1662枚のモジュールが搭載されている
CRAY-1の内部構造
CRAY-1のデバイスはIC(集積回路)を利用して構成され、システム全体では20万ゲートの規模となった。ちなみに主記憶は8MB(1MWord)とされる。
当たり前だが、これを1枚のボードに納めることなど到底不可能で、システム全体では113種類の6インチ幅のモジュールが合計1662枚搭載されている。1枚のモジュールには最大288個のICが搭載されていた。
消費電力は最大115KW、重量は1万500ポンド(約4.8トン)に達している。モジュール間の配線遅延を最小化するために、Cの字型の円柱構造を取っており、これが独特な外観につながった。
このCRAY-1は結果から言えば大成功を収めた。理由の1つは、ベクトル型計算機の搭載や比較的小規模なベクトル長に抑えたことで、プログラムの最適化がしやすかった(ピーク性能を出しやすかった)こともあるが、これを支えたのが比較的早期から提供されたソフトウェアである。
当初CRIからはCOS(CRAY Operation System)、CAL(CRAY Assembler Language)、CFT(CRAY Fortran)の3種類が提供されたが、CFTは世界最初の自動ベクトル化コンパイラである。
数値計算といえばFortran言語が昔から使われており、今も一部では愛用されているわけだが、当初のFortran言語はベクトル演算を考慮していないため、そのまま使ってプログラムを記述すると、必ずしもベクトル演算には適さない形で実行されてしまう。
自動ベクトル化とは、プログラムの内部を解析し、ベクトル演算に適した形に内部の並び替えるなどして、性能を出しやすくするものである。PCなどと違って、汎用のアプリケーションが存在しないので、利用者は自分でプログラムを書いて動かすことになる。その際に、自動ベクトル化コンパイラの存在は性能のチューニングの大きな助けになった。
後継機種が続々と登場
CRAY-1の改良型として1989年に発表されたのがCRAY-1Sである。動作周波数が80MHzから83.3MHzに若干引き上がったほか、メモリーを最大32MB(4MWords)搭載できるようにした。
構造的には、CRAY-1の円柱を2つに分離した風になっている。CRAY-1Sからはモデル展開もされ、ローエンドのS/500(512KWord Memory)~ハイエンドのS/4400(4MWords)まで11モデルが当時のカタログ(PDF)に記載されている。もっとも、CPU本体の違いはメモリー容量だけで、主な違いはI/Oサブシステム側であった。
また1982年には、低価格構成のCRAY-1Mも投入された。CRAY-1SがメモリーにBipolar RAMを利用しているのに対し、CRAY-1MはMOS RAMを利用しているのが大きな違いだ。こちらも最大4MWordsまでのモデルが用意され、さらにI/Oプロセッサーの構成違いで複数モデルが展開されている。
さて、このCRAY-1Mが登場した1982年というのは、後継製品であるCRAY X-MPが登場した年であるが、これを手がけたのはシーモア・クレイではなく、Principal Engineerであったスティーブ・チェン(Steve Chen/陳世卿)である。
この時、クレイ本人はCRAY-2の開発に携わっていた。ただ、CRAY-1の開発時にはCRIのCEOも兼任していたが、あまりに雑事が多すぎるということで1980年に同職を辞任。CRIの研究所としてCray Laboratoriesを設立し、こことの契約技術者という形でCRAY-2の開発をしていた。次回はこのあたりの話をしよう。
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