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佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第111回

デカいだけではない!? 最近増えているトランスポータブルなオーディオの魅力

2022年02月14日 13時00分更新

文● 佐々木喜洋 編集●ASCII

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 ウォークマンのフラッグシップ機がおよそ5年ぶりに刷新され、新モデル「NW-WM1ZM2」と「NW-WM1AM2」が発表された(関連記事)。

 上級モデルの“WM1Z”(NW-WM1ZM2)は、無酸素銅・金メッキシャーシ採用で実売約40万円という価格。さらに先代を上回る約490gという重量にも驚かされる。いくら音が良くても、ポータブルの用途には重すぎるのではないかと思うかもしれない。しかし、最近の市場を眺めると、これを上回る600g、900gのデジタルプレーヤーも登場している。

 ただ、これらの機種は持ち運ぶことが目的の“ポータブル”ではなく、必要なら持ち運びも可能であるという意味の“トランスポータブル”という言葉が用いられる。トランスポータブルはトランスポート(transport)とポータブル(portable)を組み合わせた造語だ。

ACRO CA1000

 こうしたトランスポータブルのプレーヤーに当たる製品としては、Astell & Kernの「ACRO CA1000」が挙げられる。ACRO CA1000は、MQAデコード可能な「ES9068AS」を4基搭載して徹底的にノイズシールドしている点では従来の同社のハイレゾプレーヤーに似ているが、その大きさと重さが圧倒的だ。フラッグシップ機の「A&Ultima SP2000T」の重量が309gであるのに対して、ACRO CA1000の重量はなんと919gもある。

 大きいぶんアンプも強化されており、6.3mmの標準プラグも搭載されている。主に家でヘッドホン再生を楽しむ人でも、バッテリーを内蔵するため、書斎の机やリビングなど自由な場所に、手軽に設置できる気軽さがある。液晶ディスプレーは据え置き設置で使いやすいチルト機構を持っているのもユニークだ。プレーヤーを単に机に置いた場合とは一線を画す使いやすさがある。

 音の作りもイヤホン再生向けのハイレゾプレーヤーのような繊細さがありつつも、ヘッドホンやスピーカーでの使用に向くような空間的な広がり、奥行き感の豊かさに重点が置かれているように思える。透明感の高さも特筆できるが、これを一体型ではなく、単体のヘッドホンアンプ、USB DAC、音楽用パソコンなどで構成したら金額の面でも、使い勝手の面でも大変だろう。

M17

 また、昨年発売された「Fiio M17」も有力なトランスポータブルのプレーヤーだ。こちらも重量は610gあり、豪華なスペックのハイレゾプレーヤーである。ホームオーディオ向けの「ES9038Pro」をデュアル搭載し、やはりホームオーディオ向けの「THX AAA-788」をアンプとして搭載している。また、これもホームオーディオのようなDC入力の電源アダプターまで備えている。こちらも6.3mmの標準プラグを搭載している。家で使うことに特化したように見えるが、M17もバッテリー内蔵で外に持ち運べる。

DMP-Z1

 少し前の製品だが、ソニーの「DMP-Z1」もトランスポータブルプレーヤーの仲間と言ってよいだろう。約2.5kgという重量でいながらバッテリーを内蔵しており、気軽に家の好きな場所に置いて使える。ただ、バッテリーを搭載したのは可搬性だけではなく、クリーンな電源を供給できる点に主眼を置いている。キャリアブルという言葉も使われるが、このサイズになると持ち運びは不可能ではないが、外に持ち出そうとする強者は少ないだろう。

EM5

 昨年のオンラインヘッドフォン祭にも登場した「Shanling EM5」はバッテリー非搭載だが、この仲間に入れてもいいだろう。なぜかというとEM5は、ヘッドホンアンプとDACだけではなく、プレーヤー機能を有しているためだ。一体型の手軽さもまた、このジャンルの特徴であると言える。

 実のところポータブルオーディオの世界では「トランスポータブル」という言葉は昔からあった。それは「こんなものは持ち運べないだろう」と大型のプレーヤーを揶揄する言葉でもあった。しかし、この1~2年は家ごもり需要が高まったり、ハイレゾストリーミングとの相性の良さもあって、こうした製品が積極的に増えてきている。デジタルオーディオプレーヤー自体の進化も著しい。かつてのミニコンポのように、こういった製品がホームオーディオのシステムを食っていく状況もそのうち現れるかもしれない。

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