「勝つためのITとは?」第3回ITACHIBA会議レポート 第1回
第3回ITACHIBA会議でNRI鈴木良介氏が語った勝つためのITの実践
おしぼり、データレストラン、お見合おばさんで学ぶ勝つためのIT
2015年04月14日 09時00分更新
データ流通のギャップを埋める“お見合おばさん”が必要な理由
ただ、データ活用にピンと来ない人も多い。実際は「データに価値があるかわからない」「価値のあるデータなんて持っていない」という疑問が出てくるはずだ。一方で、「やりたいことは明確だけど、自社データだけでは難しい」という企業もいる。これについて鈴木氏は「データをとりやすい会社と、お金に換えやすい会社は往々にして別のことが多い」と指摘する。
その例として、鈴木氏は近所の居酒屋で夕方に積まれているレンタルおしぼりの山に着目する。レンタルおしぼり屋としては、その山を成しているおしぼりの本数は、単なる受発注データに過ぎないが、「たとえばグルメサイトの事業者がこのおしぼりを見たら、店の外から客数が推し量れる。3年前に250本だったのが、最近は120本になっていたら、客数減ってると予想できる」(鈴木氏)。居酒屋側の意図はともかく、仮におしぼり屋の受発注データをグルメサイトが購入できれば、店舗の売り上げや客数に関するリアルなデータを安価に取得できることになる。
おしぼり屋にとってまったく価値を生み出さないデータが、利用場所を変えることで、始めて価値が出てくるという妄想小話。「自社のデータにとどまることなく、他社のデータ、世の中のデータを活用して面白いビジネスを生み出していこうというのが第3の壁になる」(鈴木氏)。
当然、こうした流れの中、データ流通というビジネスが勃興しつつあり、鈴木氏自身もこのビジネスを積極的に進めていく。このモデルの難しいところは、両者を仲立ちする立場の事業者が不在なところ。おしぼり屋とグルメサイトの事業者のように、データをとりやすい立場の人と、欲しがっている立場の人は通常出会うことがない。なので、手前には必ず“アパートを経営するお見合おばさん”が必要というのが鈴木氏の論。「若い男女を見合わせたお見合おばさんが、結婚したらうちのアパートに住まいなさいよと勧めるようなビジネスモデルができないかなと思っている」と鈴木氏は語る。
「Web事業者が外食産業に参入したら?」が陳腐化する現実
多くの企業が超えるのに苦労している第3の壁を唯一超えているのが、電子化・自動化は当たり前で、その上のレイヤーで勝負しているWeb事業者。この前提を踏まえ、2年前に鈴木氏が話していたのが「もしWeb事業者が外食産業を始めたら」というドリフ的な妄想小話だ。
詳細は以前のレポートを見てもらいたいが、簡単に言えば、Webサービス事業者がテクノロジーを武器に外食産業に参入したら、単なる電子化ではなく、完全な顧客のパーソナライズを行なうだろうという話。来店記録だけではなく、推測属性でメニューを変えるなんてことはいとも簡単に行なえるし、「当然、タブレットとバックヤードがつながっているので、賞味期限の迫った海老フライとハンバーグが在庫に残っていたら、それをディスカウントして提案することも可能だ」と、高級レストランのギャルソンのようなことを機械が行なえるようになると鈴木氏は語る。
データ収集を広範に行なえるGoogleのような事業者であれば、さらにすごいことが起こる。「レストランに来客する前、喫茶店に寄っているという履歴があれば、コーヒーやケーキくらいは食べているだろうと推測できる。そういったお客様に対しては、メニューの文言も“ボリューム満点”ではなく“意外とさっぱり”と書き換えるかも知れない」(鈴木氏)。レガシー業界としてはSF感満載の話だが、Web事業者であれば、当然こうした思考でビジネスを構築してくるのは想像の範囲内だろう。
お金と技術を持ったWeb事業者が今までとまったく異なるルールで他業種に攻めてくる恐怖を描いたこの話。「『うちの業界にはデータ活用関係ないですよね』の攻撃に遭っていた2年前、Webサービス事業者はサイバー空間で儲けたお金を別のところに投資したらという仮説で考えた」という経緯で作られたものだが、すでにこの仮説が、喜ばしくも陳腐化してしまったのは鈴木氏自身が指摘するとおり。回転寿司の需要予測をリアルタイムでやっている寿司チェーン、店舗内のスタッフ配置を時間ごとに最適化するレストランなど、テクノロジーの波はレガシーと言われた外食業界をも飲み込んでいるのが現在の状況だ。
(次ページ、米国ではすでに「CMO vs CIO」?次は主導権争いに注目!)
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