「私はメイド・イン・イングランドか
メイド・イン・ジャパンしか作らない」
──服の色にも、そんな理由があるとは知りませんでした。しかし、当時のウエアを忠実に再現すると、現代においてはかえって邪魔になってしまう要素もあるのではないでしょうか。大きすぎるとか、不必要だ、とか。
「正直に言えば、私はヴィンテージの服に、『現代においては邪魔になってしまう要素』というものを見たことがないよ。それらはポケットの位置一つでさえ、実践的で、機能的だから、周囲の環境に邪魔になるようなものはないんだ。さっきコンセプトの話をしたけれども、こういう気分だからこういうアレンジを加える、といったことはありえない」
──それでは、今の縫製技術など、最新のテクノロジーに興味はないのですか。
「いやいや。新しいテクノロジーで、ヴィンテージに見られるような形状のものを作ったとしたら、とても美しいものができることもあるはずだ。マッチングさせることで機能がより活きてくるというのなら、それは素晴らしいアイデアだよね。そういう理由があるならば、取り入れることを嫌がったりはしない」
──それにしても、あなたの作る服は過去のものにインスピレーションを受けているのに、どこか他にはないユニークな要素があると感じます。オリジナリティーを出すために、どこに尽力しているのでしょう。
「ええと……こう言うことができるかな、自分はミリタリーウエアのコレクターなんだけど、一目見ればその形状にどういう意味があるのか、どういう歴史があるのかがわかる。そのディティールから自分はインスピレーションを受けているんだけど、その結果、周りからはユニークなものに見えることがあるのかもしれないね。でも、私にとっては全て意味があってやっていることだ。たとえば、これは昨日買ったヴィンテージウエア。実に素晴らしい」
──これはなんですか? ミリタリーウエアには見えませんが。
「1930年代に、シベリア地方で使われていたハンティング用の服だね。ここはニットで、ここは革になっていて、ここも生地が違うんだよ……つまり、3つの生地の組み合わせでできているんだけど、素晴らしいアイデアだよね! この生地を見ているだけでも、4通りのデザインが思いつくよ。ちなみに値段は10万8000円だった」
──10万8000円ですか……。
「もちろん、理由がなければ買ったりはしない。それだけこの服は良いものなのさ。私はミリタリーウエアが大好きだけど、そこから派生したスポーツや狩猟用のウエアも好きなんだ」
──ところで、日本の服飾産業では、海外などに受注することで大量生産を可能にしている現状があります。それと引き換えに、昔ながらの技術が失われているのでは……と思うときもあるんですが、そのような事態についてはどう考えていますか?
「『最悪だ』と言いたいね。日本は優れたクラフトマンシップがあり、素晴らしい素材があるのに……何でそれを投げ捨てるんだろう。イギリスも日本も島国で、環境も似ているし、住む人々のメンタリティーも似ているところがある。例えば、イギリスのロールス・ロイスを考えてみてほしい。職人が手で作っているだろう。あれと同じように、ここにしかいない職人でないと作れないものが日本にはあるんだよ」
──ナイジェル・ケーボンには、イギリス生産にこだわった「AUTHENTIC LINE - BLACK LABEL / UK collection」だけではなく、日本で生産している「MAIN LINE - GREEN LABEL / JAPAN collection」というラインがあります。
「さっきも言ったように、日本には少数だけど、大きな力を持った工場があり、素晴らしい技術を持った職人がいるんだ。私はメイド・イン・イングランド、メイド・イン・ジャパンしか作らない。それには困難もいっぱいあるんだけど、私は戦っているんだよ」