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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第367回

業界に痕跡を残して消えたメーカー 世界最初のIBM-PC互換機メーカーCOMPAQ

2016年08月01日 11時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII.jp

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リスク覚悟でCPUをウェハー単位で購入

 Compaq Portableに続き、COMPAQは技術力を武器に「IBMより優れた互換機」を提供することで着実にシェアを増やしていく。1984年6月には、初のデスクトップであるCOMPAQ DeskProを発売する。

 IBM-PCやIBM-PC/XTが、いずれも外部バス8bitの8088を4.77MHzで駆動していたのに対し、DeskProは外部16bitバスの8086を8MHzで駆動しており、ずっと高性能であった。

COMPAQ DeskPro。ちなみに当時、動作周波数が4.77MHzであることを前提に動作するソフトウェアがあった関係で、DeskproにもNormal(4.77MHz)とTurbo(8MHz)を切り替えるスイッチがあった。後のAT互換機のTurboスイッチの元祖がこれである

 ただCOMPAQ DeskPro発売の6週間後、IBMは6MHzの80286を搭載したIBM-PC/ATを発売する。COMPAQはただちにこれに追従、1985年には8MHzの80286を搭載したDeskPro 286とPortable 286を発表した。

 おもしろいのはこの開発にあたってはインテルとも密接に取り組んでおり、実際COMPAQのエンジニアが80286の互換性に関するバグをインテルに報告したりもしていたらしい。

 最初の80286のロットは6MHz駆動であったが、DeskPro 286ではバグを修正して8MHzに性能を上げたセカンドバージョンの80286を搭載しており、512KBのRAMと30MBのHDDをセットにした構成が6254ドル、512KBメモリーと20MBのHDDを搭載したPortable 286は6299ドルという値付けになっていた。決して安価とはいえないが、IBM-PC/ATに比べるとお買い得感は高かった。

 これに続き、1986年には世界で最初に80386を搭載した互換機であるDeskpro 386を発表する。IBMが386搭載のマシンを投入したのは1987年のことで、ここでついにIBMに先んじることになった。

 もっとも、Canion氏の“Open”を読むと、これはそれなりにハイリスクな賭けだったらしい。1986年1月の時点で、インテルはCOMPAQが希望するほどの386を出荷できる状況にはなかったとしている。

 策はあって、不良ダイを含むウェハー(本文では'risk' wafer)単位で購入することは可能だったが、そのウェハーからいくつ稼動する386を取れるのかはわからないというものだった。

 80386の発表そのものは1985年だったにも関わらず、IBMは稼動するチップが十分供給される1987年まで出荷を遅らせ、他方COMPAQはリスク覚悟でウェハー単位で購入、Deskpro/386を発表する。

 実はこのDeskpro/386にはもう1つ、大きな変革があった。それはFlexアーキテクチャーと呼ばれる技術の搭載である。実際にはFlexアーキテクチャーは複数世代が存在しており、これはその最初のものであるが、要するにバスブリッジである。

 当時XTバスは8088の、ISAバスは80286の信号線をそのまま引っ張り出した構成になっていた(このあたりは連載106回で説明した)が、386で同じことをするのは難しかった。なにしろバスの速度が全然違うという問題があった。

 メモリーアクセスは当然25MHzか33MHzのフルスピードで行ないたいが、ISAバスは8MHzや8.33MHzなので、途中で分周する必要がある。であれば、ISAバスとCPUのバスを分離し、間にブリッジを噛ませば問題ない、というのが基本的な発想である。これは、続くMCA(Micro Channel Architecture)との対決で有用性を増すことになった。  

 1987年にIBMはPS/2シリーズを発表するが、ここで全面的に採用されたのがMCAという新しい拡張バスのインターフェースである。IBMはこのMCAを利用するにあたって高額のライセンス料を取るという方針を固めた。

 COMPAQは当初、このMCAのリバースエンジニアリングを試みる計画を持ったものの、法的な問題に加え、32bit幅のMCAが発表されつつ実機が登場しないため、リバースエンジニアリングができないといった問題があった。

 最終的に1988年1月、同社は業界メンバーを募ってMCA対抗となる新しいバス規格を定めることを決める。同年9月、AST Research/Compaq/Epson America/Hewlett-Packard/NEC Information Systems/Olivetti/Tandy/Wyse Technology/Zenith Data Systemsという9社が共同で、EISAを発表する。

 結果から言えばEISAはそれほど普及しなかったが、それでもMCAの普及を止めるには十分な効果があったし、またEISAを利用することでCOMPAQはサーバー向け製品を投入するきっかけができたので、少なくともCOMPAQ的には成功したといえるかもしれない。

 そのサーバー向け製品の最初のものが、1989年に投入されたSystemProである。SystemProのなにがすごかったかというと、やはりFlexアーキテクチャーを利用した、80386/33MHzのデュアルプロセッサー構成だったことだ。

SystemPro。独特なフロントパネル形状がわかる。CD-ROMドライブは後追いでユーザーが追加したものと思われる

 インテルがデュアルプロセッサーを自社のチップセットで公式にサポートしたのはPentiumのP54C/P54CSであり、これはCOMPAQが独自に開発したものである。

 ちなみにCPUは当初こそ386だったが、後追いで486に入れ替えたり、386+486なんて構成にすることも可能だった。I/OバスはEISAを利用し、ハードウェアRAIDカードなども搭載された本格的なものである。OSはSCO UnixやOS/2、NovelのNetWare、あるいはWindows NTも一部サポートされた。

 Canion氏は1989年11月に開催された記者会見でSystemProについて「HP9000 Series 835と比較して3倍高速で6万8000ドル安価。そしてVAX 6310と比較すると6倍高速で13万5000ドルも安い」と説明している。このあたりは、この後の歴史を考えるといろいろ皮肉めいたものを感じてしまう。

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