ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第640回
AI向けではないがAI用途にも使えるCoherent LogixのHyperX AIプロセッサーの昨今
2021年11月08日 12時00分更新
今年10月20日と21日に、恒例のLinley Fall Procesessor Conference 2021が開催された。今年はオンサイト開催となったが、一週間後にオンラインで後追いの形でも開催されている。筆者はこのオンライン開催で参加した口だ。
そのLinley Fall Procesessor Conference 2021の2日目(オンラインでは5日目)の“Edge-AI Processing”というセッションに登場したのがCoherent LogixのHyperXである。ただこのHyperX、エッジ向けではあるがAI専用チップではないのが少しおもしろい。
余談だがLinley Processor Conferenceを主催しているLinley Group、実態はLinley Gwennapというおっさん(おっさん呼ばわりするのも失礼ではあるのだが、顔見知りであるので許してもらおう)が自分で立ち上げた分析会社である。
現在は少なくともGwennap氏以外に3人のアナリストを抱えているのだが、そのLinley GroupはLinley Fall Procesessor Conference 2021開催1週間前の10月14日に、同じく分析会社であるTech Insightsに買収されており、現在はTech Insightsの傘下にある。
Tech Insightsはとにかく市場に出荷されているチップを片っ端から開封して、その中身をSEM(走査電子顕微鏡)やTEM(透過電子顕微鏡)などを使って、そのプロセス技術を解析して紹介することを得意とする会社であり、逆にそのチップの論理的な構造などの解析は弱いところがある。したがって、Linley Groupの買収は理にかなった、相互補完的な効果が期待できる。
Coherent Logixのエッジ向けプロセッサー
HyperX
Coherent Logixはテキサス州オースチンに本社を置く。創業は2005年とされるが、実際には2002年頃からいろいろと動き始め、会社組織として人を集め始めたのが2005年から、ということらしい。
創業者はMichael B. Doerr氏で、前職は同じオースチンにあるSPEC(Systems & Processes Engineering Corporation)という軍需関係企業で最終的にはSoC Products DivisionのManaging Directorを務めていた。要するに仕事で軍事システム向けのSoCの開発などを手掛けている中で、いろいろアイディアが生まれてきて、それを形にするために自分で起業したという形らしい。
さて、そのDoerr氏が目指したのはSoftware Defined Processorである。2019年にDoerr氏がIEEEのBroadcast Symposiumで発表した“Software Defined SYstems - The Future Platform”という資料があるので、まずはこちらを紹介したい。
そもそもSoftware Defined XXXは最近山ほどあるのだが、もともとの1970年台からSDR(Software Defined Radio)という概念は広く使われていた。1997年にはアメリカ国防高等研究計画局(DARPA)がSPEAKeasyという名称で、ソフトウェア的に処理を行なうプロジェクトを開始している。
今ではSDRは広く普及しており、携帯電話のモデムもほとんどSDRに置き換わっているが、当時はまだ技術的難易度の高いものだった。その難易度はともかく、ではなぜSoftware Definedにするかというと、機器のコストや開発のコストを下げるのが目的だが、ここで重要なのは「制御だけをソフトウェア化しても、それはSoftware Definedにならない。必要なのは、データ処理もソフトウェア化することだ」という2つ目のKey Messageである。
世間に存在するSoftware Defined Systemのほとんどは、Doerr氏からすればSoftware Definedではない。要するにSoftware Definedの定義が広範すぎるというわけだ。
一般にSoftware Definedの効率と処理効率は反比例する関係にあるが、これを解決するのがMNP(Memory-Networked Processing)アーキテクチャーだ、というのが氏の主張である。Doerr氏は2002年からMNPアーキテクチャーの開発を手掛け、2006年に第1世代の製品を完成させており、これを利用することで放送機器(そもそも発表したのが放送機器向けのシンポジウムである)がより高性能・低価格かつかつ短い開発期間(と低いコスト)で構築できる、と訴えていた。
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