このページの本文へ

「現在は標準が乱立して麻痺状態、業界はもっと落ち着く必要がある」

IoTエッジの相互運用性目指す「EdgeX Foundry」設立、デルに聞く

2017年06月27日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 IT業界だけでなく、あらゆる産業から注目と期待を集めているIoT。大きな可能性を秘める一方で、「IoTのエッジ部分は乱立する多数の標準技術により『混乱状態』にある」と語るのが、米デルのIoT戦略を指揮するジェイソン・シェパード氏だ。

 シェパード氏らが2017年春にオープンソースプロジェクト「EdgeX Foundry」を立ち上げた背景には、そうした問題意識があったという。シェパード氏に、EdgeXの立ち上げに至った経緯や、デルとしてのIoTエッジ戦略などについて話を聞いた。

米デル クライアントソリューション事業 IoT戦略・提携ディレクターを務めるジェイソン・シェパード(Jason Shepherd)氏。今年5月の「Dell EMC World」会場で話を聞いた

IoTエッジコンピューティングのオープンフレームワーク確立を目指す

 EdgeX Foundryは、「IoTエッジコンピューティングのためのオープンなフレームワークの確立」を目的として、今年4月末のドイツ・ハノーバーメッセにおいて設立が発表されたプロジェクトだ。設立メンバーはデルのほか、UbuntuのCanonical、Analog Devices、Cloud Foundry Foundationなどで、Linux Foundation傘下のプロジェクトとして活動している。加えて、すでに50以上の企業/組織が参加を表明している。

――今年、EdgeX Foundryが立ち上がりました。これをオープンソースプロジェクトにした経緯について聞かせてください。

シェパード氏:このプロジェクトは、(EMCと合併する前の)デル社内でCTOグループが立ち上げた「Project FUSE」がベースとなっている。わたしはこの取り組みを統括するチャーターを務めていた。今回は、このFUSEで開発した12万5000行のコード、数十種類のマイクロサービスをLinux Foundationに寄贈した。実は、Linux Foundationでも同種のプロジェクト(IOTX)が存在したのだが、FUSEのほうが進んでいたので両プロジェクトを統合することにしたのだ。

 EdgeX Foundryを立ち上げた背景には「IoT市場の混乱」がある。多数のプラットフォームが乱立しており、エッジのプロトコルもCAN Bus、Zigbee、Z-Wave、Bluetooth Low Energy(BLE)、EtherCAT、PROFINET、PROFIBUS、……と無数にある。それに加えてMQTT、AMQPなどのIoTプロトコルがある状態だ。いずれのプロトコルも業界ごとに見れば「標準技術」なのだが、結果としてそれぞれのプラットフォームはすべて異なるものになっており、統合されていない。

 そこで、PaaSの世界でCloud Foundryがやっているように、APIを利用してマイクロサービスをバンドルし、すぐに動くもの(アプリケーション)を作ることができないかと考えた。つまり、EdgeXが目指すものはIoTエッジの相互運用性(interoperability)のためのフレームワークであり、一種のミドルウェアとも言える。Linux Foundationに寄贈したのは、Cloud FoundryがLinux Foundation傘下のプロジェクトだからだ。Cloud Foundryと一緒に使うこともできるし、カスタムのバックエンドを作成することもできる。

EdgeX Foundryのコンセプト概要(公式サイトより)。多様な標準プロトコル(左)の違いを吸収し、さまざまなエッジコンピューティング処理を行うための共通フレームワーク(中央)を開発する

 大切なポイントは、EdgeXは一貫性を実現するための取り組みであり、新たな標準を作るものではない、ということだ。任意のハードウェアとOSで動き、どんなプロトコル、アプリケーション環境の組み合わせでも良い。さまざまなユースケースでエッジデバイス/アプリケーション/サービス間の相互運用性を実現する。

 EdgeXは商用目的の提携でもあり、エコシステムの確立も目指している。マーケットプレイスの役割もあり、各社が提供するデータベースやセキュリティのサービス、分析アプリケーションなどを、自社のデータ処理プロセスに組み込んで利用することも可能になる。

 現在のIoT市場は、選択肢が多すぎるあまり、半ば麻痺(まひ)状態になっていると言っても過言ではない。業界はもっと落ち着く必要があり、(EdgeX Foundryの立ち上げは)タイミングとしてちょうど良いと思っている。

――EdgeX認定のハードウェアが出てくるのはいつでしょうか?

