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ベンダー、パートナー、ユーザーで製品を育てた1990年代を追う

ヤマハルーター立ち上げの舞台裏、販売現場から見えたもの

2015年12月22日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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売れた秘密はラインナップ、コミュニティ、コスト、そして音叉マーク

 ヤマハルーターはなぜ売れたのか? 「外資系ルーターはコスト的に導入が難しいというユーザーがヤマハに流れたのは確かです。あと、ヤマハが設定や詳細な技術情報を公開し、ファームウェアを無料で配り、事実上のサポートをメーリングリスト(rt100i-users)でやっていたというのが大きい」と谷山氏は分析する。特に外資系ベンダーのサポートを受けにくい地方においては、メーリングリストでユーザー同士が互助するという仕組みは大きかった。「それまではコミュニティは苦手でしたが、ヤマハのメーリングリストでは自分が試してみたことが、喜んでもらえる。仕事で始めたとはいえ、すごいやりがいでした。今でもrt100i-usersの谷山さんですねと言われます」(谷山氏)。

 そして、こうしたユーザーの声が製品に反映され、機能として実装される。まさにベンダー、販売パートナー、エンドユーザーが育てたのがヤマハルーターの本質と言える。「お客様が困っているところに、きちんと耳を傾け、製品に反映する。アーティストといっしょに楽器を作っているようなやり方。こんなやり方はヤマハしかできない」(谷山氏)。

 ラインナップ、コミュニティとともに重要だったのはやはり価格だ。WANの回線費用が高かった当時、20万円を切るヤマハルーターは「安すぎる」とまで言われた。「2台50万円で拠点間をつなげるなんて、企業にとっては夢のような話。しかも、専用線の監視機能を使い、回線障害の際はISDNでバックアップすれば良く、正常時は一時的に複数のISDN回線を束ねた高速通信もできた」(谷山氏)。

 そして、谷山氏がヤマハルーターが愛された理由として指摘するのは、やはりヤマハのブランド。「楽器作ってるヤマハがルーターなんて、どう考えても畑違いという声もあった。でも、楽器を作っているヤマハは、人を優しく束ねる仕事をしている会社。やっぱり(ヤマハの)“音叉マーク”に共感する人たちは多かったと思いますよ。そんなヤマハのブランドを絶対に傷つけないようにしようとメンバーと話していました」と谷山氏は語る。ヤマハの通信機器は知らなくても、子供の頃、ヤマハのピアニカやリコーダーを使った人は多いはず。日本人にすり込まれたヤマハのブランドイメージがやはりルーターの立ち上げにも大きく寄与しているというわけだ。

「やっぱり(ヤマハの)“音叉マーク”に共感する人たちは多かったと思いますよ」(谷山氏)

これからもヤマハルーターは企業の通信の要であり続ける

 ISDN全盛期からブロードバンド時代までをヤマハルーターと駆け抜けた谷山氏。「やっぱり面白かったですね。なんにもない時代のよさを経験できたのは」と感慨深そうに語る。こうした中、RT100iから成長を続けたヤマハのルーターはつねに谷山氏の横にあった。2015年時点で累計280万台を販売し、今も中小企業のネットワーク機器のスタンダードであり続けている。

 大学卒業してからずっとネットワークの仕事を続けている谷山氏。「とにかくネットワークって使わないとわからないし、1つも同じものがない。テクノロジーも進化している、だから飽きない。私がユーザーと同じ立場で仕事を続けているのは、そこに面白さがあるからです」と語る。現在は匠技術研究所という会社を興し、ネットワーク構築や教育事業を手がけている。「社会人だけではなく、子供向けにもICTの勉強会をやっています。『読み、書き、コンピューター』ということで、ICTを楽しんでもらおうと思っています」(谷山氏)。

 20年間、ヤマハのルーターが続けてきたのは、ユーザーと共に次のニーズとトレンドをいち早くつかむこと。「ユーザーが今やりたいことは、現行のヤマハルーターで全部できる。これは20年間培ってきた技術があるから。新しいニーズがあれば、ユーザーと育てていけばいい」と谷山氏は語る。これはIPv6に関しても、クラウドに関しても同じ。「長い目で見れば、ルーターという形態はなくなるだろうけど、クラウド時代もヤマハは通信の要になる通信機器を作っているはず」と谷山氏は語る。

人生を変えたというRT100iといっしょに

(提供:ヤマハ)

特設サイトではWebメディア3社座談会も掲載中!

 

ヤマハのネットワーク機器20周年の特設サイトでは、Webメディア3社(ASCII.jp、ImpressWatch、マイナビニュース)によるの記者による座談会「メディアから見たヤマハ」が掲出されている。アスキーからはTECH.ASCII.jpの大谷イビサが参加しているので、ぜひ内容をチェックいただきたい!

 その他、他媒体でも対談記事を実施中!


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