2回線で学習系SaaSと校務系IaaSを完全分離
授業も校務もクラウド化、佐賀県多久市の小学校がMicrosoft 365とAzure導入
2018年01月29日 12時00分更新
佐賀県の多久市は、ソフトバンク コマース&サービス、日本マイクロソフトと連携し、多久市内の義務教育学校(小中一貫教育校)全3校に、「Microsoft 365 Education」を活用した学習者用クラウドと、「Microsoft Azure」上に構築した教職員用の校務支援クラウドを導入した。2018年1月26日から2019年3月31日までの実証プロジェクトとして運用する。
この実証プロジェクト(「児童生徒の学び方と教職員の働き方改革プロジェクト」)では、(1)授業においてITを活用した「協働学習」の割合を全体の8割まで拡大すること、(2)教職員の校務の効率かと時間外労働の短縮---の2つを目的として、マイクロソフトのパブリッククラウドを活用する。文部科学省が2017年10月18日に打ち出した「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」に基づき、授業で児童生徒がアクセスする「学習系クラウド」と、教職員が校務で利用する「校務系クラウド」を完全に分離している点が特徴だ。
学習系クラウドは、Microsoft 365 Educationに含まれる「Office 365 Education」、「Windows Defender ATP」、「Microsoft Intune」といったSaaS、および教材配布用の専用アプリストア「Microsoft Store for Business」で構成される。一方、校務系クラウドは、AzureのIaaS上に校務ファイルサーバー、統合型校務支援システム(EDUCOM)、RDS方式の校務用仮想デスクトップを構築している。
学習系クラウドと校務系クラウドのセキュリティ認証基盤は「Azure Active Directory」で共通化されているが、各クラウドへのアクセスは、学習系クラウドへはNTT西日本の「フレッツ光」を利用、校務系クラウドへはソフトバンクの「SmartVPN」を利用というように、2回線に分離している。さらに、校務系クラウドへのアクセスには端末認証を実施しており、教職員は市が貸与したWindows 10搭載PCからのみ校務系クラウドを利用できる。また、2018年4月からは、教職員が市貸与PCを自宅に持ち帰り、自宅のインターネット回線から校務系クラウドにアクセスしてテレワークができる環境を用意する計画だ。
教材は全てOfficeアプリで作成、デジタル教材は使わず
学習系クラウドを利用するための学習者用端末(児童・生徒が使うPC)として、今回、多久市では市内の義務教育校全3校に計190台のWindows 10搭載タブレットPCを整備した。多久市は2009年に市内の全小中学校に電子黒板を整備済みで、今後の授業では、電子黒板と学習者用端末でOffice 365を使っていく。
同実証プロジェクトでは、専用のデジタル教科書やデジタル教材を使わず、Officeアプリケーションで作成した教材のみを授業に取り入れていく計画だ。Officeの共同編集機能や、SharePointのファイル共有機能、Skype for BusinessといったOffice 365の標準機能のみで協働学習を実践する。
2018年1月26日に公開された多久市立東原庠舎中央校の小学5年生の授業では、算数の「百分率とグラフ」でExcelのグラフ機能を活用する様子や、体育の「バスケットボール」の授業でExcelにシュート率を記録する様子、理科の「ふりこ」の授業で実験データをExcelにまとめてOffice 365上で共有する様子などが見られた。
東原庠舎中央校では、5年生に1人1台のPC環境があり、他学年が授業で使う場合は5年生のクラスから貸し出す運用をしている。5年生の児童によれば、他学年に貸し出していないときは、「休み時間にマイクラで遊んだりしている」そうで、タブレットPCの操作を難しく感じることはないという。ちなみに、Office 365 Educationには教育版マイクラ「Minecraft Education Edition」が含まれている。
テレワーク導入で教職員の長時間労働を解消
校務系クラウドを利用するための教職員用端末は、市内の義務教育校全3校の全職員に計190台のWindows 10搭載PCを整備した。教職員はこの端末から、校内に引いた2回線を使い分けて学習系クラウドと校務系クラウドにアクセスする。
学習系クラウド上で各教員が作成したOfficeアプリケーションの教材を共有することで、教材作成業務の効率化を図る。校務系クラウドにある統合型校務支援システムや校務ファイルサーバーは、RDSで画面を遠隔操作する。児童・生徒の個人情報や成績情報、試験問題などのデータは、ローカルに一切コピーできない。
また、2018年4月からは、教員が自宅からインターネット回線で学習系・校務系クラウドにアクセスして、教材作成や成績処理、学級便りの作成などの事務作業を行ったり、Skype for Businessで職員会議に参加したりするテレワークを可能にする予定だ。教職員の長時間労働は社会問題化しており、2017年8月には中央教育審議会が「学校における働き方改革に係る緊急提言」を公開している。多久市では、テレワーク導入により、月間80時間以上残業をする教職員をゼロにすることを目標に掲げる。現在、月間80時間以上の残業をしている教職員は全体の40%以上にのぼるという。
パブリッククラウド全面導入は国内初
今回の多久市の実証プロジェクトは、国内でMicrosoft 365 Educationを導入した初めての事例となる。且つ、公立の小中学校向けに、パブリッククラウドのみで学習系・校務系クラウドを構築したのも今回が初の試みだという。
多久市は、もともと学校間で共同利用する自治体データセンターのようなものを持っていなかった。さらに、文部科学省が2020年度に導入する学習者用デジタル教科書(紙の教科書の内容をデジタル化したもの)について、市の教育委員会の方針として採用しない予定だ(教科書会社の提供するデジタル教科書のほとんどはクラウド上での利用に対応していない)。このような背景から、学校のIT環境を全面的にクラウド化できた。