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男子育休に入る第8回

男が育休を取って良かったこと

2017年05月10日 07時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita) 編集● 家電ASCII編集部

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34歳の男が家事育児をしながら思うこと。いわゆるパパの教科書には出てこない失敗や感動をできるだけ正直につづる育休コラム。

 水曜の育休コラム「男子育休に入る」をご覧いただきありがとうございます。家電アスキーの盛田 諒(34)です。3月1日から4月26日まで8週間の育児休業を取得し、先月末から職場に復帰しています。2ヵ月はあっという間です。家事と育児の両立にあわてているうち1ヵ月が過ぎ、楽しめるようになってきたころには終わってしまいました。今日は総括です。良さからはじめます。

●男が育休を取ることの良さ
・夫婦2人の育児レベルが同じになる
・なぜ家事育児がキツいのか体で分かる
・一瞬で終わる新生児期を目撃できる

 育児を男女平等にできるのが最大の良さです。家庭は従業員2名が主に運営する非営利団体です。「赤ちゃんがうんこ・おしっこをして泣いていたらおむつを替える」「赤ちゃんが眠れなくて泣いていたら抱っこをする」「赤ちゃんがお腹をすかせて泣いていたらミルクをあげる」という業務のOJT研修を2人で受けたことで、運用が安定するようになりました。1人の育児レベルがもう1人より低い場合、仕事と同じく習熟度の差による問題が発生します。あんたに手伝われてもむしろ時間かかるだけだから問題です。夫婦いずれかが育児を指導するコストを考えると、双方の負担が大きくなってしまいます。育児ビギナー同士、ともに汗を流して経験値を稼げたのはとても良いことでした。

 家事・育児に必要となる気力・体力・時間のリソース配分がわかるのも良さです。1人で料理・洗濯・掃除すべてをこなすワンオペ家事はできることが限られます。赤ちゃんを抱っこしながらだと、手が足りなくなって足や口を手として使うようになります。背・肩・腰・腕もすべて痛くなります。いろいろ無理が出ます。お互いに無理さを体験することで、家事ができていないときにもそりゃそうだよね感が生まれ、いさかいを回避できるようになります。身の丈にあった家事がわかり、生活態度もあらためられます。わたしは家具の位置にやたら細かいというむだなこだわりに気づきました。個人的には家事・育児は仕事よりキツいと思います。起きてから寝るまで土日も休まずはたらきつづけると考えるとブラックです。お母さんのことを思うと感謝の念にたえません。

 赤ちゃんが赤ちゃんでいられるわずかな時間、流れ星のように消えていってしまう新生児期をじっくり体験できるのもすばらしい良さです。タコのようにぐにゃぐにゃの体を両腕に抱いてソファに腰かけ、カーテンごしに入ってくる風を感じられます。赤ちゃんは髪が伸び、まゆが色づき、頬をふくらませて微笑みを浮かべるようになり、みるみる動物からヒトへと育っていきます。えらそうなことを書いていますが、赤ちゃんが生まれたばかりのころは、動物の飼い主のような気持ちしかなく、親以前に人間として大丈夫なのだろうかと不安な気持ちになっていました。一緒にいるうちに少しずつ親愛の情が生まれてきたので、赤ちゃんが親にしてくれたという気持ちもあります。

 良さは以上です。次に、育休生活を1週間単位でふりかえります。


■育休0週目……
病院は天国、助産師さんが心強い
大変度:★★☆☆☆☆

 出産→入院→退院。病院と家を往復して妻のパジャマを洗濯したり。自分の食事が適当になっていく。おむつの替え方、ミルクの作り方、お風呂の入れ方などを教わる。おむつの上下を間違えたり赤ちゃんが足をばたつかせたりでうまくつけられず焦る。赤ちゃんがうんこするだけで感動する。入院中のお客さん対応は夫の仕事。体のことなどデリケートな話題に気をつけないと修羅場になる。

【赤ちゃん】まだお母さんのおっぱいがちょっとしか出ないので終始ギャン泣き。夜も昼もなく一時間おきに泣いて起きる。羊水をふくむ胎便という岩海苔のような黒いうんこが2~3日間ほど出る。

