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「勝つためのITとは?」第3回ITACHIBA会議レポート 第2回

マーケティングとモバイルアプリ、メニュー作りまでITで刷新

Web事業者にいた神谷氏がすかいらーくで実践したチャレンジ

2015年04月15日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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「勝つためのIT」を探る第3回ITACHIBA会議の中で、NRIの鈴木良介氏に続いて登壇したのが、すかいらーくでマーケティング施策を担当する神谷勇樹氏。Web事業者の経験を元に外食産業の変革を進める神谷氏のチャレンジは、まさに勝つためのITの最強の実例であった。

1月21日、IT業界内交流会「ITACHIBA(イタチバ)」で勝つためのITの実践を語ったすかいらーくの神谷勇樹氏

勝つためのITは走りながらチャレンジするもの

「ガスト」「バーミヤン」「夢庵」など全国に約3000店舗を抱え、年間4億人の来客を誇るすかいらーく。同社でマーケティングを手がける神谷勇樹氏は「前職は(鈴木さんの話にも出ていた)グリーにおりまして、まさにWeb事業者が外食産業やったらどうなるかを実験しているところ」と前置きし、まずは昨年行なったマーケティング施策の効果から説明した。

すかいらーく マーケティング本部 インサイト戦略グループ ディレクターの神谷勇樹氏

 神谷氏は自身が施策を手がけた2014年上半期の売上を昨年の同期を比較。「売上としては40億円増え、広告宣伝費は3億円減った。TVCMを減らしたことで、広告宣伝費としては10%減った」とアピールした。上半期の施策としては、まず広告宣伝費の投資対効果(ROI)を明確化し、ROIの低い施策を改善。余った投資を効果の高いところに当てるとともに、データを重視したメニューの開発を進めたという。「どんなお客様が来ているのか、どんなメニューを召し上がっているのかのデータを使って、メニュー開発を行なった」(神谷氏)。

 一方、下半期はクーポンやポイントプログラム、フェアの案内を提供するモバイルアプリをリリース。「2008年にリリースしたケータイ向けのクーポンアプリの利用者数を1ヶ月で抜いた。新聞や折り込みチラシも抜きつつあり、ROIも大きく改善できた」と高い効果を得ている。

 とはいえ、モバイルアプリの開発も平坦な道ではなかった。まずはベンダーの選定が課題。「MAU(マンスリーアクティブユーザー)で2000万、デイリーで200万という規模をさばくモバイルアプリをフルスクラッチで開発してくれる会社はなかなか見あたらなかった」と神谷氏は振り返る。そのため、神谷氏は大規模なWebサービスを提供している前職の人脈を使って、ベンダー探しとアーキテクチャを設計した。

 また、最初から完成品を目指さず、走りながらアジャイル的に開発したのもポイント。すかいらーくのモバイルアプリは2014年5月に要件定義と発注を行ない、2ヶ月後には必要最低限の機能のみでリリース。その後、ユーザー目線で改善すべき点を優先し、トラブルをつぶしながら10月に正式ラウンチした。

マーケティング担当もテクノロジーを理解すべき

 次に神谷氏が説明したのが、「勝つためのIT」に最適な人材論。マーケティングのようなITは、前述したモバイルアプリのように、効果を見ながら走りつつ、スモールスタートから展開したほうがよい。そのため、コンパクトなプロジェクトで、日々改善を行なっていく体制が向いている。一方、基幹システムを開発するような「守りのIT」は、こうした攻めのITと真逆に位置する。100%の可用性と設定された期日を目指して、大規模なプロジェクト管理が要求される。「どちらがいい悪いではなく、使い分けや役割分担の話。どちらも必要だし、適材適所で人を配置すべき」と神谷氏は指摘する。

「勝つためのITと守りのITでは適正や体制が異なる。適材適所で人を配置すべき」(神谷氏)

 時代の隆盛としても、ITの敷居が下がっている状況がある。クラウドやマネージドサービスの台頭で、マーケティング部のような現場部門がインフラレイヤーに関与しないで済むようになっている。コスト面でもピーク時に合わせたインフラ構築が不要なので、クラウドの存在価値は大きい。「オンプレミスで作ろうとすると、桁が変わってくる。数百万円というコストで実現できたのも、クラウドがあったから」(神谷氏)とのことで、B2Cのようなスパイクが立つようなサービスの場合でも、クラウド導入が大きく効いてくると言う。

 では、実際にスパイクが立つサービスをどう構築するか? たとえば、ポイントプログラムの場合、最大で3000/秒くらいのトランザクションをさばく必要があるが、とはいえ、ピークに合わせるとオーバースペックになるため、設計が難しかった。そのため、神谷氏がやったのは、チャットサービスを作っている人からノウハウを得ること。「知り合いに聞いたら、Redisでキューイングして、非同期で書き込む。RDSに直接書き込んではダメと指摘された。調べてみると、ソーシャルゲームでも同じような例があった」とのことで、設計に反映させた。

 モバイルアプリに関しても、アップルの審査を見越して開発しないと待ちの状態が発生してしまうというネックがあった。「サンクスギビングの休暇に入って申請が長引くとまずい。そのため、Webビューとアプリの開発スケジュールを組み替え、待ち時間を減らすようにした」と語る。

アップルへの申請にかかる時間を有効活用できるよう、スケジュールを組み替えた

 こうして話を聞くと、神谷氏は技術的な課題の解決やユーザー目線でのアプリ開発を実現するため、自ら手や足を動かして、情報収集に努めたことがわかる。マーケティングだから技術はわからないではなく、技術を理解した上で、プロジェクトをきちんとコントロールすることが重要というメッセージと捉えられるだろう。

(次ページ、顧客ニーズドリブンのメニュー開発を進める)


 

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