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山谷剛史の「アジアIT小話」 第143回

小籠包もQRコードでモバイル決済! 中国で電子決済が爆発的に普及した道筋をたどる

2017年07月13日 12時00分更新

文● 山谷剛史

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普及の理由は単純にお得で便利だから

現金決済をする人もまだまだいる

現金決済をする人もまだまだいる

 ところでなぜ電子決済が普及したのか。よく日本のネットで「ニセ札が多いから」という意見を見るが、それは主な理由ではない。

 微信⽀付や⽀付宝を利⽤する理由は、まず「お得」で、次に「便利」だからにほかならない。

 今は華の支付宝も微信支付も、実は前身時代を合わせれば10年以上の歴史がある。QRコードによる決済で突然利用者が増えたとか、微信支付や支付宝が登場して中国社会が大変化したわけではない。

 微信がリリースされる前には騰訊は「QQ」というインスタントメッセンジャーをリリースしていた(今も現役だ)。

 当時は中国でPCの普及が加速するほどのキラーサービスとなっていた。そのQQのIDをそのまま利用できて、しかもボイスメッセージが2G(GSM)でも送れるということで、3Gの通信料金が高い当時、ボイスメッセージの送信で愛用された。

 騰訊はQQの時に、支付宝に対抗する「財付通」(Tenpay)というサービスをリリースしていた。これがまったく鳴かず飛ばずだったのだが、微信がリリースされたのち、2013年に微信向けに提供されたのが微信支付となる。

 QRコードは2010年に流行りだした。これを仕掛けたのが騰訊と新浪(Sina)がそれぞれ出していたミニブログ「微博」(Weibo)である。店舗入口に導入することで、主に店の微博オフィシャルアカウントなどに誘導した。

 微信支付が登場した2013年には、支付宝が、貯めている電子マネーを投資信託として資金運用する「余額宝」がリリースされ、「そこに投資すれば儲かる」というわかりやすい理由で話題となり利用者が急増。微信支付ものちに追随し、単なるエスクローサービスからの脱却をはじめる。

 2014年、支付宝と微信支付が単なるエスクローサービスから脱する。2014年の旧正月には「紅包」という金一封を、両サービスが利用者に対してばらまくお年玉的キャンペーンを実施した。

 2015年には両社の顧客獲得のばらまきキャンペーンは拍車をかけ、「紅包大戦」と呼ばれるようになる。またスマートフォン向けの生活サービスとして、「Uber」のような配車サービス「滴滴打車」と「快的打車」が普及。

QRコードを読み取りスマホから商品を選ぶ自販機。ただし時間はかかる

QRコードを読み取りスマホから商品を選ぶ自販機。ただし時間はかかる

 この際、微信支付や支付宝利用時に安く利用できるキャンペーンを両社が実施し、競争の中で支付宝と微信支付が一気に普及した。QRコードによる支払いもこのときより普及しはじめた。

 これ以前に中国では電子決済が交通以外に普及していなかったのも大きい。それまでに日本のように、EDYやWAONやNANACOなどの電子マネーが普及し、かつ競合していたらここまでサービス開始で一気に普及することはなかっただろう。もっと言えば、中国全土のチェーンがほとんど存在せず、個人商店が多いことも普及の背景にあると思う。

 2016年よりMobikeやofoの登場で、街の景色は一変。微信と支付宝のアプリの中に、Mobikeやofoや滴滴打車の機能を内包するようになった。つまり微信と支付宝は単なる支払いアプリから、プラットフォームへと変化した。

 現在に見る支付宝と微信支付によるQRコードによる電子決済の凄さは、突然できたものではなく、別サービスから受け継ぎと、他のサービスをも巻き込んだ競争によるものである。

支付宝と微信支付、海外の展開では別の道を行く!?

 支付宝と微信支付は同じように機能を拡張しているが、中国市場での市場拡大スピードが遅くなる今後について、海外展開で異なる路線を進むだろう。

 支付宝のアントフィナンシャルはインドで「Paytm」に、韓国ではネット銀行の「K-Bank」に、フィリピンでは「Mynt」に、インドネシアでは「Emtek」に投資して提携。その国のサービスを前面に出し、アントフィナンシャルが中国式電子決済成功術を輸出する。さらに金融だけでなく物流、EC、芸能を含んだアリババ国際化戦略を進める。

 一方微信支付は、インスタントメッセンジャーの微信がついているので、微信普及を目標にせざるをえない。

 まずは中国人観光客や在外中国人を目当てに海外企業と提携し、サービスを展開していくこととなる。もともとがECとSNSという異なるスタートの両者は、海外展開で原点のサービスを伸ばすためのけん引役となるだろう。


山谷剛史(やまやたけし)

著者近影

著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)、「日本人が知らない中国インターネット市場」「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」(インプレスR&D)を執筆。最新著作は「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立 」(星海社新書)。

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