DSDの仕組みをおさらいしてみよう
方式的にイメージしやすいのはPCMで、CDのお兄さん分というかその延長線上で情報量を増やし、音をさらによくした印象です。一方DSDはアナログと同じような波形を1bitの疎密で表す方式で、最終的にローパスフィルターを通すと、見事にアナログの音が出てくるという仕組みです。
これを世界で初めて実証したのが、ソニーが昨年発表した「HAP-Z1ES」というネットワークプレーヤーで、DSD部分にD/Aコンバーターというデジタルとアナログを変換するデバイスがないんですね。ほかのDSD機器では、必ずDSDに対応したDACチップを持っていて、デジタルの信号をチップでアナログに変換しているんですが、それがなくローパスフィルター1個だけです。
DSDではビット数を1にする代わりに、サンプリングレートを極端に増やしています。ですから情報量のうち、特に周波数帯域の情報量がすごく増えている。DSDはDirect Stream Digitalの略ですが、別の言い方でDelta Sigma Digitalというのもあります。ΔΣ変換というアナログ/デジタルの変換方式(積分器を初段に持つ、ネガティブ・フィードバック方式)が元々あって、それを利用しています。違いとしては、PCMではデジタル信号に含まれた数字を波形に直す処理が必要なんですが、1bitの連なりが元々の波形と同じ形をしているので、アナログに極めて近い。
自然だが力感では譲るDSD、5.6MHzになるとより生に近い臨場感に
ただ問題もあります。DSDは確かにいいんですけど、私が聞いた印象では、2.8MHzのDSDでは若干なよっとしてしまう。SACDの時代から言われていることで、音のきめは細かいんだけど、力感がちょっと甘いのです。
しかし、5.6MHzになってくるとDSDならではのしなやかな感じにプラスして、切れ味の良さも出てきます。さらにその上の11.2MHzになるとダントツに音がいいですね。目の前で演奏されているような臨場感がすごく出る。
リニアPCMの場合はすごく音がよくても「何かひとつ経路を通ってきたな」という感じがすることもあります。DSDは眼前の演奏家が目の前にいて、そこから出てくる直接音と間接音を感じられる。
生の音って結構柔らかいんですよ。DSDはその柔らかさがすごくいいんですが、5.6MHzになると、芯の固さもちゃんと出てきて、より本物の生の雰囲気に近づくな、と。
最近ではさらにその上の11.2MHzのDSDというものが出ていて、これは本当にすごいですよね。あらゆる音を超越しているような印象すらある。生がすぐそこにあるような感覚です。
2.8MHzでは若干優しさが上回る感じですが、5.6MHzではすごく情報量が増える。リニアPCMの場合は、サンプリングレートがすごく大きくなったとしても同じような傾向を維持しているのですが、DSDの場合は2.8MHzから5.6MHzですごく変わるし、5.6MHzと11.2MHzもすごく違う。より生々しくなる感じですね。いま11.2MHzはごく限られたソースしかありませんが、11.2MHzのDSDを再生できるDACも市場に出てきましたから、来年には実験的なソースもどんどん出てくるでしょう。
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