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何もかも大変だけどあえて選ぶ3つ

指の骨が折れて大変だったこと、トップ3

2018年01月07日 10時00分更新

文● 貝塚/ASCII

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指が折れました

12月、まさかの骨折

 12月も半ばにさしかかろうとする頃、ちょっとしたはずみで右手の中指・薬指を骨折した。

 具体的に言えば、大木を友人と運んでいて、下ろすタイミングに失敗し、地面と木のあいだに挟んだのだ。

 明らかに普通の怪我とは様子が違う。痛みのあまり冷や汗も出てくるし、痺れも出ている。挟んで数分は痛みだけだったが、数分たつと腫れが強く出て、普段の1.5倍にもなろうとしている。そして動かせない。

患部の写真もありますが、青黒くグロテスクなので載せません

 友人の運転する車に乗せられ、整形外科へ急ぐ。問診票を書くと(正確には、口頭で伝えて看護師さんに代筆してもらった)、急患と判断されたのか、2〜3分で診察室へ呼ばれ、すぐにレントゲンを撮ることに。

 そうしているうちにも腫れと痛みはどんどん強まり、体の中で右手だけが異様に熱を持っている。

 レントゲン写真を見ながら「やっぱりねえ、折れちゃってるんですよね」と言われる。

 医者によると、患部にはヒビが全体に入っていて、ところどころ裂けるように折れている。形はしっかり保っていて、骨のズレもないから、固定しないでも大丈夫。指は固定したまま治すと、筋肉や神経が固まって動かなくなってしまうから、痛くても、可能な限り動かすようにしてほしい。数週間は腫れが強く出たり、ぶつけただけで強く痛んだりする。骨自体はひと月程度でつながるが、腫れや、感覚が完全に元に戻るには、半年くらいはかかるかも。後遺症が出る可能性は少ない。そんなところだった。

 骨折にも色々あって、骨がバラバラに砕けてしまう「複雑骨折」とか、骨が皮膚を突き破って出てきてしまう「開放骨折」の場合、それぞれ厄介なのだが、話をきく限り、自分の場合は骨折の中でも軽傷のように思えた。だから「ということは、骨折といっても軽い骨折という感じですかね?」と医者にきいてみると、「いや、複雑骨折とかに比べたらという話で、しっかり折れてるし、骨折は骨折です」と言われた。

 ただ折れただけでは面白くないので、骨折して不便だったランキングトップ3というかたちで記事にして、読者の皆さまを楽しませたい。右手を生贄にしてエンターテインメントを提供するのだ。

困ること3位:タイピング性能が落ちる

タイピング性能が低下

 1日経つと、まだ激痛があるものの、耐えきれないほどの痛みは薄れていた。ひとまず迷惑のかかりそうな関係各所への連絡を済ませ、翌日からは鎮痛剤を飲んで業務にかかる。ライター、編集者という仕事は、話しているとき以外、ほとんど1日中、タイピングをし続けている。あるいは画像を編集するなど、いずれにしても手を使ったPCでの作業がメインとなる。

 よかったのは人差し指が使えた点だ。人差し指は5本の指の中で、もっとも自由度が高く、狙い通りに動く指だ(違いますか?)。手の機能の30%くらいは人差し指によって、まかなわれていると言っていい。小指は10%、他の指は20%である。そんな頼り甲斐のある人差し指が使えたおかげで、タイピングへの影響を最小限にとどめることができたと思う。優しくタイピングしないと振動が伝わって患部が痛むので、あくまでも優しく、ゆっくりとしたタイピングが必要になるのだが。

 また、慣れのすごさを感じることもできた。5本×2の10本での入力に体系的に慣れているから、8本での入力では不便を感じるし、効率も落ちる。だから、初めのうちは半分程度のスピードしか出なかった。しかし冷静に考えてみれば、使えないのは2本であり、人差し指、親指、小指のポテンシャルを最大限に発揮すれば、80%の効率は出るはずなのである。

