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人工知能は教育をどう変える? 徹底対談 ― 第1回

品川女子学院 漆校長×人工知能プログラマー 清水亮

【対談】人工知能は教育をどう変える? 2020年に向けた日本の「学び方」と漆紫穂子校長が気づいたこと

2016年11月17日 17時00分更新

文● イトー / Tamotsu Ito

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 人工知能の産業への応用は、ディープラーニング(深層学習)の発展で急速に進み始めています。'80年代のパーソナル・コンピューターがそうであったように、「人が人工知能を身につけること」を前提した教育は、きっと今までにないものになるはずです。

 現実の企業との共同制作「企業コラボ」など、まったく新しい社会体験をカリキュラムにもつ品川女子学院の漆紫穂子校長は、人工知能プログラマーにどんな疑問をぶつけるのか? 短期集中連載でお届けします。

※このシリーズは、2016年10月17日(月)に開催した「『よくわかる人工知能』発売記念セミナー」での対談を編集・記事化したものです。

「人工知能は教育をどう変えるか?」というテーマのなか、教育者として語る品川女子学院の漆紫穂子校長(左)。右は「よくわかる人工知能」著者の清水亮氏。「よくわかる人工知能」発売記念セミナーにて。

漆 皆さん、こんばんは。品川女子学院の校長やっております漆と申します。この本を(清水さんに)「よくわからない」と言ったのは、私なんですね。「難しい話じゃないから来てくれ」と言われて、発売されたばかりなので、今日読んだんですよ。全然わからなくて、これ。私、今日まずいなと思ってますので、横文字禁止でお願いします。

 私、ビデオの予約するのがやっとぐらいの機械音痴なんですけど、この前ばったり清水さんに会ったときに、「今一番興味があるのが人工知能だ」って言っちゃったんですよ。なんで興味があるかというと、中高生を教えてるので、松尾 豊さん(「人工知能は人間を超えるか」著者。東京大学大学院 特任准教授)のお話を何度か聞いて、すごいショック受けたんです。

 たとえば英語教育って、いまは一番大事だって偉そうに言うじゃないですか。だけど、この子たちが大人になるときにも必要な力として残ってるんだろうか? と思ったときに、人工知能に何ができて、何ができないのか、というのを見極めておく必要があるのかなと。

Image from Amazon.co.jp
よくわかる人工知能 最先端の人だけが知っているディープラーニングのひみつ

清水 英語はもう自動翻訳のほうが良くなっちゃいますから。今でも下手な人間より自動翻訳のほうが良いかなと思いますけどね。

漆 今、私、教育再生実行会議という教育改革をするところの委員をやってるんですが、教育界ですごく注目されている能力に、「非認知能力」というのがあります。認知能力というのは数字で認知できる力、IQとか、偏差値とかなんですけど、実はそれ以外の力のほうが大人になったとき役に立つと。それがいろんな国で教育調査とかが進んで、はっきりしてきたんです。

 ちなみに日本でも教育経済学の調査があって、今から言う4つのしつけを全部している家としてない家では、大人になったときの年収が86万円ほど違うというんですよ。そのしつけというのが、「嘘をつかない」「約束を守る」「人に親切にする」「勉強する」。

 そういうことで、数字じゃない、記憶じゃない力というのが最後に残るのかなと思っているんです。AIでも「親切にする」ってできるんですか?

清水 「親切にする」は、結構数値化しやすいので、できちゃいそうな気がします。今この瞬間のAIができないのは、答えがない問題を解くこと。つまり、正解がない問題ですね。人工知能が学習する際に使う学習データセットって、基本的には(たとえば)「この写真はネコですよ」という答えがあるわけです。それは学習できる。同じように、「その行為は親切ですか」というのは、かなり客観的に評価できますよね。

漆 できますね。

清水 ですから、たぶんできます、それは。「非認知能力を育てる」の範疇である「嘘をつかない」「約束を守る」「勉強する」も......。

漆 全部できちゃう(笑)。

清水 でもこれ、非認知能力と言いながら、あまり今までやってることと変わってないですよね。僕は、嘘ついたほうがいいかもしれないなと思ってますし。だって小説とか、全部嘘じゃないですか。嘘の中に真実がある、みたいな。

 実は嘘をつくことってすごく難しくて、嘘つくことほどクリエイティブな才能ってないですから。「この見積もりは、なぜこの金額なんだ」と言われたときに、大人って「いや、それはですね」「ここに来るまでに何年かかったと思ってるんですか」みたいな、そこは口からでまかせであっても、言わなきゃいけない可能性もあるじゃないですか。そっちのほうが生きる力として役に立ちませんか。言い逃れとかね。

 勉強する? 何を勉強するんですか、一体全体。僕、むしろ勉強する能力なんていらないと思う。なぜかっていうと、それはコンピューターにやらせればいいわけで、この先勉強する能力というのは、ほぼ役に立たなくなる可能性が高い。むしろ僕だったら、非認知能力を育てるのだったら、「遊ぶ」「さぼる」「嘘をつく」。

漆 清水さんの場合はね。私だったら、打たれ強さとか。

清水 打たれ強さ、大丈夫ですかね。打たれ強すぎると、ブラック企業でこき使われて、それでも真面目だから限界まで働いて、ついに病気になったり、悪くしたら自殺してしまったり……というところまで追いつめられちゃうんじゃないですか。そういう生真面目さというのは、まさに「約束を守る」「嘘をつかない」「勉強する」っていう、3要素を忠実に守った結果ですよね。でも本当は、会社の仕事なんて人生より大事なわけがない。

漆 サボるが大事ですよね。

清水 「遊ぶ」「サボる」「嘘をつく」という要素を守ったら、絶対そうはならないですよ。だって、約束を守らなきゃいけない、嘘をついちゃいけないから、言われたとおりにやって、勉強しなきゃいけない、勉強するってことはどういうことだって言ったら、偉い人の言うことを聞いて覚える。興味があろうがなかろうが、意味があろうがなかろうが、何百年も前の人が適当に書いたラブレターや戯言を暗記する。それをすることでしか勉強したと言えない。社会に出てもそういうやり方しかしらない。すると、もう逃げ場がなくなっちゃうってことになるんじゃないでしょうか。

 僕だったら、疲れたなーと思ったら「私、昨日徹夜で2時間しか寝てません」みたいなこと言いながら、カプセルホテルのデイユースに行きますね。それは自分の人生が一番大切だから。それを見つかって怒られても、仕事がきちんとできてれば問題ないわけで。成果だしてなきゃダメですよ。でも成果を出しているのなら方法はなんでもいい。

漆 いるんですよね、そういう生徒っていうのは(笑)。でも私、人工知能の教育と子供の教育がすごく似てるなと思ったのは、本番に弱い子、本番に弱いAI。真面目な子で、一所懸命演習して、本番になると応用がきかない子がいる。そういう子ですよね、このAIちゃんはね。

清水 そうですね。「勘違いちゃん」と僕は呼んでます。

漆 「勘違いちゃん」。そういうのもあるのかなぁ。

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