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特集:ホテル・旅館産業に激震 Airbnbの脅威 ― 第2回

中国資本、国内旅館を怒濤の買収 「Airbnb」で儲ける宿、消える宿

2014年12月25日 07時00分更新

盛田 諒(Ryo Morita)/大江戸スタートアップ

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 自宅や空いている物件を宿泊施設に転用して営業する。Airbnbのような「インターネット民泊」が波紋を広げる旅館業界だが、足元ではさらに深刻な問題が顔を覗かせている。アジア資本による国内旅館の買収だ。(記事前篇へ

 「中国・韓国、アジア系の企業が日本の旅館を買いあさっている」

 ホテル旅館経営研究所の辻右資代表はそう明かす。アジア企業は、中国人観光客の増加に伴い、中国人向けのサービスを充実させた旅館に商機があると踏んでいるのだという。

 「箱根や伊豆(の外国人観光客向け旅館)は9割方が外国人オーナー。5~6年前までは日本人が買っていたが、いまや中国人が3億円、4億円でポンと旅館を買っていく」(辻代表)


中国人は「『五輪は儲かる』ことが分かっている」

 同研究所では、アジア企業からの問い合わせ件数が今年に入って前年の10倍程度に増えているという。旅館オーナーに占める外国人の割合は現状、全国で1割程度だが、東京オリンピックまでには3割まで膨らむのではないかと予想する。

 「中国人は北京五輪の経験があり『五輪は儲かる』ことが分かっている。一方、日本人は東日本大地震の後遺症もあり、感覚が鈍い」(辻代表)

 現在、買収をかけているのは中国・台湾の旅行代理店が中心だが、投資会社が手を出すのも時間の問題ではないかという。買収が増える背景には、旅館業界の排外的な慣習があったと辻代表。旅館業者は新規業者を拒むため、参入に壁を設けてきた歴史がある。

 たとえば、ある地域で温泉タンクを抱えている温泉組合は、新たにできた旅館には「引き湯」させないなど排外施策をとってきたそうだ。別の温泉協会では「部屋数が多いのはダメ、外国人オーナーもダメ」と拒み、地元の利益を守り続けてきたという。

 新たに旅館を建てても「仲間」に入れてもらえない。それなら既存の旅館を買ってしまえばいいというのはある種、自然な考えだ。

 辻代表は地銀・信金などにも責任があるという。旅館の主が、新たに人を雇い、設備を再建し、宣伝を強化しようと考えても地方の民間金融は金を貸そうとしなかった。つまりは、地方財政のひっ迫が旅館業界を内向きに追い込んだ側面があるというのだ。


「空き部屋活用」は旅館が変わるきっかけになる

 日本の旅館業界は、法規制の枠内で「安心・安全」を実現し、「おもてなし」に必要な従業員を確保し、よそ者の参入を必死で拒み、日本人観光客にサービスを提供する形で生計を立ててきた。だが主要顧客である日本人が高齢化する中、今のままでは明るい展望は見えない。

 厚労省の衛生行政報告例によれば、旅館軒数は2012年時点で全国4万軒あまり。毎年減少傾向にあり、2000年から2010年までの10年間で2万軒以上が姿を消した。観光庁の宿泊旅行統計調査によれば、旅館の客室稼働率はシティホテルの79.1%に対して30.4%と低い。旅館の延べ宿泊者数は1億300万人にのぼるが、そのうち外国人は2.9%の300万人にとどまっている。

 政府と組合は「日本の旅館」をブランド化しようと頑張っているが、旅館はほとんどガラガラだ。頼みの外国人観光客はホテルチェーンや旅館を買収するアジア資本、インターネット民泊に奪われている。そんな中、2020年まで看板を掲げ続けられる旅館がどれだけあるのか。

 一方、Airbnbのような事業は、逆に旅館業界が抱える課題を解決する手段になるのではないかと考える向きもある。国家戦略特区構想の枠内で、空き物件を活用した宿泊マッチングサービスを運営するベンチャー企業「とまれる」(TOMARERU)では、宿泊業者がサービス内で施設を運用する方向も想定している。

