XJACKの発明で事態が一転
会社が急成長
さてこのまま推移していれば、Megahertzの名前が世界中に知られることはなかったのだろうが、モデム用のICの進歩により、PCMCIAカードの中にファックス/モデムの機能が入れられるようになったことで事態は一変する。
もうラップトップPC本体に大きな拡張カードのスペースを用意する必要も、外付けで大きなモデムを持ち歩く必要もなくなり、PCMCIAカードを1枚装着するだけでモデムが利用できるようになったからだ。
やや時期がずれるが、Dataquestの調査によれば1994年に1420万台のラップトップPCが全世界で販売されており、このうちの80%にPCMCIAスロットが搭載されていたそうだ。1993年はもう少し数字が低いと思うが、それでも過半数のラップトップPCはPCMICAが使えたはずだ。
ラップトップPC向けのモデムを販売していたメーカーは、一斉にPCMCIAタイプのモデムのラインナップをそろえることになった。
ところが問題が1つ。PCMCIAカードは、厚みが3mmほどしかなく、このままでは電話線のコネクター(RJ11)を装着できない。結果、各社はRJ11を装着するためのドングルを別に用意したのだが、MegahertzはここにXJACKと呼ばれる革新的な機構を導入した。
画像の出典は、“PC Magazine 1993年11月9日号”
RJ11用のコネクターはPCMCIAカードに内蔵され、押すと本体から飛び出てくる。ここにRJ11を縦に差すことで、通信できるようになる仕組みだ。通信が終わったらRJ11を外し、コネクターを押し込むとすっきり収まる。
外部のドングルを必要としないというXJACKのスタイルは、当時のラップトップPCユーザーの絶大な支持を集めた。これを開発したのはAldous氏で、当然氏はこれに関して特許を取得しており、競合メーカーはこの方式を利用できなかった。
このXJACKにより、Megahertzは急激に売上を伸ばす。XJACK方式の製品発売と同じ1993年には株式上場も実現し、さらに製品展開を広げるなどして順調に売上を伸ばしていった。
画像の出典は、“Infoworld 1995年11月6日号”
最終的にはU.S.Roboticsに2億1300万ドルで買収されたが、当時のU.S.Roboticsの推定によればこの買収で売上を1億2000万ドルかさ上げできると見込んでいたため、そう高くない買い物であったとも言える。
当時U.S.RoboticsはPCMCIAカード向けではあまり有力な製品を持っていなかったため、この買収は理に適ったものだった。
またこのXJACKの製品ラインは、その後3COMの買収後も維持されており、3COMのPCMCIA/カードバス製品にも使われたので、買収して四散ということもなく、うまく活用されたと言ってもいいだろう。
逆にMegahertzの視点から見ると、もしも買収されなかったとすると1990年台後半からは本格的な売上の低下に苦しむことになっただろう。この頃になると、モバイルPCにモデムが標準で内蔵され始めたため、ユーザーがPCMCIA/カードバスのモデムを買い足す必要性がどんどん薄れていったからだ。
さらに2000年代に入ると無線LANが次第に普及を始めており、この頃にはMegahertzが単体で生き残るのは難しかっただろう。その意味でも、いいタイミングで買収されたというべきなのかもしれない。
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