■育休1週目……
大混乱、とにかく二人だけが心細い
大変度:★★★★★★

 家事すべてを1人でこなし、はりきりすぎて空回りして疲れてケンカになる(詳細)。育児はお風呂(沐浴)、おむつ替え、寝かしつけなど初めてのことばかりなので常に緊張状態。役所で出生届提出・住民票発行・育児手当申請・医療証発行申請など手続きを済ませる。会社で健康保険も登録。生後7日目は「お七夜」、鯛の尾と頭を塩で包み塩焼きにする。赤ちゃんはまだ鯛より小さい。

【赤ちゃん】まとまって寝ない。把握反射、モロー反射など原始反射を見せてくれるので片っ端から試す。まだヒト科の動物という風貌。透き通った聡明な目をしているため「神様」と呼ぶ。

★育休2週目……
疲れと家庭内の緊張がピークに達する
大変度:★★★★★★

 ワンオペ家事が早くも限界に。朝から背腰肩が痛い。お義母さんが来て夕飯を作ってくれるだけで泣きそうになる。妻は箸が転がってもイラつくようになる。機嫌がいいときは「ねえねえいいこと思いついたの!言っていい?」と少女のように明るくかわいらしいのに「ンだテメーもっかい言ってみろ!」と地方のヤンキーになってしまい悲しい。母乳分泌に必要なホルモン、オキシトシンの影響なので仕方がないのだと自己暗示をかけ、黙ってはたらく。ルンバの気持ちになる。

【赤ちゃん】髪や眉がみるみる伸び、頭頂部から加齢臭がしはじめる。おむつを取った瞬間おしっこをリリース。ミルクを飲む速さが毎回自己ベストを更新。「五輪目指そうね」と声援を送る。

★育休3週目……
緊張がほぐれて息抜きができるように
大変度:★★★★☆☆

 家事に必要な時間配分がわかり、カフェや映画館で息抜きができるようになる。予定があるときお義母さんに来てもらえて助かる。家の中では妻のいらだちにおびえる。妻は時間があれば内祝いの手配をしたり、テープ起こしの仕事をしたりと精力的に活動。疲れもあり、おむつ替えの方法などに関する妻からの指摘がつらく感じられるようになる。「妻さん(名前)はえらいね~」などと卑屈な態度を取り、当然のように機嫌を損なう。育休は己の弱さと向き合う修業だと思う。

【赤ちゃん】へその緒が取れる。体重が増えていく。「おっぱい・おむつ・ねんね」で泣き方の区別がつくようになるが、夕方から理由不明の大泣きをはじめて焦る。魔の3週目と呼ばれる。

★育休4週目……
疲れがたまり体調をくずしやすくなる
大変度:★★★☆☆☆

 緊張がゆるみ、風邪をひく。家事の進みが遅くなり、妻は不安になり、赤ちゃんにうつす心配もあり、地獄。保健士さん訪問。正しい片手抱っこの方法、つめの切り方などを教わる。夕方から「泣く→抱っこ→寝る→置く→起きる→泣く」のループになり、抱っこしてテレビを見ているだけで時間が過ぎる。家事できず。手抜きをすること、やらない家事を作ることも家事のひとつだと感じる。

【赤ちゃん】おもちゃを目で追いはじめる。おむつが「お誕生~5kgまで」にサイズアップ。新生児にきびができて数日で治る。おむつかぶれができる。布おむつを使うようになって数日で治る。

★育休5週目……
妻と家事が分担できるようになり天国
大変度:★★★☆☆☆

 生後1ヵ月、両親を呼び、近所の氏神様でお宮参り。1ヵ月検診に行く。産院の先生から「産後うつはこれから。今までの彼女じゃないと思うことが大事」との助言。赤ちゃんを迎えて初の晩酌をする。産褥期が明け、「妻=食事 夫=それ以外」で家事が分担できる。天国。妻の友だちが遊びに来るたび、わたしにお世辞を言ったあとに自分の夫を呪う。要約すると「役立たず」。震える。

【赤ちゃん】一緒にお風呂に入れるように。夜に4時間くらいまとまって寝る。オギャーと泣いたときの脚力がアップ。反射で笑う“新生児微笑”を見せる。めちゃんこかわいい。

★育休6週目……
おでかけできるようになり最高
大変度:★★☆☆☆☆

 抱っこひも装備でおでかけ。最初は近所の公園におそるおそる行っていたが、となり町の公園、伊勢丹新宿本店、六本木スヌーピーミュージアムなど距離を伸ばす。外出先で「赤ちゃんだ~」「かわいい~」とほめちぎられて満足。いただきもののベビーカーが便利だが、街中に出ると人にぶつかりそうになったり段差でつまづきそうになったり、想像以上に怖い。保育園の見学予約を開始する。アタックリストを作ってテレアポ。地味につらいので2人で協力できてよかった。