シェパード氏:ハノーバーでのローンチ時には、52社から賛同をもらった。大手を含め、今後参加企業が増えるだろう。日本や中国の企業も参加すると期待している。

 各社がEdgeXに関心を示している理由は、業界の課題を解決できるからだ。ハードウェアメーカーの立場からは、相互運用性のあるパートナーエコシステムによってスケールが得られる。デバイスメーカーは、SDKを使ってアプリケーションレベルのデバイスドライバを一度作成するだけで済む。ISVは、接続部分を変えることなく最新技術を提供でき、外部アプリケーションとの相互運用性を得られる。プラグインすればセキュリティ、システム管理コンソール、分析、デバイスサービス、センサーなどを動かすことができる。OSを気にする必要はない。

 認定製品は2018年前半の登場を期待している。すでにIOtechというベンダーがEdgeXに商用サポートを提供することを発表している。Linux市場におけるレッドハットのようなビジネスだ。

EdgeX Foundryのプラットフォームアーキテクチャ。多様なデバイス(下)からのデータを収集/処理し、クラウドやデータセンターにあるバックエンドサービス/アプリケーション(上)に提供する役割を担う

デルのIoTエッジ戦略、グループ内の幅広いテクノロジーを活用

――IoTのビジネスは、Dell Technologiesグループ内でどのような位置付けになっているのでしょうか?

シェパード氏:わたしは戦略とパートナープログラムを担当しており、さまざまな企業との協業を通じて、われわれのIoT製品にアナリティクスなどのソフトウェア、セキュリティ、システム管理、視覚化などの価値を付加していけるようにしている。

 Dell Technologiesは、サーバー、ストレージ、ネットワークといったITインフラ、それにVMware、Pivotal、Cloud Foundry、Virtustreamなども擁する。たとえばVMwareは新しいIoTデバイス管理サービスを持ち、Virtustreamではマイクロ仮想マシンを作成できる。さらには、RSAがセキュリティ技術も提供できる。Dell Technologiesはこのようにさまざまな技術を持ち、パートナーや顧客がそれぞれのIoTプロジェクトを実現するツールを揃えている。

 ハードウェアとしては、IoTゲートウェイの製品を持っている。ゲートウェイはデータを受け取り、そのデータを正規化したうえでバックエンドに渡すのが役割で、センサー、医療機器やロボット、キオスク、POSなどシステムレベルの“モノ”を含め、さまざまなモノが多様な通信標準、プロトコルを利用して通信できるようにする。

 製品としては「Dell Edge Gateway」として展開しており、昨年、5000シリーズを発表した。モジュラー性と複雑な処理にも対応する処理能力を改善している。今年春には3000シリーズを追加しており、インターネットに接続できないレガシーなデバイスも接続可能にし、エッジでの基本的なアナリティクス能力も備える。産業グレードながら価格を抑えており、魅力的な製品だと自負している。

デルの「Edge Gateway 5000」

 3000を投入したので、今後は提携、リファレンスアーキテクチャやROIのユースケースの確立にフォーカスする。製品ラインナップの拡充は2018年以降となるだろう。

――エッジコンピューティングがトレンドですが、「ゲートウェイ」と「エッジコンピューティング」の使い分けはどうなりますか?

シェパード氏:ゲートウェイが行う処理の中心となるのは、デバイスやネットワークの「橋渡し」だ。しかし、すべて(のデータ)をクラウドに送るのは現実的ではない。そこで、エッジでのコンピューティングが注目されているというわけだ。

 たとえば、工場内に設置された大量の温度センサーが、5分おきに22度、22度、22度……とクラウドにデータを送るのは非効率だろう。変化がないのであれば、頻繁に送る必要はない。そもそも、この温度情報から空調のオン/オフを制御したいのであれば、クラウドに送らずにローカルのエッジコンピューティングで処理してしまうほうが適切だと言える。自動運転車のような瞬時の判断が必要なケースでも、クラウドに送って判断を仰ぎ、クラウドからの指令でブレーキをかける、というのでは遅すぎる。

 エッジコンピューティングでは高度な分析が可能になっている。コンピューターの歴史を見ると、中央集約化と分散化は交互に起きるトレンドであり、いまはまた分散化に向かっているとも言える。もちろん、エッジからゲートウェイを介してクラウドへという中央集約化の流れも続いており、用途に応じて使い分けることになる。

 先に挙げたように、エッジコンピューティングは異常検知が少ないような場合に適している。細かなデータをすべてクラウドに送るのは帯域や処理キャパシティの点から非効率であり、クラウドでは重要なデータのみを処理させるほうが良い。たとえば監視カメラ動画をすべてクラウドに送るのではなく、あらかじめエッジコンピューティングで顔認識処理を行い、知らない人が写っている場合のみクラウドに送る、といった方法だ。

 機械学習やAIという点では、Dell EMC Worldで「Project Nautilus」を発表した。大容量のIoTのストリーミングデータの保存と分析のためのソフトウェア定義ソリューションで、Dell EMCのECS(Elastic Cloud Storage)やisilonといったストレージとシームレスに利用できることを目指している。

■関連サイト

カテゴリートップへ

ピックアップ