性能の底上げをすべく
投入されたSSD
CRAY X-MPの性能は、プロセッサー単体では210MFLOPSなので、4プロセッサーでも840MFLOPSでしかない。これは(CRAY-1に比べれば)十分高速だが、顧客からの要求はより高性能なシステムであったし、競合の影もちらついていた。
こうした市場の動向に向けて、性能の底上げをすべくX-MPと同時期に投入されたのがSSDである。これはSolid State Diskの意味でのSSDで、CRAY-1とCRAY X-MPの両方で利用可能とされた。
容量は最大で512MWords(4GB)、4ポート構成のもので、CRAY-1向けのPort 2経由では最大32Mword/sec(256MB/sec)、CRAY X-MP向けのPort 3なら最大1.5GB/秒の転送速度を持っていた。メモリーそのものはMOS SRAMで、したがって常時給電が必要なものであるが、これがメモリーの絶対量不足を埋めて補えると期待された。
調べたのだが、このSSDの価格は不明である。なにしろ通常型のHDDですら結構な価格である。1985年にベル研究所がCRAY X-MP/24+DD-49(容量1.2GB、転送速度9.8MB/秒)×8という構成を購入した際の金額が、本体が1500万ドル、DD-49×8が100万ドルとされており、DD-49一台あたりの金額は12.5万ドル、当時の換算レート(238.5円/ドル)に従えば3000万円近い。
今でも同容量のSSDとHDDの価格差は10倍くらいあるが、この当時はもう少し価格差が開いていたのではなかろうか。このSSDがいくらで、どの程度売れたのかはよくわからない。ちなみにSSDそのものは本体と同じ高さで、90度相当の角度を成していた。
下の画像はX-MPとSSD、それにIO Subsystemを配置した場合のフロアプランであるが、イメージがつかみやすいかと思う。
売れなかったCRAY-2とは対照的に
大ヒットとなったCRAY X-MP
このX-MPシリーズは実によく売れた。通算では100台以上販売されたそうで、これはCRIをFortune 500企業に押し上げるのに十分であり、1987年に421位にランク入りした。
1987年の売り上げは5億9670万ドルで、前年比では57%増とされている(関連リンク)。この時期にはすでにCRAY-2も完成して販売されているが、連載276回でも触れた通りトータルでは27台のみなので、全体としての貢献の率はそれほど高いとは思えない。
CRAY X-MPに続き、CRIはCRAY X-MP EA(Extended Architecture)シリーズを1986年に発表する。EAシリーズの最大の特徴はアドレス空間の拡張で、CRAY-1の24bitアドレスを32bitに拡大したものだ。
これにより、CPUで扱えるアドレス空間は16MWordsから2GWordsまで広がることになった。なお、4GWordsでないのは、最上位ビットをモードの切り替えに使うためらしい。
プロセッサーは従来と互換のX-modeと、32bitに拡張したY-modeをサポートしており、従来のアプリケーションはX-modeを利用することでそのまま利用できた。
また、EAシリーズではサイクル時間を8.5ナノ秒(117.6MHz)まで短縮し、1CPUあたりの最大性能は235.2MFLOPS、4P構成では940.8MFLOPSまで性能を引き上げている。このモデルはCRAY X-MP EA/1・2・4という名称で販売された。
メモリー搭載量は16/32/64MWordsがラインナップされている。新しくCRAY X-MP EA/seというモデルも追加された。モデルは1Pで4Mwords MemoryのCRAY X-MP EA/14seと、16Mwords MemoryのX-MP EA/116seの2つである。
当時のカタログに記載された言葉を借りると“Two models of the CRAY X-MP EA product line are available for first-time supercomputer users”ということで、初めてCRAYを導入するユーザー向けの低価格モデルという扱いである。
これに続き、CRIはCRAY Y-MPモデルの開発に移る。次回はその話をしよう。
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