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「The Machine」実証実験に成功、数年後にはその新技術がさまざまなHPE製品に搭載される

HP Labsフェローに聞く“メモリ主導型アーキテクチャ”はなぜ必要?

2016年12月27日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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The Machineを構成する幾つかの新しいテクノロジー

 さて、こうした特徴を持つメモリ主導型アーキテクチャを、現実のコンピューターとして実装する取り組みがThe Machineプロジェクトである。実装のために、同プロジェクトでは幾つかの新しいテクノロジーの研究開発に取り組んで来た。その研究開発は現在もまだ継続中だが、今回の実証実験では、プロトタイプ機においてこれらの基本テクノロジーが連携動作することが確認されている。

 1つめの新たなテクノロジーは、大容量のメモリプールを構成するための「高速かつ大容量の不揮発性メモリ」だ。HPEの将来計画では、このメモリプールで従来のHDD/SSDストレージを置き換えるだけでなく、メインメモリすらもこのメモリプールから切り出して使うことになっている。

 つまり、これまでのようなキャッシュメモリ/メインメモリ/ストレージという階層(Tier)がなくなり、それらが融合した1つの階層となる。これを実現するためには、DRAMに匹敵するアクセススピードを持ち、なおかつHDDと同等の大容量/低コストな、次世代の不揮発性メモリを開発しなければならない。

現在(左)はキャッシュメモリ/メインメモリ/大容量ストレージという階層が存在するが、The Machine(右)では高速かつ大容量の不揮発性メモリ(ユニバーサルメモリ)でこれを統合しようとしている

 次に、ノード内部のバス、複数ノード間のインターコネクト、さらにプロセッサが共有メモリプールにアクセスするためのメモリファブリックに用いられる「フォトニクス(光通信)」の技術だ。フォトニクスの利点は、細いケーブルで大容量の通信を実現できるうえ、通信距離にかかわらず(ブレスニカー氏いわく「10センチでも数千メートルでも」)低消費電力で通信ができることである。これにより、複数台のラックをまたぐ共有メモリプールも構成できる。

 また、クラスタを構成するコンピュートノードのプロセッサには、汎用的なx86だけでなく、ARM、GPU、DSPなど、特定の用途やワークロードに特化した「SoC(System on a Chip)」を組み合わせることもできる。これにより、たとえばビッグデータ処理やディープラーニングといったワークロードも、最適なプロセッサ構成で実行できるようにする。

 今回HP Labsが開発したプロトタイプでは、1つのブレードに、32プロセッサコア+256GBのDRAM(ローカルメモリ)のコンピュートノードと、共有メモリプールを構成する4TBの不揮発性メモリノードが、互いに独立したかたちで格納されている。このブレードを格納するエンクロージャー(筐体)には、シリコンフォトニクスエンジンを搭載したファブリックスイッチが格納されており、ノード間をブリッジして大規模な共有メモリプールを構成する。

ブレードはコンピュートノード、共有メモリノードに分かれており、各々が独立して動作している

エンクロージャー内でブレード間をファブリック接続するスイッチ

 このプロトタイプでは、エンクロージャー1台あたり10ノード、1ラックあたり8エンクロージャーが格納できるため、共有メモリプールの容量は1ラックあたり最大320TBとなる。また、フォトニクスは4種類のレーザー光を使った波長多重伝送(WDM)方式で、1ケーブルあたり最大1.2Tbpsの伝送容量を持つ。

 すべての共有メモリノード間を接続するファブリックが存在することで、プロセッサは他のノード/ラックにあるメモリに保存されているデータにも、他のプロセッサを介することなくダイレクトにアクセスできる。これによりレイテンシが低く抑えられる。

 なお、あるデータのメモリプール上の格納位置(どのノード/エンクロージャー/ラックに保存されているか)は、個々のノードではなく“ライブラリアン(Librarian)”と呼ばれるデータベースサーバーで集中管理する仕組みが検討されている。各ノードのプロセッサは、このサーバーにデータの格納位置を問い合わせてからアクセスするわけだ。

各コンピュートノード上のアプリケーション/OSが、共有メモリノード上のデータにアクセスする仕組み(Librarian)

 複数ノードをまたぐ共有メモリプールという特殊な仕組みを可能にするため、HPEではDebianベースで、独自のファイルシステムやライブラリを追加実装したLinux OSを開発している。将来的にこのファイルシステムでは、共有メモリにアクセスする際のソフトウェア的なオーバーヘッドを削減し、従来のファイルシステムを利用してNVMを扱うよりも大幅にレイテンシを短縮するようになるという。

HP Labsが開発するThe Machine向けLinuxの概要。既存のLinuxをベースに、不揮発性メモリ/共有メモリプールに最適化されたファイルシステムやライブラリが追加されている

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