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NTT Comが描くクラウドとグローバルITの現実解 第5回

光ファイバーに手が届く現地の状況を現地法人の社長が講演

電話局の鍵は隣のおばさんが!インドネシアの最新ICT事情

2013年11月08日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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10月24・25日に開催された「NTT Communications Forum 2013」の展示会場の一角では、同社の現地法人が現地のICT事情を語るセミナーが行なわれていた。世界第4位の人口を誇る巨大市場であるインドネシアについての講演をレポートしよう。

課題はあるが……、抗しがたいインドネシアの魅力

 インドネシアのICT事情について講演したのは、PT.NTT Indonesia(以下、NTTインドネシア)President Director 松尾 隆一氏。地元の衣装を着込み、流暢な(?)インドネシア語の挨拶から講演をスタートした松尾氏は、まずインドネシアについての概況を解説した。

インドネシアの概況について説明するPT.NTT Indonesia President Director 松尾 隆一氏

 中国、インド、米国につぐ約2億43000万人という人口を抱えるインドネシアは、アメリカ本土がすぽっと入る東西5000km以上の国土に、約1万5000の島がひしめく島嶼国家。「とにかく非常に島が多い。先日、すべての島に名前が付いたという報道もあったくらい」(松尾氏)。原油や天然ガス、スズ、ニッケルなどの天然資源が豊富なほか、世界最大のイスラム教国としても知られている。また、親日的な国家としても有名で、「最近は、とんこつラーメン屋も進出している」(松尾氏)くらい、日本の文化や食事になじみが深いという。

 このように市場として魅力的なインドネシアには、製造・非製造問わず多くの日本企業が進出しており、投資規模はシンガポールに次いで2番目の規模となっている。日系企業も、ここ3年でも約300社くらい増えており、特に自動車関連は全体の1割を占める。市場においても、「日本車のシェアが95%を超えており、日本よりもシェアが高い」(松尾氏)という。

 しかし、投資に向けた課題も山積している。深刻なのはインフラの脆弱さ。長雨が続くと、すぐに冠水してしまう。交通渋滞もすさまじく、以前30分程度で行けるところが、交通量の増大とともに1時間近くかかるようになっているという。「港からジャカルタまで70kmくらいしか離れていないのに、部品を運ぶのに3時間くらいかかっている。5年経つと、9時間くらいかかるようになると言われている」(松尾氏)。また、法制度が恣意的に運用されたり、2014年にはユドヨノ現政権が終了したり、ルピア安・人件費の高騰が進んでいることなどもリスクに挙げられる。

脆弱なインフラ

深刻な交通渋滞

 それでもインドネシアの魅力は抗しがたいものがあるという。前述の通り、市場自体が巨大なのに加え、GDPが堅調に伸びており、中間層の所得も急拡大。また、若年人口が多く、長期的に安定的に労働力を供給できるため、生産拠点としても有望だという。「昨年は中国、インドに続く投資先として注目を集めている」(松尾氏)とのことで、日本企業の進出が多いのもうなづける。

光ファイバに手が届く!いろんな意味ですごい通信状況

 次に松尾氏はインドネシアの通信とICT事情について説明した。インドネシアには国有会社のTelkom Indonesiaのほか、元国営会社のIndosat、電力会社系のIndonesia Comnet Plus(ICON+)、民間企業のBiznet Networks、XL Axiata Tbkなどの通信会社があり、それぞれ固定系、モバイル系、法人サービスなどを手がけているという。

インドネシアの主要な通信キャリア

 特筆すべきは、固定電話の普及率が16%、ブロードバンド回線が1.1%なのに対して、携帯電話の加入者が97%を誇っている点(とはいえ、他のアジア諸国は100%を超える国も多い)。後述するとおり、通信インフラが劣悪という背景もあり、インターネットの利用もほとんどモバイルから。BlackBerryユーザーが多いのが特徴で、「おしゃべりや噂が大好きなお国柄なので、チャットやメールをスマートフォンから使っている」(松尾氏)とのこと。相対的に高価なADSLはあまり好まれないようで、固定網ではネットカフェや会社からインターネットを使う人が多い。

