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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第94回

〈後編〉ジャンプTOON 統括編集長 浅田貴典さんロングインタビュー

縦読みマンガにはノベルゲーム的な楽しさがある――ジャンプTOON 浅田統括編集長に聞いた

2023年10月29日 15時00分更新

文● まつもとあつし 編集●村山剛史/ASCII

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マンガ表現はすでに「スマホの普及」で変化を起こしている

―― 従来の横開きマンガとの相乗効果を図るといったことは考えていますか?

浅田 正直に言うと、横開きマンガはそれ自体でうまくいっていますので――つまり、横開きマンガもスマホの普及に合わせて、変化してきています。

 たとえば、スマホ普及前の『DEATH NOTE』などを見ると、少年ジャンプという雑誌のサイズにいかにリッチな絵を描いて読者に見てもらうか(に注力している)。あのサイズだからこそつぎ込める情報量があり、それがヒットにもつながっていたわけです。

 その後、マンガアプリが発達することで、そこで連載される作品のコマ数は減りました。また、見開きという表現がスマホでは効果的ではないということで、単純な見開きではなく、右ページを見たところで情報として完結させてから左ページに行く、といったような変化が起こっています。

 さらに横開きマンガでは、特定の電子書店だけで売れるタイプの作品というのも出てきた、と思います。これはジャンプに限らずマンガ界全体で。特に少女向けは、「めちゃコミック」や「コミックシーモア」などの女性向けが強い電子書店で売れることを念頭に作っていくといった動きが出てきましたね。

 かつ、ブラウザで読んでもらうことを前提とする電子雑誌サービスは、現在かなりローコストで作ることができるので、参入も増えて競争が激しくなっています。

 以上が、横開きのマンガの現状だと思います。この先、縦読みマンガを巻き込んでどうなるかは……変数が多すぎて、正直読み切れません。

近年、最もマンガ表現に変化を起こした事象は、「スマホでマンガを読む習慣が根付いたこと」だという

4コマという表現は死んでない

―― 先ほど『ぼっち・ざ・ろっく』を例に挙げられていましたが、原作は4コマ作品にも関わらず、スピンオフは見開きマンガで展開されています。同じように縦→横、あるいはその逆なども今後はあり得ますよね。

浅田 4コママンガという表現形態で、魅力的なキャラクターは絶対に表現できます。そして魅力的なキャラクターがあれば、それをベースに横開きのマンガを作ることだってできるということを示してくれています。

 そして縦→横の変換で言えば、歴史的にLINEさんやcomicoさんが実施しています。comicoさんの『Re:LIFE』などはその最初期を切り拓いてくれました(参考:スマホ時代の無料コミックのデファクトとなるか?――comicoの戦略を聞く)。ピッコマさんからも、『俺だけレベルアップな件』がKADOKAWAで展開されていたりします。

 我々にとってメルクマール(指標)だったのは、『氷の城壁』の横開きマンガ化です。これが10月にコミックス5巻が発売されているのですが、紙と横開きの電子版をあわせて、累計56万部を超えています。

 これによって横にして持っておきたい=読み返したいというお客さんが明確にいたことが可視化されましたので、その方向性も戦略としてとっていく可能性があると思います。

―― ありがとうございました。

 アプリのリリース前ということもあり、ジャンプTOONの詳細な形はまだ語られることはなかったが、「雑誌型と書籍型の間にピンを打つ」という構図は明確に示されたインタビューだった。

 また、これも対立構造で語られることの多い縦読みと横開きについても、全社的にはトータルでの勝ち筋を探っていくことが示された。「数年で結果が出るものではなく、腰を据えて取り組んでいく」と浅田氏はインタビューの最後に述べた。ジャンプすなわち日本のマンガの新しいチャレンジに注目していきたい。

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