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携帯電話なきノキアが「スマホの未来」を作る 通信速度制限の壁を破壊する「5G回線」2020年に実現なるか

2015年01月04日 07時00分更新

盛田 諒(Ryo Morita)/大江戸スタートアップ

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 携帯電話の販売台数で世界1位を飾ったこともあるノキアが、携帯電話事業そのものをマイクロソフトに総額54億4000万ユーロで売却したのは2013年9月のこと。ノキア本社のあるフィンランドでは「ノキアショック」とも呼ばれ、国全体が揺れるほどの深い衝撃を受けたと言われている。

 現在、携帯電話なきノキアが事業の中核として抱えているのはネットワーク事業。通信キャリア向けに携帯通信の基盤サービスなどを開発するノキアソリューションズ&ネットワークスは、2013年度の売上高にして113億ユーロ(約1.6兆円)を稼ぎ、従業員5万人を抱えている巨大企業だ。


スマホの通信速度制限は過去のものになる

 同社が現在手がけているのが、LTE(4G)回線に次ぐ新たな通信環境「5G」回線のインフラ技術作り。特に携帯回線の普及率において世界市場をリードする日本において、2020年までに「1人あたり1日1GBのデータ通信ができるモバイルネットワーク環境」を実現したいと頑張っている。

 スマホにおける通信キャリア各社の月間データ通信はつい最近まで7GBの上限があった。3日間以内に1GB以上のデータ通信をしても制限対象となっていたが、それを地でいくモバイルブロードバンド環境を5年で実現しようというのだ。ノキアが目指す通信環境は、従来どおりのモバイルを中心としたデータ通信だけではない。

 住宅や自動車など大型製品、電車やバス、飛行機などの公共交通機関、駅・空港といった公共施設など、一般人がごく当たり前に使用している製品や設備、またインフラが情報化される将来を見越している。通信データでは、ウェアラブルデバイスに「触感」を転送する「タクタイルインターネット」という技術も想定されているという。


東京オリンピックまでに「モノのインターネット」を実現させる

 2020年の東京オリンピックまでに、日本でいわゆるInternet of Things(モノのインターネット)時代を実現しようというのが、5Gで目指す最終的な姿だ。だが4Gから5Gへの変化は、3Gから4Gへの変化とは大きく異なる。

 今までは同じ周波数帯域の中で通信技術をアップデートしてできることを増やしていく、いわば「正常進化」で事業者側のニーズに対応してきた。だが、ネットワーク容量を現在のおよそ1000倍にして、モノのインターネットまで対応するとなると、周波数そのものを広げる、革新的な技術を導入する必要がある。

 現在ノキアが挑んでいるのが、ミリ波帯を含む高い周波数帯域(6GHz以上)の有効活用だ。

 周波数帯は高くなるほど波長が短くなる。電波が遠くまで飛ばなくなり、通信業者としては扱いづらくなる。そのため従来ほとんど使われてこなかった周波数帯を新たに通信手段として使えるようにすべく、NTTドコモなど通信キャリアとともに実験を続けているのだ。

 研究の中で注目されているのは、街灯のような公共インフラを中継点として使い、電波を「リレー」する形で飛ばしていく技術だ。例えば東京中の街灯を通信インフラに置き換えて、道路や自動車に付けられたセンサーとデータをやりとりするといった将来像も想像されている。


「街灯アンテナ」と「疑似中継点」で5Gを目指す

 ただし「街灯アンテナ」が普及した場合にも、全ての通信を街灯だけでまかなうわけではない。

 イメージとしては照明だ。例えば東京23区は「蛍光灯」で全体的に照らす一方、ユーザー数が常に多い新宿、渋谷などのエリアや東京ドームなどの人が集まる施設は「スポットライト」を組み合わせ、すべてのユーザーを余すところなく照らし出す必要があるというわけだ。

 スマホでゲームをするのとは異なり、自動車と道路がデータをやりとりするようになれば、通信の遅れは命取りにつながる。遅れを解消するため、従来からある通信環境をいかに効率化するか。現在ノキアはデータ通信の構造を変えるべく取り組みを進めている。

 現在のモバイルデータ通信は必ずオペレーターのデータセンターを経由する構造で成り立っている。要は昔の電話が「中間交換機」を経由していたのと同じ発想だ。全国のどこから接続したときも必ず大都市から「中継」してしまうため、構造的に遅れが発生する。

 ノキアでは現在、利用者の近くに従来の「中継点」に相当する装置を配置することで、通信の遅れを減らす技術を検討している。中心部ではなく周辺部にあたるインフラでデータを処理すれば、より高速な通信ができる。ノキアではシンガポールの通信事業者スターハブ(StarHub)と合同で、基地局内にサーバーを立てる形でのコンテンツ配信を成功させている。


携帯通信の未来はノキアが作るのかもしれない

 自動車や住宅などあらゆるモノがデータを発生させるという未来は、事業企画書の中に現れる「2020年の市場予測」という夢のような姿としてしか見えていない。だが、ノキアは着実にその未来を作りつつある。

 携帯電話をマイクロソフトに売ったノキアが、今度は通信基盤で携帯電話の歴史を変えようとしている(といってもノキアブランドそのものはまだ抱えているのだが)。「私たちが愛したノキア」とはちょっと違うかもしれないが、私たちが夢に見るような携帯通信の未来はノキアが作るのかもしれない。

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