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シャープ、複合機事業の継続および自律走行監視ロボット事業の説明会

2016年10月27日 09時00分更新

文● 大河原克行、編集●ハイサイ比嘉

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 シャープは、ビジネスソリューション事業の取り組みについて説明した。複合機事業の継続性を訴える一方で、新たな事業領域として、工場の生産技術を活用した次世代スマートファクトリー事業を展開。自律走行監視ロボット事業に乗り出す姿勢を示した。シャープのビジネスソリューション事業本部長の中山藤一専務は、「独自技術とサービスにより、お客様の業務の生産性向上を実現するというミッションのもと、ビジネスを行なうお客様にとって『なくてはならない価値』を提供する事業体を目指す」とした。

シャープのビジネスソリューション事業本部長の中山藤一専務

公開した自律走行監視ロボット

 シャープのビジネスソリューション事業は、オフィスの生産効率を高め、コミュニケーションを円滑にすることをサポートする「スマートオフィス」ソリューション、流通現場の生産効率を向上させるためのハードウェア、システム、アプリケーションで構成する「リテールソリューション」、パブリックスペースでの情報発信や効率的な広告活動を支援する「サイネージソリューション」、さらに今後の事業化を目指す「新規事業」の4つの事業領域に分類される。

 スマートオフィスでは 企業やオフィスのセキュリティを確保しながら、現場のコミュニケーション効率を高めて、迅速な決断につなげる提案を行なう考えを示し、「情報のインプット、アウトプットを可能にするスマートオフィスの実現に貢献したい」と語る。

複合機事業の売却を否定

 スマートオフィス事業の中核になるのが複合機事業である。

 一部報道では、シャープの複合機事業売却が取りざたされたが、中山専務は、これを否定するような形で、今後の製品戦略などを説明した。

 複合機市場は、印刷速度の違いによって、速度の遅い方から、1~6までのセグメントに分類されており、セグメント6は、1分間に91枚以上という速度を持ち、1000万円以上の価格になる製品も含まれるという。

複合機市場は、印刷速度の違いによって、速度の遅い方から、1~6までのセグメントに分類されている。シャープは、31~44枚/分のセグメント3のカラー製品では、20%弱のシェアを持っている。だが、45~69枚のセグメント4では、シェアは小さく、今後伸ばすべき領域になる。

 「シャープは、31~44枚/分のセグメント3のカラー製品では、20%弱のシェアを持っている。だが、45~69枚のセグメント4では、シェアは小さく、今後伸ばすべき領域になる。すでに手を打っており、昨年から新たに9モデルを投入した。また、大手複合機メーカーが展開しているセグメント5および6については、カラー高速デジタル複合機のMX-7500Nをリニューアル。

 2016年度下期には、セグメント5におけるカラーの新製品や、セグメント6へのモノクロ新製品を投入する予定。この分野は、印刷機械の領域にも入るような大きなシステムであり、各社とも、ドキュメント事業の方針に悩んでいるのが実態。シャープでは、オフィスや集中印刷にも注力する考えであり、トナーなどのサプライの売り上げを高めるためには、設置台数の増加が重要になる」とした。

 また、21~30枚/分のセグメント2においては、2017年度以降に、鴻海との共同開発や資材調達力を活用したカラー新製品の投入を計画。「鴻海が持つ強力な購買、生産、物流といったバリューチェーン全体でのバックアップを得ることで、このセグメントに力を入れることができる。東南アジアやアフリカが主要マーケットとなり、シャープのシェアは大きくないが、台数増が見込めるため、工場操業の観点からも今後注力していく」と語った。

ネットワーク機器やリテール機器で鴻海グループの力を活用

 さらに、ネットワーク機器やリテール機器などについても、鴻海グループが持つ商材を活用。2016年度下期から投入していくことになるという。

 「鴻海はネットワーク機器やリテール機器において、様々な商材を持っている。サーバー製品も幅広く取り揃えている。こうした製品を仕入れた展開も可能であり、今後、品質保証やサポート体制を整えることで、シャープブランドでのリテール向け展開が可能になる」と述べた。

 CEATEC JAPAN 2016のシャープブースでは、鴻海が製品化しているセンサー製品を数多く展示して話題を集めたが、こうした取り組みがビジネスソリューション事業にも展開されることになる。

 「鴻海グループとは、商材、ソリューション、販路、顧客の4つのレイヤーにおいて、シナジーによる事業拡大を想定している。鴻海は、データセンターを構成する商材も持っており、ソリューション事業グループも持つ。一方で、シャープから鴻海に提供するものもあり、今後、売上高を一気に伸長させるポテンシャルがある」とした。

 複合機の販路拡大に向けて、ディーラーの買収も視野に入れていることにも触れ、「これまで業績悪化により、投資を一時期抑制していたが、従来のペースに戻していく。鴻海グループとのシナジーのひとつとして、M&Aに関する鴻海の知見を生かし、効率的な投資を目指す」とした。