 自分は残った3本の動きを整理し、それぞれに最適な役割を与えた。8本指を前提としたポジションと指の動きを考案したのだ。具体的には、これまで人差し指と中指を使っていたセクションは、人差し指が担当し、薬指と小指を使っていたセクションは、小指が担当する。

 3週間ほど経ったいまでは、体感的には80%、ひょっとすると85%くらいのスピードが出せているかもしれない。考えてみればさまざまな事情で指が5本揃っていない人も世の中にはたくさんいるわけで、彼らがPCを使えないかというと、そんなことはなく、日常的に使用しているはずである。「ホームポジション」といって「この指はこのあたり、この指はこのあたりに置いて、このキーがこの指で打ちます」という決まりがあるが、そんなものは5本指が揃っている人用の目安でしかなく、それに当てはまらない人はそれぞれ、オリジナルのポジションでPCを使っているだろう。

 はじめは戸惑いが大きいが、慣れれば問題は軽減されるという点で、タイピング効率の低下は困ったことランキング3位だ。

困ること2位:荷物が運べない

 借りた機材を机まで運んだり、開梱して使用したりすることがよくある。右手に力を入れると、患部に直接ものが触れていなくても痛みが出るので、右手で重いものを持つことはできない。何かを運ぼうと思えば左手で運ぶしかないのだが、デスクトップPCや大型の機材など、片手では持てないものも多い。

 両手でなくては運べないものを運ぶときは、一度だれかに台車に乗せてもらって運ぶとか、代わりに運んでもらう必要が出てくる。自己解決できないという意味で、タイピングよりも厄介な問題だ。

 また荷物からは少しそれるが、エレベーターのボタンには困った。軽くでも右手をぶつけると、くっつきかけた骨がふたたび剥離する可能性があるため、あらゆるボタン類は左手で押さなければならない。エレベーターのボタンは、ほとんどの場合右側についているため、左手で押そうとすると、無理に左手を伸ばして押さなければならない。荷物を持っている場合、いったん荷物を下に置いて、左手を空けてから左手で押し、また左手に荷物を持ち直すという手間が発生する。

 道ゆく人に、自分が骨折していることなど関係ないから、「ボタンひとつ押すのに何をモタモタしているのか?」という視線を受けることも何度かあった。しかし、よかったこともある。この3週間、オフィスですれ違う人すれ違う人にぎょっとされ、「なにそれ!? どうしちゃったの?」と聞かれ、その度に「骨折したんです。物を運んでいて挟みました」と説明していたが、多くの場合、半分面白がられつつ、気遣ってもらえることが多かった。物を運ぶときも積極的に手伝ってもらえるし、仕事に関係ないが、個人的に買い物をしたりしても、「大丈夫ですか? 持って帰れます?」などと店員さんに心配されることが多かった。

 結果的に社会の暖かみというか、弱っているときに手を差し伸べてくれる人はかなり多い、という面を感じることができ、自分の日頃の行ないを振り返るきっかけにもなった。五体満足で生まれ、特に大怪我もなく生きてきた自分にとって、多少とはいえ、身体に制限のかかった状態で過ごすのは、生まれて初めての経験だったから、新鮮な感覚だ。

 重いものは治るまで運べないが、軽い荷物を人差し指に引っ掛け、片手で持てる範囲なら、左手で運ぶことによって、日常の買い出しにはあまり支障を出さずに済んだ。

 不便なことには違いない。しかし、学びもあり、ただ不便なだけには終わらないのが「荷物が運べない」という点だった。

困ること1位:箸が使えない、字が書けない

こういうスプーンは刺す、すくうの両方ができるので便利

 まず、なにをするにも食事を取ることが必要であり、なにも食べずに1日を過ごすことはできない。そして、日本人の食事には箸がよく登場する。箸を支持するのには薬指、中指が必要であり、どちらも使えない自分には箸を使うことができない。

