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火山大国「日本」のエネルギー問題を救えるか!?

クリーンエネルギーで再注目の北海道電力「森地熱発電所」を独占取材

2022年01月10日 10時00分更新

文● 藤山哲人 編集●北村/ASCII

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地熱発電所は博打!?
地熱貯留層(フラクチャ)に当たればラッキー!?

 地熱発電がどんなものがわかったところで、なぜ日本は地熱エネルギーのポテンシャルが高いのに活用されていないのだろうか。

 北海道電力株式会社 火力部 森地熱グループリーダーの中治 佳史さんによれば「熱源があるだけでは地熱発電はできない」というのだ。熱源以外に必要なものは次の2点だ。

熱源以外に必要なもの
地下水などの水源 まず欠かせないのが熱源に流れ込む地下水など。これが地熱貯留層にたまり熱源で温められてはじめて蒸気となる。地熱貯留層とは、マグマなどで熱せられた岩盤のこと。
熱源で加熱された蒸気が噴出する岩の割れ目(フラクチャ) 熱源で温められた蒸気は、地熱貯留層の岩の割れ目を通って噴出する。地熱発電用の蒸気は、この岩の割れ目(フラクチャ)を掘り当てなければならない。

 このように熱源、水源、岩の割れ目がそろって初めて地熱発電所が建設できるという。技術の発展で熱源と水源は地表からでもある程度目星を付けられるようになった。しかし「岩の割れ目(フラクチャ)」を見つける技術はいまだ確立されていないというのだ。アタリを付けて岩の割れ目を狙って地表から数キロ掘削を行なうが、なかなか命中しないのというのだ。

これまでに数十本近くの掘っているという。現在利用している生産井だけでも10本ある

石油の掘削と同じように地中を掘削する

地中を掘り進めるドリル(ビット)

 それゆえ地熱発電所の建設の前に、約5年の調査期間が掛かる。机上の計算だけでなく実際に掘削してみて熱源や水源、そして岩の割れ目の存在も確認するのだという。もちろん1発で当たることは少なく、数kmの掘削を行ない確信を得られた時点でようやく建設開始になる。

 しかも建設開始前には環境アセスメントをして、たいてい近くにある温泉協会や住民などへの説明、自然環境への影響などについても調査しなければならず、これに3~4年掛かる(期間については見直しが検討されている)。

地熱発電は発電所建設に至るまでの調査期間が長く、経費と金利が運営の重荷になっている

 さらに実際の建設工事に準備工事も含め3~4年かかるため、最低でも11年長いと13年もかかることになり、建設コストも時間も膨大になってしまうというのだ。森地熱発電所も調査で何本も掘削して、1967年に調査開始して着工が10年後、運転ができたのは15年後の1982年だったという。とにかく「岩の割れ目」に当てるのが博打に近い作業らしい。

 森地熱発電所の話からそれるが、先に少しだけ登場したEGSは、この岩の割れ目を人工的に作るという。工法はいろいろな技術があるので割愛するが、NEDO 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構によれば、日本がEGSを導入しないのは未成熟の技術で調査以上にコストがかかるためということだ。

今後の課題のひとつはメンテナンスを簡易化する技術

 「ようやく発電所の運用を開始しても手放しで喜んではいられない」と同社の火力部 森地熱グループの谷口 智史さん。なぜなら地下から上がってくる蒸気にはマグネシウムなどが含まれているので、生産井の内側にこれらが付着し通りが悪くなってしまうためだという。

 そのため生産井内部の付着物を定期的に削り取らなければならないという。掘削と同様に何kmにもおよぶ生産井の内部を削るのでこれも手間とコストがかかるのだ。中治さん曰く「発電出力の大きい火力発電所と比べ、発電出力に対してのメンテナンス費用は高くなりやすい」というのだ。

メンテナンスにも手間がかかるのが地熱発電。技術の進歩でメンテナンスフリーになる時代は来るのか?

