高付加価値化と低価格化が本質のPCとの間にある矛盾
2つめには、ソニーらしい製品の創出が限界に達していたことだ。
2009年以降、新興国を中心とした海外へのPC事業の拡大を目指していたソニーだが、これはソニーが得意とする付加価値型製品の開発リソースを、低価格モデルへとシフトすることにもつながった。あるソニー関係者は、「仮に、最高峰のVAIO Zシリーズの後継機が出なかった理由はなにかと聞かれたら、それは開発リソースを高付加価値モデルに割けなかった点にある」と指摘する。
もちろん、ここにきて、Surf Slider方式を採用した「VAIO Duoシリーズ」や、画面の中央部から変形するマルチフリップヒンジを採用した「VAIO Fit Aシリーズ」といった「ソニーらしい」製品も登場している。だが、VAIO Fit Aシリーズをはじめとする主要製品が相次ぎ発売日が変更になるなど、それまでのソニーでは見られないことが起きている。
実は、Duoシリーズは引き続き、長野県安曇野市のソニーイーエムシーエス 長野テクノロジーサイトで生産しているが、そのほかのモデルは、中国や台湾のODMで生産している。これも世界で戦うために、低価格路線を目指した体質転換の結果によるものだが、この結果、ソニーの開発、設計と、製造現場の技術的な差が発生。開発した仕様で、製品が製造できないという問題が発生した。それが、長野で生産するDuoシリーズは安定的に生産できるものの、海外で生産するFit Aシリーズなどの製品は発売日が相次いで遅れたという差になっているのだ。
2013年以降、開発リソースを高付加価値モデルにシフトしはじめているが、それを具現化する生産体制が整わないと製品化はできない。だが、いまの過剰人員の体制のまま、長野に戻しても、さらに高コスト体質になるだけだ。ソニー本体として、ここにメスを入れるには多くの壁が存在する状態となっていたのだ。
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