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KPIダッシュボードとモバイルアプリ、生産性向上と「働きがい」向上の両立を目指す

デロイト、企業の健康経営を支援する「WellMe」を提供開始

2017年09月20日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 デロイト トーマツ コンサルティングは9月19日、国内企業における“健康経営”実現を支援するアプリケーション「WellMe(ウェルミー)」の提供を開始した。経営者向けのクラウド型ダッシュボードと従業員向けのモバイルアプリの組み合わせで、健康経営課題に応じたKPIを可視化し、経営者による現状把握と課題特定、施策立案、PDCAサイクル実行を支援すると同時に、従業員の「働きがい」や満足度向上に向けた機能も提供する。

WellMeは経営者向けダッシュボード、従業員向けモバイルアプリで構成され、健康経営を支援する

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 ヒューマンキャピタル 事業責任者の土田昭夫氏

デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャーの田中公康氏

「健康経営」施策のKPIを可視化し、PDCAサイクル実現を支援するツール

 WellMeは、セールスフォース・ドットコムのForce.comプラットフォーム上に構築されたダッシュボードと、スマートフォン用アプリにより構成されている。データソースとしてはモバイルアプリのほか、勤怠管理、人事、健診結果など幅広いものが考えられている。

WellMeの構成。顧客が必要とするKPIに合わせ、さまざまなデータソースからデータを集約し、ダッシュボードで可視化する

 経営者や管理者向けのダッシュボードでは、勤怠管理や人事関連データ、健康診断データなど、多様なデータソースから集約したデータに基づき、「モチベーション指数」「ストレス改善度」「残業者割合」「アブセンティズム(欠勤率)」「プレゼンティズム(出勤しているが健康上の問題で業務に支障を来している割合)」といった、自社の健康経営課題に応じたKPIが可視化される。それぞれのKPIはドリルダウンも可能で、たとえば部門ごとや役職ごとの集計、推移グラフなどを確認できる。

 これにより、経営者や管理者が健康経営にまつわる社内の現状を分析し、課題設定と施策立案、施策開始後のPDCAサイクル実行といった作業に活用することができる。また、ビジネスチャット「Chatter」の機能も備えており、レポート画面を共有しながら、各部門での改善にむけた社内指示を出すような使い方ができる。

 また従業員向けのモバイルアプリでは、自身の労働時間や健康状態などを閲覧できるほか、自身の健康状況や業務意欲などを答えるパルスサーベイ(簡易意識調査)、チェックイン(高頻度な上司/部下間の目標設定とフィードバック)といった機能を備える。

ダッシュボードのイメージと、健康経営の施策の例

 WellMeの導入に当たっては、まず顧客企業の現状分析や課題設定、そのために必要なKPIの選定、他システムとの接続などを、デロイトがコンサルティングとインテグレーションを通じて実施する。WellMeの利用料金(税抜)は、健康経営ダッシュボードが月額8000円、従業員用アプリが1ユーザーあたり月額500円となっている。

WellMeを含む健康経営支援ソリューションの全体像。顧客企業における現状課題の分析や施策策定、PDCAサイクルの実行、KPIや施策の見直しまで、デロイトがコンサルティングを行う

従業員の心身の健康維持/改善だけでなく「働きがい向上」も目指すべき

 デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 ヒューマンキャピタル 事業責任者の土田昭夫氏は、同社が考える“働き方改革”のコンセプトや健康経営との関係、国内企業を対象に今年6~7月に実施した「働き方改革の実態調査2017」などを紹介しながら、WellMeの製品特徴を説明した。

 デロイトでは、働き方改革とは会社視点の「生産性の向上」に向けた取り組みであると同時に、従業員視点の「働きがいの向上」も目指すものと考えている。企業に対する実態調査の結果を見ても、「生産性の向上」(87%)だけでなく、「従業員の心身の健康の向上(=健康経営)」(76%)や「従業員満足度の向上」(74%)といったものも目的とする企業が多い。

働き方改革の目的は生産性向上だけではない。健康経営もその1つ(デロイト「働き方改革の実態調査2017」より)

 ただし実態調査では、働き方改革の課題も浮き彫りになっている。改革に取り組んだ結果、「改革の効果を感じられ、従業員の満足も得られた」とする企業は28%、また「KPIを設定し、施策の改善に活用できている」企業も22%にとどまる。

 「(前者は)従業員の感覚、受け止め方の問題もある。たとえば取り組みの結果、人事の統計データでは明らかに残業時間が減っていても、従業員に聞くと『減った気がしない』と満足していないケースも多い。(前者、後者とも)きちんとKPIのデータで示し、これだけ改善されたという実態を経営者が理解する、従業員にも理解してもらう取り組みが大切」(土田氏)

 また健康経営においては、単に従業員の心身の健康状態を把握(可視化)し、健康の維持/促進を図るだけでなく、幸福で満足度の高い、働きがいのある“Well-being”な状態までを「健康」の定義に含め、目指すべきだと土田氏は指摘した。これは企業としての社会的評価やブランド価値の向上につながり、人材採用においてもプラスの効果をもたらすからだ。

企業は従業員の心身の健康だけでなく、「働きがい」向上も目指すべきだと土田氏は語る

 こうした課題、考えもふまえて開発されたのがWellMeだという。会社経営と同じ視点で健康経営にもPDCAサイクル、マネジメントサイクルを作ること、従業員においては心身の健康を超えて働きがいにつながる施策とすること、コストを抑え導入しやすくすること、などを大きなコンセプトにしたという。

 ちなみに、従業員の働きがいを向上させるためにアプリに盛り込まれた機能が、チェックインやパルスサーベイだという。

 チェックインはパフォーマンスマネジメント手法のひとつとして注目されているもので、上司と部下の間での業務目標設定とフィードバック(評価、アドバイス)を、従来のように年1回や半年に1回といった頻度ではなく、毎月などより短いサイクルで行うのが特徴。「自分は正当に評価されていない」という従業員の不満を解消する効果が期待できる。WellMeでは、このチェックインをオンラインで実施可能にし、上司(管理職)側ではチェックインの実施状況もKPIとして表示される。また、数分程度で回答できるパルスサーベイを使うことで、職場や業務に対する意識調査なども、これまで困難だった短いサイクルで実施できるようになる。

従業員向けモバイルアプリのコンセプト

 なおWellMeでは、接続するデータソースのひとつとして従業員の健康診断データも視野に入れているが、「従業員個人の健康に関する機微情報を企業が集約するのは難しいのではないか」という記者からの質問があった。これについて土田氏は、「正直なところ、現状では従業員と企業の間でそうした信頼関係はできておらず、従業員側がデータを出さないと思う」と述べた。

 「ただし、鶏が先か卵が先かという話だが、企業側が本気で従業員の健康を考え、本気で健康経営を推進することで初めて従業員からの信頼も得られ、データを使っても良いということになるだろう。(そうした事情もあって)今回は健康関連データがなくても、企業が健康経営ができるようなツールにしている」(土田氏)

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