 生産井をメンテナンスしても岩の割れ目が詰ってしまうこともあるという。こうなると得られる蒸気量が減ってしまうため、発電の出力も落ちてしまう。森地熱発電所も当初は5万kwを出力していたが、至近年では2.0万kw以下となっている。元の出力を維持するためには、新たに熱源を掘削する必要があり、これまでどおりまた時間とお金が必要になるというわけだ。

地熱発電は温泉にまったく影響がでないのか?

 森地熱発電所から車で数分のところに温泉が点在する。冒頭に「温泉業界からの反発」があると記したが、結論から言うと「地熱発電所による温泉への影響はない」。少なくとも森発電所では運用開始当初から濁川温泉への影響を調査しているが「大きな変化なし」というエビデンスがある。

 そもそも地熱発電の蒸気は地下数kmから取り出すもので、数百mも掘れば出てくる温泉とはまったく別の水源なのだ。また森地熱発電所の出力が半減したのは、岩の割れ目が詰まり始めたものとされており、温泉の熱源そのものが減ったわけではない。

発電所の生産井の周りに点在する温泉群

 取材帰りに何軒かの温泉に入ってきたが、硫黄泉独特の匂いと湯上りのツルツルがたまらないいい温泉。温泉組合と発電所が衝突している気配もまったくなく、むしろ「地熱の里」として観光資源にしているほどだ。

「地熱の里」として森地熱発電所を観光資源にしているほど。看板は、トマトとキュウリが温泉につかっている

 また還元井に戻す水もまだ温かいため、この熱で川の水を温めビニールハウスの熱源として利用している。結果、極寒の北海道なのに夏野菜のトマトとキュウリが名物だ。とくにトマトにいたっては、春と秋の二期作をしているのだ。筆者が入った温泉では「トマト何個でも自由に持って行っていいからね!」と観光客にもサービスしていたほどだ。

連なるビニールハウスの中では、トマトの二期作とキュウリが栽培されている。その熱源は発電所が地中に戻す還元水

森地熱発電所のこれからと地熱発電所のこれから

 地熱のポテンシャルは世界第3位ながら、地熱発電量は世界10位という日本。古くからある地熱発電だが、まだ解決できない技術的な問題も多くあるようだ。しかし今回の取材をしてみて、その未来は暗くなく、二酸化炭素排出量削減の大きな礎となるだろう。

 また森地熱発電所のバイナリー発電所の建設工事着手、そして2023年11月からの運用・試験でより効率的に地熱からエネルギーを取り出せるようになるのは確実だ。

北海道電力株式会社、JFEエンジニアリング株式会社、東京センチュリー株式会社の3社で立ち上げる「森バイナリー発電所」。農家用の温水とは別系統の還元水を使い、低温で沸騰する熱媒を使ったバイナリー発電をする(赤い点線枠内を拡張)

【取材協力】

書いた人──家電ライター/藤山 哲人(ふじやま てつひと)

 「マツコの知らない世界」(加湿器、扇風機、携帯充電器、テーブルタップ、ロボット掃除機、調理家電と番組史上最多の6回出演)「ゴゴスマ」(生番組10回)「メーテレドデスカ!」(10回)「NHKごごナマ」(生放送2回)「カンテレ ワンダー」(5回)「HBC 今ドキ!(生中継8回)」「ラヴィット!」(10回以上)はじめ、朝や昼の情報番組に多数出演し、家電の紹介やしくみ、選び方や便利な使い方などを紹介。

 独自の測定器やプログラムを開発して、家電の性能を数値化(見える化)し、徹底的に使ってレビューするのをモットーとしているため「体当たり家電ライター」との異名も。現在インプレスの「家電Watch」や「文春オンライン」「現代デジタル」やサイゾー「ビジネスジャーナル」、「mybest」や「毎日新聞デジタル」などのWeb媒体をはじめ、毎月ABCラジオなどで連載やコーナーを持っている。

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