 物件オーナーがとまれるに施設を登録しておき、アメニティーや接客など、ホテル・旅館ならではのサービスを売りにできるなら、観光シーズンのように部屋数が足りなくなったときも対応できるはずだという考えだ。

 「(宿泊業者は)装置のビジネスだから限界がある。需要がある時期に絞って使えば、今までの『限界』を超えられるはず」(とまれる三口聡之介代表)

 施設を商売にする意味で不動産業に近いホテルと異なり、旅館は純然たるサービス業。空き部屋を使い、従業員のサービスと雰囲気作りで商売はできるはず。従業員を空き部屋運用に出して「副業」として稼ぎを出せば、本業である旅館の建て直しにもつながるのではないか、というわけだ。


「守るべきもの」が古すぎるのではないか

 一方、旅館業界の課題はつまるところ時代遅れの法規制にあると法律家は指摘する。旅館業法は1948年の施行後、客室の数、有効面積、必要な設備、旅館業許可申請手続きなど、大枠がほとんど変わっていないのだ。

 みずほ中央法律事務所の三平聡史弁護士は、現状の法体制下において空き部屋宿泊サービスは「運用可能な物件が少なすぎて事業化できないだろう」と話す。

 法規制は道徳の問題ではなく政治の問題だ、と三平弁護士。規制は市場規模が大きな方に傾くのが自然で、現状は既存の旅館産業が大きいと判断されているに過ぎない。だが既存市場が停滞し、規制の枠外で新たな経済活動が成長しているのなら、成長分野に合わせて規制を変えるのは自然だ。

 現行法で規制できない新たなビジネスが現れたとき、行政は条文を変えるのではなく「法解釈」を示す形で対応しているのが現状だ。たとえば空き部屋となった住宅を転用するシェアハウスも、現在は建築基準法の上では「寄宿舎として違反」という状態の場合が多い。

 同じように、インターネットで重要事項説明などを済ませることで不動産取引のハードルを下げようという新たな不動産業者があらわれている。国交省では来春をめどに試験的に始める方針をかためているが、今まではやはり「違法」扱いだった。

 「『重要事項説明は対面じゃないと違法だ』というが、条文にはない。政治活動で壁を作っているだけだった」(三平弁護士)


Airbnbは今後の規制改革を占う試金石

 米国生まれのAirbnbは、法規制のグレーゾーンをついた「脱法企業」だ。しかしインターネットで遊休施設を共有する「シェアリング・エコノミー」と呼ばれる技術概念そのものが悪かというと、そんなことはないだろう。

 もちろんシェアリング・エコノミーがどれだけの経済効果を生めるのかは未知数だし、慎重になるのは当然だ。しかし衛生・防災・防犯を云々する際、昭和と同じ法律で考える意味はないはずだ。

 条文改訂が厳しいのなら新たな法律を作るべきで、新たな法律には特区構想内での社会実験が必要だ。実験には法規制を先行させるべきではない。そして特区を設ける理由は、地方議会を通じて地方自治体の理解を得た上で進められるべきだ。しかし、少なくとも大阪ではそれができなかった。

 記事前篇で紹介した業界団体の鼎談記事で問題とされていたのは「何も知らない役人が勝手な法律を作りやがって」という不満だった。

 「我々に対して前もって相談があってもよかった。まったく何もないまま法律が先にでき、実はそれを施行する地方自治体の役人が理解できていない状況もある。作ったはいいが中身のない、今までの法治国家であったり、社会環境を自ら崩してしまうことになる、非常にリスクの高い法律」(トラベルニュース

 役所にせよ業界団体にせよジリ貧の旅館産業を良くすることを考えているのは間違いない。それなのにただ社会実験を進めるだけでぎくしゃくしているのは、ただ役所のコミュニケーションが不足しているだけのような気がしてならない。

 旅館業界が抱える課題、そしてAirbnbのようなインターネット事業者がもたらすインパクトは、他の規制産業にも通じるものがある。今後も似たような問題があちこちの業界で起こり、同じような議論がくりかえされることだろう。新たな産業がもたらす規制改革をどう受け止めるかによって、成熟期を迎えた日本企業が生き残れるかどうかが決まってくるといっても過言ではないはずだ。

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