ワイヤレスで左右セパレート化した「USBS-WW1」
しかし本物のステレオ音場を得たいなら、やはり左右セパレートのスピーカーには敵わない。
SiBの「USBS-WW1」はバッテリー駆動のBluetoothスピーカーながら、左右スピーカーがセパレートかつワイヤレス接続という画期的な製品だ。これまで同種のBluetoothスピーカーにセパレート型は存在しなかったし、セパレート型のBluetoothスピーカーはACを電源とする据置型で、左右スピーカーはケーブルで接続されていた。
「再生機器との接続はワイヤレスなのだから、スピーカーの間もワイヤレスにするのが自然」と思えるのだが、できない理由も当然ある。デジタルでワイヤレス接続した場合、左右チャンネル間で遅延が発生し、位相差や変調という形で音に影響するはずだ。しかし、実際の製品があっさり登場してしまったのである。
USBS-WW1はステレオペアで販売され、外観上は2台ともまったく同じ。それぞれ単独に再生機器とペアリングし、モノラルスピーカーとして使える「シングルモード」もあるので、中身も同じなのだろう。
ステレオで使用する際には、まず左右スピーカーのペアリングから始める。電源の長押しでグリル下部のインジケーターがグリーンの点滅になり、ネゴシエーションを開始。40~90秒程度経った後、インジケーターがブルーの点滅になったら左右ペアリング終了。
ペアリング後にモードボタンを押すと「Left Channel」、あるいは「Right Channel」という音声を再生するので、これで左右チャンネルを区別できる。左右チャンネルの分担はハード的に固定されておらず、このペアリング時にアサインされるようだ。
その後、左スピーカーとなった側のペアリングボタンを押して、スマートフォンなどの再生機器と通常通りペアリングする。このとき、再生機器側に表示されるBluetoothデバイスは“USBS-WW1”1台のみ。左右スピーカーは一度ペアリングしてしまえば、再生機器との接続が切れてもその都度ペアリングし直す必要はない。
左右スピーカーをペアリングしている様子。ネゴシエーション時の動作音がサウンドインスタレーションのようで面白い(早朝に自宅で撮影したため、自動車の走行音や鳥のさえずりが入っているのはご勘弁を)。左右スピーカーのペアリング後、再生機器とのペアリングを受け付けるのは左スピーカーのみ。右スピーカーのペアリングボタンを押しても「Right Channel」と音声を再生するだけで、再生機器とのペアリング動作には入らない。
左右スピーカーをワイヤレス接続する仕組み
実際に音楽を再生してみると、当然のようにステレオで再生する。当たり前といえば当たり前だが、これは新鮮な驚きだった。聴感上はチャンネル間の遅延や位相差のようなものも確認できない。もちろん左右のスピーカーはBluetoothの電波が届く範囲で自由にレイアウトできる。ただしエンクロージャーは小さく、パッシブラジエーターのような低域補強策も採っていないので再生音はそれなりだが、好きにリスニングポジションが作れるメリットは大きい。
気になるのは時折入るノイズや、断続的に音の途切れる現象が見られること。そして再生機器の音声信号が実際にスピーカーから出てくるまでのタイムラグは一昔前のBluetooth並にあるため、動画の視聴には向いていない。唇の動きと音声がワンテンポ遅れてしまうのだ。解決すべき課題はあるものの、左右スピーカーをワイヤレス接続する競合製品がない以上、どれも許容範囲に思える。
それにしても、一体どういう仕組みで動いているのか。販売元のSiBに問い合わせてみたところ、想像以上にトリッキーな仕組みだった。
ステレオペアリング時には、左スピーカーがマスターとなり、右スピーカーがスレーブとして接続される。左スピーカーは同時に再生機器とも接続しているので、マルチペアリングのような状態だが、オーディオデータの通信はどちらか一方としかできない。
そこで再生機器と右スピーカーとの通信を時分割的に切り替えているらしい。具体的には、マスター側の左スピーカーが再生機器と一定時間通信してデータを取得すると、再生機器との通信を止めて右チャンネルにデータを送り、それが終わると右チャンネルとの通信を止めて、再生機器からデータを取得を再開する。この動作を繰り返して、ステレオ再生を実現しているのだという。
チャンネル間の遅延については、通信の際に右スピーカーがデータを正しく受信したかをチェックして制御しているらしい。それでも厳密には遅延が発生しているそうだが、その影響は聴感上確認できない程度に抑えこまれているということだろう。
この仕組みでは、ある程度データをバッファーしなければならないはずで、動画再生時に音声が遅れる理由はこの辺にありそうだ。実際、シングルモードで使った場合は、音声の遅れはほとんど気にならなかった。