茶道に学ぶ
ビジネスに有用な教えとテクニック
さてCAの実技訓練を見てもらったが、座学ではメンタリティや人間力を育てるカリキュラムもある。筆者も実際にその授業を受けさせてもらったのだが、ビジネスの心構えそのものだったので、内容を紹介しておこう。
カリキュラムは茶道に学ぶとしていて、サービスやおもてなしの心を千利休に習っている。まず最初に教えられたのが「和敬清寂」という言葉だ。
和 | 主人も客も心を開いて和みあう協調性を大切にする |
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敬 | 身分の隔たり、目上・下に関わらず、お互いに敬意を払う。また道具に対しても敬意を払って大切に扱う |
清 | 清らかな心を持って、素直な心で向かう。働けることへの感謝、お客様への感謝の気持ちを持つ |
寂 | 何事にも動じず、落ち着いて物事に取り組む |
最近では薄れてきたが、これは日本人のDNAに組み込まれている「おもてなし」の心だ。東日本大震災のニュースが全世界を駆け巡ったとき、世界が日本人に驚いたのもこの4つ。
「なぜ日本人は大災害なのに落ち着いて行動できるのか?」
「順番を守って支援物資を受け取れる日本人はスゲー!」
「責任の所在云々の前に、数日間で高速道路を復旧できるのは、勤勉な日本人だけだ」
「どうして暴動や略奪が起きない?」
などなど、外人さんにとっては日本人は不思議な国民性を持つ人種なのだ。
そしてこれらをさらに具体的に説いたのが、千利休の「利休七則」という茶道の教えだという。字面だけを追うと、古文の授業になってしまうが、解説も合わせ見てもらえば、ビジネス7ヵ条というのが分かるはず。この先写真のない記事になってしまうが、中間管理職や人事部、教育担当の方は一読をオススメする。
1)茶は服のよきように点て
「服」は、「お茶を一服」として使われるアレで、「よきよう」は「イイ感じ」という意味だ。利休はこの句をもって「なにかをするときには、相手の気持ちになって、心をこめて」行動することを諭している。接客業の基本だが、すべての職種においてもいえることだろう。
2)炭は湯の沸くように置き
お茶を煎れるにはまずお湯が必要。そしてお湯に必要なのは、水と炭。さらに大切なのは炭の火加減。火加減を調整するには、最初にくべる炭の量が大切。利休は「準備や段取りは、なにが必要で、なにが今大切なのか? という本質を見極めよ」ということを説いている。
3)花は野にあるように
茶道での教えは「本質を捉え、より簡潔に表現する」だが、JAL流の旅客対応では「全力で1便1便サービスする。なぜならお客様とは一期一会だから」と説いている。客室乗務員の本質はサービスなので、より具体的にしているのだろう。
4)夏は涼しく冬暖かに
おもてなしは相手を思い、夏は涼しく、冬は暖かく演出するという意味だという。JALはもっと踏み込んで客室照明や言葉がけ、食事などの演出に配慮するとしていた。
5)刻限は早めに
「早め早めの行動で、心にゆとりを持て」という利休の教え。少し早めに作業すれば、時間に余裕ができ、余裕ができれば優しい気持ちになれ、落ち着けるというもの。要はビジネスで言われる5分前行動だ。JALではさらに続きがあり、緊急時には落ち着いたところで旅客の安全を最優先で守るとしている。
6)降らずとも傘の用意
読んで字のごとく「何事にも備えを用意する」という意味だ。JALでは「備え」をもう少し拡大させて「先輩の意見に耳を貸し、自分の知識として引き出しを増やす」「相手の憂いをなくす準備を怠らない」としていた。
7)相客に心せよ
「お互いを思いやる気持ちを大事にしておもてなしする」これまでのまとめのような意味らしい。
「和敬清寂」や「利休七則」は、CAに通じる教えである以上に、ビジネスの場でも活かせる教えがたくさんある。これらを後輩に教えれば、先輩としての株がV字上昇するのは確実。飲み会の席で女の子に唱えれば、モテモテ間違いない(と思う)。
安心と安全はメンタルからも支えられる
客室乗務員は接客業でありながら、時には秘書であり、旅客を守るSPや保安要員でもある。このような特殊な仕事は、マニュアル応対では、旅客をもてなすどころか、旅客の安全すらままならない。
JALの客室乗務員は、マニュアルを越えたサービスを各々提供できるよう、茶道からおもてなしの心と技を学んでいる。しかもその心はサービスだけでなく、いざというときの心構えとしても活用できるものだった。
さらに驚かさせれたのは、「私にしかできない」というCA1人ひとりの個性を生かすことで、JALにしかできないサービスにつながるという考え方だ。
JALの安心と安全は、機材や規則、システムの上に成り立つものではない。運航に携わる乗務員をはじめとした社員の人間力やメンタルによっても基礎となる土台が固められていると感じた。