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月刊アスキー創刊40周年、特別寄稿第4回

月刊アスキーは辛かった!!

2017年06月21日 12時00分更新

文● 中西祥智 / ASCII編集部

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中西祥智
角川アスキー総合研究所
(元月刊アスキー編集部)

 中学の頃、当時は天文シミュレーションの記事とかもたくさん載ってた『月刊アスキー』を、科学雑誌だと勘違いして熟読していた(でも買うお金はなかったので、毎月18日は駅前の本屋で1時間半立ち読み)ぼくが月刊アスキー編集部に配属されたのは、2002年の夏でした。

創刊4号目の特集は「マイクロBASIC」で、ゲームはStarTrek!!

 ASCII24という、いまのASCII.jpの前身となるWebニュースサイトから移ってきたのですが、物理的にはすぐ隣で、またときどき原稿も書いていたので、いろいろ勝手はわかっているつもりでした。けれども、実際にはWebから紙へというので仕事の手順は大きく変わり、戸惑うことも非常に多かったのです。なんとか一人前に記事を作れるようになるまで、どのくらい時間がかかったことか。

創刊当時のみんなの「マイコン」だった「TK-80」はこれだっ!!

 困ったのは、なんと言っても飯ですよ飯。月刊アスキー編集部の時間割では、夕食は夜中2時とかなので、当時アスキーのおとなりにあった吉野家か、道はさんだ先の炊きたてのご飯を異様なまでにてんこ盛りにした弁当を出してくれるポプラというコンビニか、貧乏な駆け出し編集者は基本その二択しかないわけです。家帰って自炊する時間はないし、近くにそんな時間にあいてる店はないし、どうせこじゃれた店に行くお金もないですからね。

 ところが、そんなぼくをある日、当時の遠藤編集長やH副編集長、Yデスク、編集部の面々が、麹町の「アジャンタ」というインド料理店に連れて行ってくれました。もちろん夜中の2時に。聞くと、アジャンタは東京のカレー店ヒエラルキーの頂点に君臨する偉大な店であり、また誰かをアジャンタに連れて行くというのは、月刊アスキー編集部員にとって最高のもてなしなのだそうです。

アジャンタ(略称あじゃ)の外観は当時から変わらない.お向かいのNTVは引っ越してしまいましたね...

 そこに連れてってくれるということは、ぼくもようやくいっぱしと認めてもらったということですね。と、ちょっと誇らしい気でいたのです。けれども、いざお店に着いてみると、初めてアジャンタに連れてきてもらって、というかそもそもまともなインド料理店に行くなんて人生で何回目かなんで、内心では、そのどこからどうみてもインドな内装と店員にびびりまくっておりました。店員さんは日本語わかるのでしょうか? カリー、プリーズとか言うべきなんでしょうか?

 メニューを見ても、キーマってなに? チキンはさすがにわかるけれども、マトンって馬肉でしたっけ。そして、どれも辛いんでしょうか? 柿の種もピーナッツなしではつらいぼくでも、平気なやつなんでしょうか。店内に満ちたにおいからしてすでにめっちゃ辛そうだし。そして、うかつな注文をすると、これやから田舎モンはと笑われるのではないでしょうか。

 ですが、関西の片田舎から出てきたぼくとしては、当然、東京モンになめられるわけにはいきません。それは血が、遺伝子が、ミトコンドリアがゆるさへん。なんで、いかなる場に出くわしても、わかってる顔をするわけです。実際には貧乏揺すりが止まらないくらいテンパってるけれども、顔では平然と「まあ、そこそこの店ですね」みたいな感じを必死で装っておりました。

 そんな、思考がぐるぐる回転していっぱいいっぱいになってたぼくに、「中西くんは初めてだから、あんまり辛くないマトンにしとけば」と、Yデスクが優しく助け船を出してくれて、マトンカレーを頼んでくれました。口では「いや、辛いの平気ですけれどもね。そうですか、いや、そうおっしゃるなら」と言ってはみましたが、ありがとうございます!そうなんですよ、ボンカレー中辛がぼくの限界なんです!

 優しい先輩に感謝して、このご恩はいずれかならずと思ってるうちに、結構すぐ、そのマトンカレーがやってきました。  え、めっちゃ油浮いてて、しかも縁のほうは赤いんですけど……。ここで躊躇するわけはかないので、スプーンですくって口に運び、念のため素早くご飯も口に放り込みます。お、確かにそんなに辛くないか? でも次の瞬間、のどが爆発しました。

右が「マトンカレー」で左が「キーマカレー」.アジャの黄金コンビです.瓶にはいっているのがアチャールね.

 盛大に咳き込みそうになって、でも口を閉じてなんとか抑え込み、鼻からブホッと鼻水と共に息を出します。汗が額に浮いて、首筋や背中もぞくぞくするのが分かります。舌が加速度的に膨張してるような気がします。あかん、これもう一回咳き込んだら終わる。耐えなあかん!周りを見ると、それまで各々話をしていた編集部員全員が、ぼくのほうを黙ってじっと見ているわけです。心なしか、半笑いの人も何人か。

 わかった! これ、はめられたんや! 辛くないやつとか言いながら、一番辛いカレー注文しよった! なんや、優しい先輩とかウソやん。だいたいYデスク、むっさ笑とるやんけ!

 これや、これが東京モンのいじめや。京都の人間よりはるかにいけずや。誇り高き兵庫県民として、こんなんぜったい負けるわけにはいきません。

 人生において、精神力で味覚をコントロールしたのは、後にも先にもこのときだけでしょう。その後、赤坂の陳麻婆豆腐を初めて食べたときには、素直に咳き込んで涙を流したものです。でもこのときは、竹槍でB29を撃墜できるくらい、持てる精神力を総動員し、ちょっと(かなり?)汗は流したものの、余裕な顔をしてマトンカレーを口に運び続けました。なるほど、まあまあですね、とか言いながら。

 予想した反応と違ったので、つまらなかったのでしょう。編集部員たちは、すぐに別な話題に移っていきました。勝ったで!おかん、オレは月刊アスキーに勝った。東京に勝ったんや! こうして、ぼくは心では絶叫しながら、マトンカレーを食べきったのです。

 そして15年経ったいま。タバコはやめられても、アジャンタは、マトンカレーは1カ月食べないと禁断症状が出るくらいになりました。月刊アスキーは、辛いものへの道を開きました。

中西氏がアジャを初体験したころ発表となったのが、手のひらにのるPC=VAIO「U101」です.

 なお、遠藤元編集長はいまでも、貧しい若者が、テイクアウトしたアジャンタのカレーを2回に分けて食べていたと、ときどきネタにしています。アジャンタのカレーは昔も今も決して安くないので、テイクアウトして、別でご飯だけ買ってきて2回に分けて食べれば、コストは半分になるというわけです。

 それはぼくのことなんですが、でも間違っています。正確には、マトンカレーを3回に分け、アチャール(おまけで付いてくるお漬け物)で1回の、全部で4回に分けて食べるのです。実にリーズナブルなのです。  

月刊アスキー創刊40周年リレーコラムは 明日も公開の予定です!!

復刻版について

月刊アスキー復刻版は、当時出版されたものを、そのまま再現しており、広告等も、当時のコンピューター業界を知る手だてと考え、そのまま収録しております。また、記事および広告における住所・連絡先等は、誤用防止のため削除しております。ご理解の上、ご利用いただけると幸いです。

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