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火山大国「日本」のエネルギー問題を救えるか!?

クリーンエネルギーで再注目の北海道電力「森地熱発電所」を独占取材

2022年01月10日 10時00分更新

文● 藤山哲人 編集●北村/ASCII

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 日本経済やぼくらの生活を支える基盤「電力」が足りない。大手電力会社は2022年2月の電気代値上げを発表し、昨年2月に比べ一般家庭でおよそ1500円の値上がりになるとしている。

 また昨年冬のニュースで報じられたように電力供給が切迫し新興電力会社の「需要変動型プラン」(大手の発電所の余剰電力があるときは電気代が安くなり、余剰がないときは高くなるプラン)では月の電気代が10倍になったという家庭も。高騰した電気代をすべて一般家庭に転化できないとして、新興電力会社が持ち出しをしたところ負債が大きくなりすぎて倒産したところもある。

夏は35度の気温を25度に下げるためのエアコンのエネルギーは-10度分でいい。しかし冬は0度→25度に上げるため単純に考えても夏の2.5倍のエネルギーが必要。これが冬の電力が切迫する理由だ(北海道は除く)

 2022年の冬も電力需要は寒波で切迫している。今年の電力不足は昨年を上回るとして経済産業省も危機感を募らせている。その原因は次の4つだ。

  • 東日本大震災から原子力発電が稼働していない(停止中は燃料棒の冷却や停止の維持に、逆に大きな電力を消費してしまっている)
  • 二酸化炭素削減が足かせになり火力発電で不足分を補うのが難しい
  • LNG(液化天然ガス)を中国が爆買いして価格が高騰・入手困難に。またパナマ運河の渋滞で中近東からの輸入が滞っている
  • 今冬は例年以上の寒波が予測されている

電力用の燃料としてLNGは世界中で奪い合いになっている。さらに中国の発展で消費量が拡大し、コロナ禍で通販の貨物船がパナマ運河で渋滞してしまいLNG運搬船もそれに巻き込まれている

 火力発電所というと石油を燃料にしていると思われがちだが、現在は全発電所の中で石油火力発電はわずか2%。水力発電の1/3以下だ。かたや太陽光発電がここ10年で爆発的に普及したが、実は電力の8.5%しか満たせないのが実情だ。

 直近の電力は、石炭とLNG、もしくは原発再稼働で電力不足をまかなうしか方法がない日本。しかし日本は世界でも稀に見る火山王国で、全国各地に温泉がある。そんな地熱を有効利用した「地熱発電所」を調べてみた。

「火山大国日本」と呼ばれている割には……
日本の地熱埋蔵量は世界3位でも発電量では世界10位

 まずは日本がどのぐらい地熱エネルギーを有しているのかを押さえておきたい。日本は世界でもまれにみる火山大国。日本全国の温泉地でのんびりできる一方、ときおり発生する地震で大きな被害を受けている。この日本の地下に溜まっている熱量ランキングは世界3位!

世界の地熱資源量
順位 国名 資源量 (万kW)
1位 アメリカ 3000
2位 インドネシア 2779
3位 日本 2347
4位 ケニア 700
5位 フィリピン 600
6位 メキシコ 600
7位 アイスランド 580
8位 ニュージーランド 365
9位 イタリア 327
10位 ペルー 300

出典:資源エネルギー庁「総合資源エネルギー調査会資料 2016年6月」

 これだけを見ると「原発が再稼働できないならば、地熱発電で代用できない?」と思ってしまうが、世界的に見ると日本の地熱発電所の導入は遅れている。発電量で見ると世界ナンバーワンはアメリカで2位のフィリピンの1.5倍、続けてインドネシアやメキシコなどがランクインするが日本は10位だ。

地熱エネルギーの埋蔵量が多いのに活用されていない日本

 エネルギーのポテンシャルが高いのに、日本の電力需要のわずか0.2%が地熱であるに過ぎない。その原因のいくつかは1990年代後半から一部地熱発電所の促進の打ち切りや、熱源が主に国立・国定公園内にあるため環境省による開発規制などがあったためだという。それ以外にも温泉業界からの反対なども少なからず影響している。

 それまでの基礎研究では日本の地熱発電の技術は世界と肩を並べるレベルにあったという。実際に海外の地熱発電所では、三菱重工、東芝、富士電機の日本製発電機(地熱発電用タービン)が採用され世界シェア70%を占めているのだ(出典:NEDO再生可能エネルギー技術白書「第2版」独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構編)。

 エネルギーのポテンシャルも高く、技術もあるのになぜ日本では地熱発電所が普及していないのだろう?

地熱発電所は大きく3タイプだが
うち1つを日本が採用しないわけ

 日本は世界をリードできるだけの地熱量と技術を持ちながら、現状で世界に遅れを取っているのはなぜだろうか? それを知るためには、ちょっとだけ地熱発電のしくみを知っておきたい。

 地熱発電所は大きく分けると、フラッシュ型、バイナリー型、EGS型(これにも細分されたタイプあり)の3タイプに分けられる。ただ発電効率の違いでフラッシュ型は標準型の「シングル」と高効率の「ダブル」に分けられている。

地熱発電所の種類

  • フラッシュ型
  • バイナリー型
  • EGS(Enhanced Geothermal System)型

【フラッシュ型】

 フラッシュ型で一番簡単な地熱発電は、シングルフラッシュ発電。これは地熱+蒸気のある部分まで掘削し、そこから噴き出す蒸気の圧力によって蒸気タービンを回転。そこに直結されている発電機を回転させることで電力を発生させるというもの。

 ダブルフラッシュ型は発電機に直結された蒸気タービンがあり、地中から取り出した高圧蒸気と低圧蒸気を取り出し、蒸気タービンに送り込むことで約20%ほど発電効率が高くなる。

地中から噴出した蒸気は、蒸気と熱水に分離され蒸気のみをタービンに送る

ダブルフラッシュはセパレータの熱水を減圧してさらに蒸気を取り出す。「減圧器」が追加されているところがシングルフラッシュと違う

【バイナリー型】

 バイナリー発電は、地中にある蒸気をそのまま使うのではなく、より低温で沸騰する物質(熱媒)を利用する。熱媒には沸騰する温度が低いエアコンや冷蔵庫などで使われる代替フロンやアンモニア・ペンタンなどが使われる。

 地熱は温度が低くても冷媒を沸騰できるので、手軽に小型の発電所を作れるものの、パワーが小さいので大量の電力を取り出せない。だから電力会社ではなく、工場などの大型施設や地方自治体の小さな町の補助電源などに使われている。

地熱は熱交換器で完全分離された熱媒を温めるだけに使われる。熱媒には沸点が低いアンモニアなどが使われるので低い温度の熱源でも発電が可能

【EGS(Enhanced Geothermal System)型】

 EGSは「Enhanced」なので直訳すると「強化型」地熱発電なのだが、筆者が意訳するなら「地下水強制注入式」というイメージだ。日本では導入されていないが、熱源だけあって蒸気がない場合。つまり地下水がない場合に、強制的に水を送り込み、熱源で温められた蒸気を取り出そうというものだ。ある程度水を注入できれば、あとは発電後の冷えた蒸気を水に還元し、再び地下の熱源に送って再加熱し循環させるというしくみだ。

EGSは「高温岩体発電」の一種。地下の熱源となる「高温岩帯」に高圧の水を注入するなどして人工的に岩の割れ目を作り、反対側から熱された蒸気を得る方式

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