Alibaba Cloudの大型カンファレンスを国内初開催、コンプライアンス遵守を強調
Alibaba Cloudが東京に2つ目のアベイラビリティゾーンを開設
2019年01月30日 14時00分更新
Alibaba Cloudは2019年1月29日、日本では初となる同社主催カンファレンス「Alibaba Cloud Internet Champion Day Japan」を開催。東京で2つ目のAlibaba Cloudデータセンター(アベイラビリティゾーン)開設し、同日から利用可能になったことをアナウンスした。
中国アリババグループのパブリッククラウドサービス「Alibaba Cloud」は、現在、中国のほか、米国、ドイツ、イギリス、中東、インド、アジア地域に合計19のリージョンを構え、56のアベイラビリティゾーンが稼働している。ガートナーが2018年に発表した調査によれば、Alibaba CloudのIaaS市場でのグローバルシェアは、AWS、Azureに次いで3位である。日本では、アリババグループとソフトバンクの合弁会社SBクラウドが運営主体となり、2016年12月に東京リージョンでのサービスを開始した。
今回、東京リージョンで2つ目のデータセンター(アベイラビリティゾーン)が利用可能になった。Alibaba Cloud 日本カントリーマネージャーのユニーク・ソング氏は、「国内2つのアベイラビリティゾーンを使って冗長構成をとることや、バックアップをすることが可能になる」と紹介。第2データセンターでは、新たにディープラーニング用途のGPUインスタンスなどを提供するほか、従来データセンターよりネットワークインフラが増強されている。「日本リージョンでのサービスが増えるのに加えて、既存のサービスも拡張される」(ソング氏)。
Alibaba Cloudは、中国市場ではIaaS、フルマネージドの各種DBやビッグデータ関連、IoT関連のPaaS、AI API、DevOps、オンプレミス向けなど200以上のサービスを提供している。そのうち、日本リージョンで利用可能なのは60程度だ。Alibaba Cloudが中国国外へのグローバル進出を開始したのは2015年で、日本リージョン開設は翌2016年と米国、ドイツに次ぐ3番目の早い時期だったが、ソング氏いわく、他の中国国外のAlibaba Cloudリージョンと比較して、現時点の日本リージョンのサービスラインナップは「多くもなく少なくなくもない。サービス数の順位では真ん中より少し上くらい」とのことだ。ソング氏は、「サービスの数と、Alibaba Cloudにとっての市場の優先順位はイコールではない」としつつも、「昔から、日本は難しい市場だ」とも述べている。
日本市場でのビジネス戦略について、ソング氏は、(1)Alibaba Cloudが中国の「独身の日」などで培った技術を日本市場にもってくる、(2)日本企業のグローバル進出を支援する、(3)製造業など日本の成熟した企業とAlibaba Cloudの技術を組み合わせていく――の3つを挙げた。
Alibaba Cloudは、アリババグループのECサービスの基盤として使われており、中国EC市場で大規模なセールが行われる11月11日の「独身の日」には、毎年大量のトランザクションを処理している。直近2018年11月11日の独身の日には、アリババの「Tmall」で1日総売上高3.5兆円を記録し、ピーク時には25.6万件/秒の決済処理をさばいた。セール期間中に大量のサイバー攻撃も行われたが、Alibaba Cloudは16億件の攻撃を防御し、期間中にサービスが止まることはなかった。このような大量のトランザクションに耐えた実績のあるインフラの拡張技術や、大量のサイバー攻撃を防御したセキュリティ技術を日本市場でもアピールし、Alibaba Cloudのビジネス拡大につなげていきたいとする。
日本企業のグローバル進出を支援する施策としては、特に中国市場への進出支援に強い三井物産や、NEC、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)などとパートナー提携する。中国市場での事業のためのAlibaba Cloud導入の国内事例は増えている。DMM GAMESは、中国向けのゲーム配信基盤や、日本・中国の各地にいるゲーム開発者が共通に使える開発プラットフォームとしてAlibaba Cloudを導入した。資生堂も中国ビジネスのIT基盤にAlibaba Cloudを採用しているほか、安川電機の中国現地法人である安川電機チャイナは、同社が製造する工場生産ライン用ロボットアームのデータをAlibaba Cloudに収集して、故障予測などを行うシステムを構築している。
日本の成熟業界への訴求については、法人ビジネスに実績のあるソフトバンクとの合弁会社SBクラウドの強みを生かしていく。また、Alibaba Cloudは、各種産業に特化したAIアルゴリズムを実装したデータアナリティクスパッケージ「ET Brain」を提供しており、中国市場ではスマートシティ向け(City Brain)、医療向け(Medical Brain)、製造向け(Industrial Brain)、空港向け(Aviation Brain)、農業・畜産業向け(Agricultural Brain)に導入実績がある。アリババの本業であるECや流通小売りの分野では、自社での運用実績があるサービスパッケージを取り揃えている。
「日本のクラウド市場はボリュームがあり、日本企業のクラウド化の割合はまだ低い。また、日本のデベロッパーは実践的で優れた技術への関心が高い。(AWS、Azure、GCPと)日本で競合するとは限らない」(ソング氏)。
コンプライアンス、顧客データの取り扱いはAWSやAzureと同等
今回のイベント全体を通して、繰り返し強調されたのがAlibaba Cloudのセキュリティとコンプライアンスだ。
Alibaba Cloudは、ISO 27001、CSA Star、PCI-DSSなど国際的な業界固有のコンプライアンス基準や、米国のHIPPA、ドイツのC5、シンガポールのMTCSなど国ごとの基準を満たしている。第三者機関によるSOCレポートも発行しており、2019年からは日本語のSOCレポートが提供されるようになった。
また、Alibaba Cloudのセキュリティの考え方や実行している取り組みを説明するセキュリティホワイトペーパーを公開している。
このようなコンプライアンスへの準拠、SOCレポートやセキュリティホワイトペーパーの公開はAWSやAzureなどほかのクラウドベンダーもやっていることだが、「Alibaba Cloudは“中国のクラウド”のイメージから、日本リージョンにあずけたデータが中国の政府や企業に取られるのではないかと心配する人がいる。世界基準のセキュリティとコンプライアンスを遵守しているので安心して使ってほしい」とAlibaba Cloud Japanシニアソリューションアーキテクトの奥山朋氏。
奥山氏はまた、Azure、AWS、Googleの顧客データの取り扱い方針を示し、「各クラウドベンダーも、顧客のデータにアクセスしないと規定している。ただし、法律違反や犯罪捜査、テロ防止のために、政府機関や規制当局から情報提供依頼があった場合は開示するとしている。Alibaba Cloudも同様の方針だ」と説明した。「Alibaba Cloudの日本リージョンを利用する場合、クラウドサービスの事業主体はSBクラウドという日本企業なので、日本の法律に応じる。法律違反や犯罪捜査のための情報提供は日本の規制当局に対して行われる」(奥山氏)。
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