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男子育休に入る 第15回

男も育児で悩んでいる

2017年06月28日 07時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita) 編集● 家電ASCII編集部

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34歳の男が家事育児をしながら思うこと。いわゆるパパの教科書には出てこない失敗や感動をできるだけ正直につづる育休コラム。

児童館の「お父さんと遊ぼう」というイベントに行きました

 家電アスキーの盛田 諒(34)です、おはようございます。水曜の育児コラム「男子育休に入る」の時間です。2ヵ月間の育休が明け、職場復帰を果たして2ヵ月が経ちます。赤ちゃんは4ヵ月健診を終えました。体重約5kg、成長曲線下限ギリギリでマイペースに育っています。夜20時就寝、朝4時起床の睡眠リズムも安定してきました。わたしは平均睡眠8時間のロングスリーパーだったこともあり、朝4時になんとなく目がさめる日々が続くと、体力が落ち、関節が痛み、仕事中に眠くて、つらいです。妻に「深刻さが分からない。目がさめるだけで起きてないじゃん、こっちは起きて授乳しておむつも替えてるんですけど」という感じで舌打ち気味にとらえられるのもつらいです。

 わたしのFacebookには記事への様々なご感想をいただいています。ありがとうございます。女性はもちろん男性からのメッセージは特に貴重でうれしいです。男性からいただいた体験談は思わずハハハと笑ってしまいました。

・手先が不器用なので、おむつ替えに手間取り、うんちが服やシーツに付いてしまうことが多いのですが、その都度、赤ちゃん用石鹸で揉み洗い→酸素系漂白剤でシミ抜きという作業をしています。しょっちゅう揉み洗い→シミ抜きという作業をしているので、手の甲がガサガサになりがち。ハンドクリームが欠かせません。

・上述のとおり手先は不器用ですが、ちょうちょ結びは早くなりました! 短肌着、コンビ肌着の紐はぱぱぱっと結べます。

 わかりすぎました。洗濯はシャープのうんこ落としこと「超音波ウォッシャー」が便利です(充電もたないけど)。ベビー服については頭からガバッとかぶせるタイプの肌着がうまく着せられず毎回泣かせています。ごめんね……。

 ということで今回のテーマは男の悩みです。

 全世界のお母さんが一斉にショットガンの弾を装填する音が聞こえましたね。妻にも「は?そんなのある?」と眉をひそめられましたが、お父さんにも悩みはあるものです。自分だけかと思いきや、知り合いに話を聞いてみると同じことで悩んでいたということもありました。わたしの体験談が中心となりますが、家族生活の一助としていただければと思っています。お母さんには一度銃身を下ろしていただき、お話をお聞きいただければ幸いです。

 では、本日のアジェンダです。

・施設が母親向けにできている
・男親のつらさを分かち合えない
・なんで私が怒ってるかわかる?

 どうぞよろしくお願いします。



●大体の施設が母親向け

 初めに、父親のことを考えた施設がまだ少ないのが大きな悩みです。

 もっともよく感じるのはおむつ替え台です。男子トイレでおむつ替え台がついているのはかなりのレアトイレです。隣の女子トイレにおむつ替え台マークがついているのを見て、うらやましく思ったこともありました。多目的トイレ(「みんなのトイレ」)があるところはいいのですが、それさえ見当たらなかったときはソファにこっそりおむつ替えシートを敷き、あたりをキョロキョロ見回しながらサッサッとおむつ替えをするという不審者そのものの振る舞いをすることになりました。

 いわゆるベビールームも女性向けに設計されているところが多いです。中には女性専用で、「ママとベビーの休憩室」と書いてあるところなどもありますが、父親はどこに行けばいいのかと、のけものにされたような気持ちになります。ツイッターに、ベビールームでおむつ替えをしていた父親が「うちの子、女の子なんですけどっ」と言われ、暗に「出ていけ」とプレッシャーをかけられたという話もありました。

 授乳室付近に男性が近づける状況が、安全上よくないことはわかります。おむつ替え台と授乳室が隣りあっているベビールームに入ったとき、女性からギョッとした顔をされたこともありました。授乳室にはカギがかけられるようになっていたのですが、たしかに赤ちゃん連れとはいえ1人で入ってきた男は怖いと思います。そのときはおむつ替えだけサササッと済ませて逃げるように出てきてしまいました。

 それでも、たとえばわたしがベビールームで調乳したミルクはどこで授乳をしたらいいのだろうという気持ちがあります。男は部屋の外にある待ち合いのソファをお使いくださいと言われたらそうなのですが、歓迎されている感じがせず、さみしい気持ちになります。

 逆に、妻が授乳しているときに待っているスペースが整備されているだけでもうれしくなることはありました。

 渋谷駅の地下にあるベビー休憩室「渋谷ちかみちラウンジ」などは、名前のとおりラウンジのようにくつろげるソファがあって気持ちがよいです。商業施設側としても男性向けのチラシでも置いておけば、よい広告効果になるのではないかと思います。オーナーの皆さまにはぜひご一考いただければ幸いです。



