 “Everyday AIのためのプラットフォーム”を標榜するDataiku(データイク)は、2023年10月26日、ユーザーイベント「Dataiku Data & AI Day 2023」を開催した。同社は、データ活用やAI・機械学習に必要な機能を単一プラットフォームでカバーし、ビジネスユーザーでもノーコードで利用できる「Dataiku」を提供している。

 本記事では、イベント内で登壇したカネカとENEOSマテリアルによる、Dataikuの活用事例を紹介する。両社に共通するのは、特定のビジネスドメインの専門知識を備えているがデータ活用の知識のない現場担当者が、データやAIにより業務改革を推進していること。さらにDataikuを共通プラットフォームとして、組織やプロジェクトをまたいだデータ活用を実現していることだ。

カネカ:ドメイン知識を持つ現場の専門家を「高度データ活用技術者」に育成

 「カネカの生産現場におけるデータ/AI活用の取り組み」というセッションに登壇したのは、カネカの信頼の生産センター 生産DX・CNグループ 生産DX・CNチームに所属する水野勇渡氏だ。

カネカ 信頼の生産センター 生産DX・CNグループ 生産DX・CNチーム 水野勇渡氏

 1949年創業(創業当時は鐘淵化学工業)の総合化学メーカーであるカネカは、現在、モノづくり領域のDXとカーボンニュートラル(CN)を一体化した「新たな価値の創出」と、デジタル技術を駆使した生産革新と全社のデジタルプラットフォームの高度化による「Work Cultureの変革」を軸とした、生産DXに取り組んでいる。

 カネカの生産DXを支える基盤の一つはAIプラットフォームだ。データを主軸に構築されたこのプラットフォームは、全社共通で活用でき、各課の主体的な取り組みを促進する。ここにDataikuが採用されている。

DXを支えるAIプラットフォーム

 各課に散らばった製造データをこのAIプラットフォームに吸い上げ、データを加工・クレンジングすることで、AIモデルを構築する。このモデルは業務に組み込んだり、他システムと連携させたり、見える化したりすることができる。

 AIプラットフォームにDataikuを選択した理由として、水野氏は「各課ごとにAIの開発を進めると莫大なコストと期間がかかる。データ加工やAIモデル作成などは共通して使用する機能なので、単一プラットフォームを全社展開することで、コストと期間を半分以下に抑えられる。また全社員が共通して使えることで、各課が主体的にDXを推進できる」と語る。

なぜDataikuのAIプラットフォームを選択したか

 生産DXを支えるもう一つの基盤は、ドメイン知識を持つ生産現場の人材に対する「高度データ活用技術者」としての教育だ。高度データ活用技術者とは、工場や事業の課題を自ら抽出し、製造データを分析して、解決できる人材を指す。

 教育プログラムは、OFF JTとOJTの2部で構成している。各現場から実際の適用を想定したデータ活用のテーマを持ち寄り、学んだことをもとに、Dataikuも利用しながら実践する形をとることで、データ活用の意識付けや継続的なビジネスの創出へと繋げている。このプログラムにより、データ活用に関する単語も分からないようなレベルから、サポートを受けながらPoCを実施できるレベルにまで達することができ、これまで100人以上が参加しているという。

高度データ活用技術者教育の成果、サポートを受けながらPoCを実施できるレベルに

 こうした生産DXの基盤をもとにデータとAIを活用した事例として、製造チームによる「樹脂プラントの連続乾燥設備における最適運転」の取り組みが紹介された。

 製造チームにおけるDXのミッションは、ムダの削減とオペレーションの標準化であり、かねてから無駄な運転が発生していた連続乾燥設備に目を付けた。この設備は、上流工程で生成された中間体から乾燥体を得るもので、中間体の供給量や外気温、排気湿度などの制約を受けやすく、こまめな手動調整が必要となる。調整は属人化され、かつ常時監視することが困難という課題を、基盤チームとともに解決する。

 具体的には、AIに温度設定から中間体の供給量を予測させ、その予測値をもとに目的に沿った最適な運転条件を算出させることで、属人化からの脱却を試みた。まず計器からロガーソフトを通じてAIプラットフォームにデータが蓄積され、そのデータを前処理したのちAIモデルが予測を実行。算出された最適条件を制御システムなどに書き込む。

樹脂プラントの連続乾燥設備における最適運転システムの構成

Dataiku上での最適運転システムのフロー

 結果、誰もが最適運転できるようになったことに加えて、年間100トンの増産効果も得られたという。水野氏は、プロジェクト成功のポイントを「Dataikuを主軸とした一つのプラットフォームで完結できたこと、そして、ドメイン知識を持った製造チームと基盤チームが協業して課題に取り組めたことだ」と強調する。

 カネカは、今後も高度データ活用技術者の育成を継続するとともに、全社員対象のDXリテラシー教育も実施、さらにAIプラットフォームを、工場や地域をまたぐ共通基盤へと拡張していく予定だ。

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