【赤ちゃん】よだれも涙もよく出る。抱っこひもに入れると寝る。ベビーカーに入れても寝る。出かけるとずっと寝ているので夜に「眠れない泣き」が増えて地味に困る。

★育休7週目……
ついに保育園探しがスタート
大変度:★★★☆☆☆

 認可保育園を見学。園児をお客さまとして扱うテーマパークのような園があれば、給食に使う煮干しの頭を園児にとらせるホームメイドな園もある。テーマパーク園で狭い庭を「ビオトープガーデン」と紹介され、自然の標本みたいだと感じる。夫婦でお互いに赤ちゃんを託して、自由行動ができるようになる。わたしの体は男なので母乳が出ないことだけがさみしく、心細い。復職届提出のため会社に行き、時間の流れ方がまるでちがうことに驚く。会社はすごい。誰も泣いていない。

【赤ちゃん】体重増加ペースがゆるやかで、成長曲線の下限ぎりぎりにいるので少し心配。体はやせている。太ももは少し太くなった。抱っこしないと寝ない。

★育休8週目……
ベビーリフレ楽しい えっもう終わり
大変度:★☆☆☆☆☆

 妻が母乳外来へ。乳汁がピューと噴水のように出るらしい。赤ちゃんをなでたりもんだりするベビーリフレを教わる。裸にしたときはオニャーと泣いていたが、ハートマークを描くように胸をなでると気持ちよさそうにニコーとしておりかわいい。明け方に赤ちゃんがよく泣き、朝5時に起きた日があった。まだ日が高くないうちに洗濯・掃除・洗いもの・片づけをして、ベランダでコーヒーを飲んだ。うっすらピンク色にグラデーションする空がとても静かだったのが育休最後の思い出。

【赤ちゃん】袖や裾をぎゅっとつかむ。もう把握反射ではないね。首すわりの兆候も出てきた。軽くうつ伏せにするとがんばって首をもちあげている。筋トレである。


●人間の子どもは親や仲間との対面のコミュニケーションで育まれる

 ヒトは群れで生きる生き物です。チンパンジーの研究で知られる松沢哲郎先生によれば、チンパンジーが基本的に母親だけで子供を育てる一方、ヒトは仲間で育児にあたる特性があるそうです。

 チンパンジーも人間も,生まれてからおとなになるまでに脳が約3.2倍の重さになる。その間にさまざまなことを親の世代から学ぶ。ただし,人間の学び方はあおむけの姿勢から始まる点でユニークだ。チンパンジーのあかんぼうをあおむけにすると,手足を中空に伸ばしてゆっくりともがく。しがみつこうとしているのだ。人間はあおむけでじっとしていられる。人間のあかんぼうは脂肪にくるまれ体脂肪率は20%を超えるという点も見逃せない。チンパンジーでは4~5%しかない。人間のあかんぼうは,母親が抱き続けず,地面に下ろされても生きていけるよう体温が保持されている。そして,あおむけにされたあかんぼうに母親だけでなく父親や祖父母,兄姉,叔母がのぞきこみ,微笑みかけ,手を振り,声をかける。人間の子どもは,親や仲間との対面のコミュニケーションで育まれる。(岩波書店「科学」2007年6月号 Vol.77 No.6 連載ちびっこチンパンジー第66回『人間とチンパンジーの子育ての違い』)

 本来は両親や親戚を含めた大きな家族で子育てをするのがヒトらしいのかもしれませんが、いまの都市生活は核家族という小さな単位に最適化されています。親きょうだいのように胸襟をひらけるほどの近所づきあいもなく、子育ての主役は2人の親。親が2人とも働いていなければ失職のリスクに備えられず、安定した生活を送りづらいという暮らし。その中で一方だけが育児をするのは無理があります。育休をきっかけとして少しは人間らしい子育てのスタートが切れたのかなと思います。男性の育休はまだ取得のハードルがとても高いですが、取りたいと思った人が当たり前に取れる環境になるよう、メディアとしてできることを一歩ずつやっていきたい気持ちがあります。

 総括は終わりましたが連載はおそらくまだ続きます。



書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ、家事が趣味。0歳児の父をやっています。Facebookでおたより募集中

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