●つらさを分かち合えない

 次に、男の育児仲間がなかなか見つからないのがさみしいです。

 育児参加している男性そのものが少ないこともあり、お母さんの中でぽつんと1人、ということがよくあります。2ヵ月前、ある美術館のベビー・キッズスペースに来たときのこと、妻と一緒にいるときは他の母親たちも「夫さんが育児参加していいね~」という感じのほがらかな雰囲気だったのですが、妻が授乳で席をはずし、わたし1人になったときは、話題がフッと消えてしまいました。母親は母親同士で知り合いの母親の子供の話などを始めてしまい、ついていけず、居場所もなくなりました。妻が戻るまでの20分間、わたしは赤ちゃん用の積み木で荻窪駅前商店街のジオラマを作っていました。

 母親同士は出会いのきっかけも豊富です。

 マタニティクラス、母親学級、定期健診など、出産前から産院や自治体の集まりで母親同士が出会ってコミュニケーションをとる場がたくさん用意されています。妻は母親学級で出会った女性たちとLINEのグループチャットを作り、「おでかけいつから?」「湿疹対策どうしてる?」「保育園見学してる?」「児童館オススメはどこ?」などとやりとりしており、グルチャの情報にかなり助けられています。

 コラム第10回 地獄日記に書いたような産後の苦労話も、母親同士なら「わかる~!!」「ああいうとき夫には申し訳ないけど腹立つよね。笑」といった雑談である程度共有し、ストレスを発散できるところがあると思います。父親同士もそういうユルいつながりがほしいなと感じるのですが、普通に過ごしていると出会いは稀です。つらいときも自分自身に話しかけるほかないのですが、自分は自分につらくあたるので「テメーが悪いんだろクソが!」など悪態をつかれてつらいです。

 ただ、自分自身の偏見も入っていると思いますが、男性は仲間を作ることにあまり積極的ではないというか、きっかけがないと1人でいつづけるところがあると感じます。

 2週間前、近所の児童館で「お父さんと遊ぼう」というイベントがありました。初めはみんなで赤ちゃんをひざにのせて「バスにのって出かけよう」と歌ったりして一緒に遊ぶのですが、後半、「バルーンアートでいろいろなものをつくろう」というテーマになったとき、わたしを含めてお父さんたちは黙々と自分の作りたいモノを作りはじめます。一番人気は真っ黒のバルーンを使った、柄に飾りのついた大剣です。赤ちゃんをひざにのせたお父さんたちは一言も会話を交わすことなく、黒い剣の鍛錬に精を出していました。わたしは大剣ではなくアンパンマンのブレスレットでしたが、やはり淡々とゴムと格闘していたひとりです。

 バルーンアートというテーマが悪かったのでは、とも感じたのですが、一緒に来ていたお母さん同士はまったく違いました。空気入れやバルーンアートのレシピ本を取るタイミングで、「どのあたりにお住まいですか?」「いま何ヵ月ですか?」「うちの場合は上の子がもう中学生だから~」などと自然に話を進めていました。大剣を作りつづけるお父さんと対照的すぎてもはやマンガでした。ちなみにバルーンを作り終えた後は「足こぎカー」に乗って遊ぶ時間になったのですが、父親たちは赤ちゃんと一緒にキャーキャー遊び、「ハー遊んだね~」と満足し、帰っていきました。わたしもその1人です。がんばって友だちを作ろうと思いました。



●なんで怒ってるかわかる?

 そして最後、育児をめぐる妻との諍(いさか)いがつらいです。「そりゃこっちの台詞だわ!」と言う妻の顔が浮かんできますが、夫としても思うところはあります。

 そもそも今回のテーマを選ぶきっかけとなったのは、知り合いのお父さんが「妻から育児の労いを求められてつらい」とこぼしてきたことでした。「いやでもそれは」と食い下がると地獄が待っているパターンです。さようなら。

 わたしも最近やや似たことがありました。妻が「せきが止まらなくてつらい」と言うので、「ぜんそく発作かな、季節の変わり目だから起きやすいのかも、でも風邪かもしれないから、まずは呼吸器科じゃなくて内科にかかった方がいいと思う」というようなことを言ったのですが、妻には「気づかってほしかった」と言われました。なるほどと思いました。その後「気づかいの方向性が違うのかもしれない」と言ったのですが、完全に火に油を注ぐ結果となり、妻は不動明王のようになってしまいました。

 これはわたしだけの話かもしれないのですが、つらい、腹立つ、と言われたとき、問題の解決策を考えることが最大の誠意だと思っているところがあります。しかしそうすると、

 「こういうことがあった。腹立つ」
 「こうすれば解決」
 「おまえは何にもわかってないな」

 という形で妻とのすれちがいが起き、発火につながるため、つらいです。

 こうした場合、妻にどうすればよかったかを指導してもらったところ、

 「こういうことがあった。腹立つ」
 「そうなんだ、腹立つね」
 「そうなの、チョー腹立つの」
 「それは問題だね、とても問題」
 「そう、だからここをこうしたい!」