シャープが得意分野とするリテールソリューション

 また、シャープが得意分野とするリテールソリューションでは、バックオフィスの生産性向上やデータ分析による集客力向上、デジタルサイネージを活用したインストアサービスなどに取り組む。サイネージソリューションでは、コミュニケーションのビジュアル化、最適な映像空間のデザイン、サイネージコンサルティング新規事業に取り組む考えを示した。

 さらに、新規事業においては、パブリックスペースでの行政サービス、公共インフラとしての高齢者見守りサービス、 ロボットによる搬送の自動化、屋外自律走行型セキュリティロボットなどに取り組む考えを示した。

自律走行監視ロボット事業への取り組み

 新規事業では、新たにスマートファクトリーにも取り組む考えを明らかにした。

 「鴻海グループは、世界最大のEMSとして多くの工場を持っており、シャープも、多気、亀山、堺に液晶パネル工場を展開している。ビジネスソリューション事業本部には、工場の生産技術や工場の設計能力があり、鴻海の生産技術担当部門と一緒になって、次世代のスマートファクトリーを作るための取り組みを進めている」と語る。

 その中で、今後の注力分野のひとつに位置づけるのが、自律走行監視ロボットだ。これはシャープが独自に開発を進めてきたもので、米フロリダ州で9月12日から開催された世界最大規模のセキュリティショー「ASIS2016 (American Society for Industrial Security)」の同社ブースに試作機を展示。高い関心を集めたという。

 「米国では、オバマケアの施行の結果保険料加入が義務づけられ、その裏返しとして人件費の高騰が課題となっている。例えば、警備会社の経費は8割が人件費といわれているが、このロボットを導入することで警備員を減らすことができ、数年で投資を回収できる。ASIS 2016への出展後、警備会社をはじめ、200社以上のお客様から問い合わせをいただき、手応えを感じている」とする。

 シャープの自律走行監視ロボットは、本体には5台のカメラを標準搭載し、GPSや無線LANにより、あらかじめ設定した巡回ルートを自律走行。カメラで監視するセキュリティシステム。固定式のセキュリティカメラではカバーしにくいエリアの監視が可能。警備員による巡回業務の省力化に寄与するという。

 また、ターン性能に優れているのも特徴だという。一般的な自動走行ロボットでは、じゅうたんの上でターンすると絡まって旋回できなくなるが、シャープのロボットでは、定位置で180度~360度ターンできるとしている。

 「優れたターン性能は、複写機の開発で培ってきたメカ制御技術を活かしたもの。GPSとWi-FIで自分の場所を把握し、指定されたルートを監視走行できる。また、カメラの画像はコントロールセンターに送ることができる」という。「今後、鴻海と連携しながら、この事業を育てていきたい」とした。

 全長は約1.5m、全高は約1m、重量は約200kgで、2017年初めに米国で発売する予定だ。

 なお、「スマートファクトリーの本格的な事業展開については、検討を始めたところであり、時期や事業規模は未定」とした。

売上高の6~7割がオフィスソリューション

 シャープのビジネスソリューション事業の売上高は、2009年度には2573億円だったものが、2015年度には、3551億円にまで拡大。着実に事業を拡大させている。

 売上高の6~7割がオフィスソリューション。残りはリテールソリーションとサイネージソリューションで、両事業は同等規模。サイネージソリューション事業の伸長率が高いという。

 「複合機事業の今後の成長においては、優れた商品を開発することが重要。当社は複合機のほか、テレビ会議システムやディスプレイなど、様々なオフィスソリューションを有する。他社にない商材と組み合わせたソリューション展開を図っていく」と語る。

 同社では、今後の事業拡大の方向性として、ビジネスソリューション事業本部だけの取り組みに留まらず、「One Sharp」としての取り組みを加速する姿勢を示す。

 「戴正呉社長による新体制では、各ビジネスユニットがすべてのアセットを抱え、投資から人材育成までを、各ビジネスユニット単位で実行する。つまり、各ビジネスユニットの事業責任者は、経営者としての素養や資格が厳しく問われている。

 さらに、体制が強化された各ビジネスユニットを横串にしたOne Sharpとしての強みを発揮することで、輝けるグローバルブランドを目指す。ここでは、クラウド、IoT、通信技術を活用も重要になる。また、シャープの商品ラインアップに不足があるときは、鴻海グループからのサポートを得ることができ、全体として不足のない、バランスの取れた事業体の運営が可能になる」とした。

IoT通信事業

 通信事業本部が持つIoT通信事業では、AQUOSスマートフォンやロボホンなどにおいて、BtoC展開だけに留まらずBtoB展開も開始。クラウドサービスでは、対話を実現するエンジンを進化させ、BtoBビジネス領域でも活かしていきたいとした。

 「IoT通信事業本部が構築しているSharp IoT Platformを活用して、ネットワーク化されたホーム、オフィス、サテライトなどを相互につながり、シームレスな生産活動や事業活動が可能になる。そのような環境を提供することで、One Sharpによる事業の拡大を進めたい」とした。

 シャープは、2016年度通期見通しを、11月1日の決算説明会で公表する予定であり、その場で、今年度のビジネスソリューション事業の計画が発表されることになる。

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