 解決策として考えたのは、「左手で箸を使う」「中指、薬指を使わないフォームを考案する」の2案である。

 しかし、いずれも失敗に終わった。右利きの自分は、左手で箸を持つと何もかもが思い通りにいかない。箸の先が合わないし、指の間を滑るようにして箸が回転してしまう。箸を使ったことのない子供が使えるようになるまでどれくらいかかるのかわからないが、利き手でない方で箸を使えるようにするには、初めての状態から慣れていくような訓練が必要だと感じた。

 次に、中指、薬指を使わないフォームを作る方法。これはいい線までいったが、やはりダメだった。まず、ダメージのない中指の付け根のあたりに箸をのせ、人差し指で挟む。もう片方は親指で握るようにして持つ。こうすると、一応、ものが挟めるようにはなるのだが、ひとくち分の食べ物というわずかな重みであっても、折れている指にとっては重く、つかみあげようとすると激痛が走った。

 初期段階で箸を使うことは諦め、手で持って食べられるか、ナイフとフォーク、スプーンで食べられるものしか食べないという方向に変えた。

 ハンバーガー、サンドウィッチ、ハンバーグ、チキンソテー、パスタ、スープなどである。魚や納豆などもナイフとフォークで食べられないことはないが、なんとなく食べる気にならず、洋食中心の生活を送ることになった。

 もともと、「食事には米が欠かせない!」というタイプでもないため、これは食事に行く場所が制限されるとか、食べたいものが食べられないくらいで、我慢すればいい話ではある。

文字を書く機会は意外にも多い

 が、更に大きな問題はペンだ。ペンも箸と同じように中指が使えないと正しい持ち方はできない。左手で文字を書くのはかなり難しい。これも、字を書いたことがない状態からに近い訓練が必要になる(子どもの場合、新しい字を覚えるのと同時に書き方も練習するが、大人になったからだと、字は知っているのに、うまく書けないという、もどかしい状態に陥る)。

 文字を書く機会は現代ではかなり減っているとは言え、やはり書類に文字を直接書かなくてはいけない機会というのは、ほとんど毎日のように発生する。

 困ったことに、自分の場合はちょうど引越しをするタイミングで骨折したため、公的な手続きをする機会が非常に多く、親指と人差し指だけで様々な書類に住所、氏名、電話番号、マイナンバーなどを記入することになった。

 親指と人差し指だけでも、時間をかければ一応、字は書けるのだが、紙に対して斜め方向に支えがないため、字がふらつき、丁寧に書いても、雑に書きなぐったような印象の字になってしまう。このような状態の書類を役所や銀行の窓口に出すと、担当者は怪訝な顔をして「おや? この人、大丈夫かな?」といった様子でこちらを覗き込んでくるが、その後、手の状態に気づき、「ああ、怪我してるのか」と納得したように手続きを進めてくれる。そんなことが何度もあり、やはり文字がきちんと書けないのは相当困るな、と思った。

 よく、親指と人差し指だけでペンを持ってさらさらとなぞるように綺麗な文字を書く紳士風のおじいちゃんがいるが、どうやって安定して文字を書いているのか教えてもらいたい。

骨折には気をつけてください

 そんなわけで、指を骨折すると、日常生活に大きく支障が出るが、慣れや工夫でカバーできることも多いということを知った年末だった。この記事ではトップ3としたが、ここに挙げたことだけでなく、何もかもに制限がかかる。髪を洗うとか、ファスナーを開けたり閉めたりするとか、着替えなど、普段特にどうとも思っていない仕草のひとつひとつを考え直す日々になった。

 骨折をしてよかったのは、第2位に書いた「人の優しさに触れることができ、身体的に制限がある人に対する接し方についてじっくり考えることができた」こと。あとは困ったことばかりである。ちょっとしたことで大怪我をしてしまった、みたいな話を聞くことも多い年末年始、どうか気をつけて過ごしてほしい。

2018年1月19日:掲載時、一部誤字がありましたので、修正いたしました。

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