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高橋幸治のデジタルカルチャー斜め読み ― 第17回

iPhone SEから考えるジョブズの意志と手の重要性

2016年03月25日 09時00分更新

文● 高橋幸治、編集●ASCII.jp

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ジョブズがペン入力を徹底的に嫌った理由

 本連載で以前ダニー・ボイル監督の映画「スティーブ・ジョブズ」のことを書いたが、劇中後半、アップルに復帰したジョブズがかつての盟友でもあり宿敵でもあるジョン・スカリーに、同社のPDA(Personal Digital Assistant)「Newton」の開発を中止した理由を告げるシーンがある。

 「ペン入力では指が使えないからだ」と。

 PDAとはスカリーが考案した言葉であり、Newtonは彼の肝入りのプロジェクトでもあった。しかし、ジョブズはいわゆるペンによる情報の入力や操作を徹底的に嫌っていた節があり、筆者も「MacPower」の編集をしていた時代、幾度となくジョブズのプレゼンを見たことがあるが、たびたびペン入力に難癖を付けいていたのを記憶している。

初代iPhoneが発表された「Macworld Conference & Expo 2007」でのスティーブ・ジョブズによる基調講演の一幕。「Who wants a stylus ?」(誰がスタイラスなんてほしがるんだ?)という辛辣な言葉が印象的である

 ジョブズがどんな信条でスタイラスをかたくななまでに拒否していたのかは定かでない。だが後にiPhoneを世に送り出し、タッチパネルにおける指での直接的なオペレーションを実現した経緯を見る限り、“ペンという道具を介在させた間接的な入力を忌避していた”というよりは、“指による触覚的な操作に徹底的にこだわっていた”というほうが正しいのかもしれない。

 彼の復帰後にリリースされた「iPod」という聴覚デバイスを引き合いに出すまでもなく、どうもジョブズは視覚以外の感覚器官にひとかたならぬ関心を抱いていたのではないかと思えてならない。

 そして、今回のiPhoneの小型化である。いまやもうジョブズはこの世にいないけれども、視覚装置であると同時に触覚装置でもあるiPhoneは、手と指へのなじみやすさが製品の重要なファクターとなる。おそらくこのあたりの開発コンセプトはジョブズ亡き後もアップル社内に継承されており、若干大きくなりすぎた本体サイズの修正が企図されたのではないか……?

 人間の脳と手、そして指との関係は非常に緊密なものであり、二足直立歩行に移行した人類の祖先の手がカンガルーのように退化してしまわなかったのは、手と指の機能の複雑化と精密化が脳の異常なまでの発達をうながし、その共進化がやがて人類とほかの霊長類との圧倒的な差異を生み出す契機となったからである。

 アメリカの神経科医であるフランク・ウィルソンは「手の五〇〇万年史―手と脳と言語はいかに結びついたか」の中で次のように述べている。

 “「手と脳の複合体」が進化しつづけるにつれ、ヒト科の手は改良されつづけた。われわれのもっとも初期の先祖は創意にとむ道具使用と、象徴的表現や指示や伝達の手段としての身振りの大きな助けを受け、危険の多かった放浪生活を世界的な移住に転換した。ホモ・エレクトゥスの世界規模の分散や手と脳の共進化と一致して現代のホモ・サピエンスが出現し、われわれが人間の知能として論じるものが出現したのである。”

Image from Amazon.co.jp
アメリカの神経科医フランク・ウィルソンによる「手の五〇〇万年史―手と脳と言語はいかに結びついたか」(新評論)。手と指の複雑かつ巧妙な発達が脳の進化を促し、サルからヒトへの移行に大きく貢献したというユニークな視点による論考

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