今回から始まる新連載「ノーク伊嶋のIT商材品評会」は、IT市場でこれから期待される製品、サービスについてアナリストの観点から紹介、解説、分析するコラムだ。第1回は中堅・中小企業をメインターゲットとするNECのクラウドサービス「N-town(エヌタウン)」を紹介する。もっとも、中堅・中小企業のITシステムに強いベンダーであるNECが、ようやく投入した中堅・中小企業向けのクラウドサービスという感が強い。さてその中身は?
「採算性の悪さ」というクラウドビジネスの課題
中堅・中小企業では、オンプレミスサーバーを主体とする業務システムがほぼ行き渡り、現在では新規導入よりも仮想化などによる統合、集約、あるいは過去の資産の延命利用などの動きが中心となりつつある。大規模企業ではクラウド活用も盛んになっているが、中堅・中小企業のクラウド活用はまだ緒についた段階だ。特にアプリケーションのクラウド化、いわゆるSaaSの活用は進んでおらず、いまだにオンプレミスによる従来型の所有利用が中心である。
中堅・中小企業のクラウド導入が思いのほか進まない大きな要因の1つが、クラウドサービスを提供する企業(=販売店、SI企業)におけるクラウドビジネスの採算性の悪さである。端的に言えば「儲からない」ので、販売店やSI企業はクラウドビジネスのほうへと積極的に舵を切れないでいるわけだ。
そのような現状の中堅・中小企業市場にNECが投入したクラウドサービス構想が、今回紹介するN-townである。これはNECと多数のパートナーが協力してユーザーに幅広いビジネスサービスを提供する「クラウド型のビジネスプレイス」であり、単にクラウドサービスを販売する仕組みではない。
N-townは今年5月にサービスをスタートしたばかりで、実績はまだこれからという段階だ。それでも、NECはPCサーバー分野で国内出荷シェア1位のベンダーであり、中堅・中小企業に対しては全国に強い販売チャネルを持つ。同社が中堅・中小企業向けにクラウドサービスを展開することの意味はきわめて大きい。
SI企業や販売店にもメリットをもたらすN-town
NECでは2010年、中堅・中小企業向けのサービスとしてこの構想をスタートさせた。ERP製品「EXPLANNER」を展開する産業ソリューション事業部が担当だ。今後の中堅・中小企業市場開拓のためにはクラウドを基軸にした戦略製品、サービスの拡大が必要と考え、検討を重ねた結果、クラウドサービス型で提供される中堅・中小企業全体を包括したサービス商品として、次世代ソリューション基盤のN-townが生まれた。
さらに同社は中堅・中小企業市場への取り組みとして、2012年4月に同市場に関連する3事業部門と1関連企業(産業営業本部、産業ソリューション事業部、パートナービジネス営業本部、NECネクサソリューションズ)を一体運営する体制を構築している。
NECでは中堅・中小企業を「年商500億円以下の企業」と定義しているが、N-townでは特に年商5~50億円の中小企業がメインターゲットとなっている。この規模の企業では、ITに継続投資できる十分な予算の余裕がなく、すでに導入したオフコンが塩漬けになり最新のITの流れに乗れていないユーザー企業が多い。こうした企業に最新のITシステムを活用してもらい、企業活動がアクティブなものになれば、同社の中堅・中小企業市場への攻略にもつながるわけだ。
一方で、クラウドサービスに対してはしばしば販売チャネルから「メーカー直販=中抜き」ではないかと不安視されることがある。こうした販売チャネルの不安を払拭するために、N-townではNECが直販を行わず、将来的には350社の特約店(NECの有力販売店)およびパートナーが販売することになっている。NECがアプリケーションの開発基盤でもあるN-townをパートナーに提供し、そこで開発されたアプリケーションをパートナーや特約店が中堅・中小企業に販売するわけだ。
さらに、利用料金を安めに設定して中小企業ユーザーでも導入しやすくする一方で、販売側企業には顧客提案に必要なサービスを適宜用意し、効率のよい販売ができるようにする。特約店やパートナーは、自社開発のアプリケーションだけでなく他社が開発したものも販売できるため、複合的な販売で利益を上げることが可能になる。
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