 という傾聴がほしかったと言われました。

 要するにわたしは妻が気持ちを整理するための愛情うなずきマシンになることを求められていたわけです。こちらとしてはがんばって解決策を考えていたので不本意に感じたのですが、需給ギャップかと思って納得しました。

 労いの話に置き換えると、わたしが妻に「家事ができないつらい」と言われたら、「洗濯乾燥機を買おう」と言って地獄に飛びこんでいた気がします。妻的には、まず頑張って家事をしているのだから労え、ということです。

 わたしとしては「妻が頑張ってくれているのはわかるし、感謝の気持ちはあるが、言葉にするきっかけがないので、代わりに行動で答えている」という気持ちですが、妻としては「行動をするに越したことはないが、それより言葉と態度であらわせ、愛していると言え」ということになるのだと思います。これが需要でした。

 一方、わたしはわたしで、妻の冷たい態度に険しさを感じています。

 地獄日記に書いたように、夫に気配りをする余裕がなくなる点が大きいのだと思いますが、言い方や態度がとても冷たいです。たとえば妻が授乳しているとき「ボーッとしてるならミルク作って」といった言い方をされると怖いです。「チッ」という音さえ聞こえてきそうでウッと来ます。妻からは「被害妄想だよ」と言われるのですが、わたしの恐怖心はウソをつきません。わたしが求めているのは優しさです。

 最近はもう何を言われても怖いので、二言目に「すいません」と謝るようになり、「すいませんっていうのをやめて」と妻から怒られて、反射的に「すいません」と謝るという三流コントのような生活になってしまっています。わたしが妻を怖がっている顔は面白いらしく、赤ちゃんは楽しそうにキャハーと笑っていました。

 まとめますと、

・わたしは妻の話を聞く
・妻はわたしに優しくする

 これをそれぞれ求めていることになります。

 雑誌やテレビの「男と女」特集にありがちな話にまとまってしまいましたが、家事育児で切羽詰まると、ありがちな話が致命傷レベルまで悪化することがありますので、これはあなどらないようにしたいところです。

 わたしは2ヵ月間という比較的長期の育休も取得して、初期から子育てに参加できている恵まれた環境にいる人間です。平日どうしても仕事の関係で子育てに関われず、週末育児が中心になる男性の場合は、この爆発レベルがさらに大きくなるものと予想されます。善意でやろうとしたことがすべて裏目になって最悪な結果を招くという不幸もありえます。育児のちょっとしたつまづきで大ケガをしないよう、夫婦ともお互いに求められるコミュニケーションをとるようにしたほうがいいと思います。

 大事なのは想像力より努力です。想像したって相手の気持ちなんて絶対に分かりません。男性・女性ともに相手が求めるものを把握し、自分の習慣を少しずつ変える努力が肝要ではないかと思います。わたしもがんばります。



●シビアな愛

 全体に、育児自体というより育児をめぐる環境の話になりました。わたしは妻と違って母乳の悩みなど身体面の悩みがないぶん精神面の悩みが増えるのかもしれません。

 「そんな言うても男の悩みなんて」と思われるかもしれませんが、実は、男性にも「産後うつ」と呼ばれる症状があります。アメリカのイースタン・バージニア医科大学が米国医師会雑誌(JAMA)に発表した2010年の論文では、父親となる男性の約10%が子供の誕生前後にうつ状態に陥ると推計していました。

 うつの発症につながりやすいのは、悩みを抱え込む行動といわれます。

 わたしもかつて仕事でメンタルを壊して心療内科に通ったことがありましたが、まさにそのタイプでした。家事育児で悩んだときも抱え込んでしまっていました。母親に相談すればよかったのですが、そのときは思いつかず行動に焦り、破たん寸前になってようやく相談する状態でした。愚かですが、気づかないうちに夫がうつになっていたということは普通にありえるため注意が必要です。

 性質は違えど育児のプレッシャーは男女平等です。双方への愛をもってプレッシャーと共に生きる努力を続けることが大事だと感じます。

 愛について、余談ですが、わたしも妻も「子はかすがい」という言葉が好きではありません。親がけんかしたときも子への愛があるから仲直りができるという意味ですが、ひとりっ子のわたしは父と母がけんかをするたびに「母はわたしがいるから離婚できないのか」と思っていました。親の愛を補うために子の愛を使うのは卑怯です。大人だろうが、自分の愛くらい責任もてよ、という感じがします。よく「恋は自分を成長させてくれる」などと言いますが、愛こそ自分を成長させるものだと感じます。恋は単なる勘違いですが、愛は明確な本人の意思です。赤ちゃんはわたしを親にするとともに、シビアな愛について教えてくれた気がします。

 アスキーでこんなこと書いていて大丈夫でしょうか。連載は来週も続きます。



書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ、家事が趣味。0歳児の父をやっています。Facebookでおたより募集中

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