 インフラの脆弱性は通信分野でも同じだ。松尾氏は、「電話局の鍵を隣の民家のおばさんが持っている」「電柱に架空(がくう)されている光ファイバーに手が届く」「へき地ではワイヤレス通信設備の電力確保のため、毎日2回燃料(ガソリン)を人力で運んでいる」など、衝撃的なエピソードをいくつも披露。こうしたことから障害が多く、障害が起こると復旧まで時間がかかるのが現状。国際回線という観点でも、シンガポールを中継点とするアジアのメインルートから外れており、シンガポールからの海底ケーブルも数本に過ぎない。そのため、国際的に見ても通信環境は貧弱と言わざるを得ないようだ。

電話局の鍵は隣の民家のおばちゃん

光ファイバに手が届く

 ICT環境については、普及に著しい地域差があるのが現状。ベンダーやSIerはジャカルタとスラバヤに集中しているため、これらの地域では一般的なITシステムの導入は容易だという。一方で、それ以外の地域ではITの導入はなかなか難しいとのこと。市場としてはほとんどがハードウェアの販売で成り立っており、堅調に成長を続けている状況だという。

 データセンターに関しては、そもそもサービス自体への知名度が低いほか、品質の安定したデータセンターが少ないため、市場規模はシンガポールやマレーシア、タイ、ベトナムよりも小さいのが現状だ。しかし、今後は市場の拡大が予想される。理由としては、商業ビルや通信設備を改修しただけのデータセンターではなく、2012年にはより本格的なデータセンターが建設されるようになったことがある。また、公共サービスの電子システムをデータセンターで運用することが義務づけられるという法改正も大きい。「金融系が動きつつあり、データセンターの市場としては有望」と松尾氏は語る。

インドネシアのデータセンター事情

ICT環境の構築・運用にはアウトソーシングがオススメ

 最後に松尾氏は、魅力と課題が同居するインドネシアに進出するにあたっての注意点、そしてNTTインドネシアのアウトソーシングについて解説した。

 まずネットワークに関しては、現地キャリアに任せておくと、障害がなかなか復旧しないという問題がある。そのため、NTTインドネシアでは顧客からの問い合わせを受けたら、保守担当者が現地キャリアをアレンジして、顧客対応を実施する。担当者や時間、持ち物まで確認しないと、復旧までたどり着かないからだ。

現地キャリアの対応はきわめて困難

 また、ハードウェア、ソフトウェアの納期に関しても注意が必要だという。インドネシアの場合、ICTのハードウェア、ソフトウェアがほぼ輸入品になるが、税関手続きが煩雑で、非常に時間がかかる。さらに、ソフトウェアの違法コピー問題も深刻で、IT系の人材が不足しているのも大きな問題となっている。松尾氏は、「ローカルのベンダーに任せると、違法コピーのインストールされたPCが大量に手配され、結局ウイルスが一挙に蔓延して、業務が止まってしまうことが多い。結果として、最近は正規のソフトをインストールしたPCを、弊社から買いたいという会社も増えている」と語る。

 こうしたことから、インドネシアでもアウトソーシングサービスの需要が高まっており、NTTインドネシアでもこうした需要に対応するという。NTTのインドネシアでの活動は、1974年のジャカルタ事務局の開設以来、すでに40年近い歴史を数えており、1990年代からは通信設備の構築やSIなども展開している。日系企業で唯一のISPライセンス、外資企業唯一のIPトランジットのライセンスを保持しているほか、小さいながら自前のデータセンターも提供しているとのこと。

NTTインドネシアの7つのバリュー

 サービスインフラも強化しており、2012年には工業団地への光ファイバー敷設、2013年には海底ケーブル向けのPOP、データセンター間のバックボーンを構築。2014年にはジャカルタの主要ビルにもネットワークを導入するほか、新データセンターの構築計画もあるという。松尾氏は、「お客様のビルからデータセンターにまで直接アクセスできるようになる」とのことで、良好なICT環境の提供に注力するとアピールした。

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