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体験して知る、楽しいデジタル 第1回

音楽ユニット「トーニャハーディング」に聞いた

2014年にITをつかって、がんばってレコードを作った人の話

2014年05月21日 11時00分更新

文● コジマ/ASCII.jp編集部

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「トーニャハーディング」の2人。手にしているのは、彼らがプレスしたレコード『spa wars』だ

 テクノロジーというと、電子工作やロボットなどを想像する人が多いかもしれない。しかし、決してそれだけがテクノロジーではない。個人では実現がなかなか難しかったことを、容易にしてくれるような仕組みも「テクノロジー」の一つとして挙げられるだろう。ITはまさにそのための技術だ。最近話題になっているものの中で、インターネットを通じて不特定多数に出資を募るクラウドファンディングがある。

 ここでは、クラウドファンディングを利用することで、オリジナル曲のアナログレコードを作るという試みを成し遂げた音楽ユニット「トーニャハーディング」を紹介する。その背景には、70年代、80年代とは違う、ITの進化した2014年だからこそできたエッセンスが盛り込まれている。かつて、レコードを作るというと、スタジオを借りて何日もレコーディングに取り組み、さらにプレスしたレコードを宣伝して……と、とても個人でできるものではなかった。

 しかし、彼らはクラウドファンディングはもちろん、SNS、デジタル音源といった現在のテクノロジーをフル活用し、大きな資本の後ろだてなしにレコードの作成を可能にした。いわばIT=デジタルの進化によって生まれた、アナログの作品が彼らの仕事なのだ。

2014年にレコードを作りたかった──
男たちはクラウドファンディングでその夢を叶えた

トーニャハーディング。ハウス、歌謡曲、J-POPなどを自由に横断するDJで知られる。アニソンやアイドル、ボカロ系などの楽曲を中心にプレイするDJを取り上げた『秋葉系DJガイド』でも紹介されている

プレステージ加藤。ユニットのステージでは鍵盤を担当。DJ活動では「ミキサーを弄ったりということは相方に任せて、身体を動かしたり歌ったりします。まあ、2人ともそうなんですけど」とのこと

 「トーニャハーディング」は、単独でもDJで活動しているトーニャハーディングと、楽器演奏や弾き語りなどで活動するプレステージ加藤の2人で結成された音楽ユニットだ。

 ちなみにメンバーの名前とユニット名が同じなのは、本人たちによれば「海外ではリーダーの名前がバンド名になっていたりするじゃないですか。ヴァン・ヘイレンとか、ボン・ジョヴィとか。そういうノリが日本であったらいいと思った」とのこと。

 主にDJメインで活動をしている2人だが、並行してオリジナル曲も作成している。今回レコード化した2曲「spa wars」と「joy time people」は、もともと数年前、2人がメンバーだったバンドで作られた曲だったという。

トーニャハーディング(以下、トーニャ)「バンドが解散して、それからしばらく経って2人で活動を始めたわけなんですが、ずっと『あの2曲を音源化しなかったのはもったいなかったね』って話していました。だから、何かきっかけを作って世に出そうと考えたんです」

プレステージ加藤(以下、加藤)「だけれども、音楽配信などでサクッと公開しただけでは、ただ世間に出ました……で終わってしまい、さして話題にもならないですよね」

 そこで2人が考えていたのは、音源を「レコード」として出すことだった。音楽配信が当たり前になっている2014年の現在、再生環境も音楽ソースもデジタルが主流となっている。なぜアナログに回帰し、レコードを出すのか?

 それは、彼らがレコードに「“モノ”としての価値がある」と考えているからだ。

Image from Amazon.co.jp
クリムゾン・キングの宮殿 (ファイナル・ヴァージョン)(紙ジャケット仕様)

加藤「わかりやすい点で言えば、アナログレコードは、何といってもジャケットが大きい。これは月並みですが、とても重要だと思います。モノとして出すなら、ジャケットも絶対面白くしたかった。それならサイズが大きい方がいい」

トーニャ「レコードの大きさだと、ジャケットに絵画のようなインパクトが生まれますよね。アートとして成立している。70年代のプログレッシブ・ロックの作品群には、特にその要素を感じます。一番ネタにされている……というか、有名なのはキング・クリムゾンの『In The Court Of The Crimson King(クリムゾン・キングの宮殿 )』とかですけど、あれもレコードのサイズだと、思わず笑ってしまうような衝撃がある」

 彼らがこのアイデアに対する反響を探るためにまず試みたのは、Twitterで「『spa wars』をレコードにしたら、どう?」とツイートしてみることだった。数千人以上のフォロワーを持っている彼らにとって、SNSは多数の反応をすばやく窺える、重要なツールである。

トーニャ「反応がめちゃくちゃ多い……というわけではなかったですよ。ただ、面白いもので、10代とか20代の若い人が『(レコードになったら)絶対買います!』って言ってくれたんです。その声が大きかった」

「spa wars」のレコードのジャケット両面。「CDのサイズ、7インチレコードのサイズ、LPレコードのサイズ……サイズごとの表現があると思うんです。このジャケットのデザインも、結構空間があるんですよ。CDサイズでは情報量が少なく見えそうですが、この大きさだとそれが活きる」(トーニャ)

 アナログを知っているような年配層ではなく、「もしかしたら、レコードに憧れを抱いていたのかもしれない」(トーニャ)という若い層がいるということを知り、2人はレコード化を決意した。しかし、やはりネックになるのは資金。ジャケットを作る、レコードをプレスする、そのための原盤を作る……。どれもお金がかかる。

トーニャ「その資金を2人で貯金するとなると、いつになるの、という話ですよね。しかもそれだと、レコードを出したところで、多くの人が興味を持ってくれるのかどうか。お金を貯めました、レコードができました……では、僕らは嬉しいけど、誰も聴いてくれないかもしれない」

 2人にとって思い出の曲だからこそ、ただプレスするだけではなく、多くの人に自分たちの曲を聴いてほしい。そして、音楽配信が当たり前の今だからこそ、レコードという“モノ”、媒体の価値を世に問うてもみたい。しかし、特定のレコード会社に所属しているわけでもない状況で、金銭の問題をどう解決するか。

トーニャ「そこで、クラウドファンディングなら、資金を集める以上のことができるんじゃないかと。プラットフォームの力で、お金を集める過程で、多くの人に宣伝できると思ったんです」

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