TSMCの28nmプロセスの生産が間に合わない!
余波を受けたGeForce GTX 650
実はGeForce GTX 680と同じ2012年3月に、GK104にあわせて「GK107」コアが発表されている。ただし、当初発表されたのはモバイル向けの「GeForce 600M」シリーズで、デスクトップ向けは2012年4月の「GeForce GT 640」「GeForce GT 630」が、OEM向けとしてリリースされたに留まる。
このGK107がデスクトップ向けに、「GeForce GTX 650」としてリリースされたのは2012年9月になってからのことだ。構成的にはメインストリームというよりもバリュー向けで、GPCが1個、つまりCUDA Coreは384個の構成である。メモリーにはGDDR5を使うが、転送速度は5GHzでバス幅も128bitと控えめである。
GeForce GTX 650がGeForce GT 630/640から5ヵ月も遅れた理由は、単純にTSMCの生産能力の逼迫である。これは次に説明する「GK106」にも絡むのだが、今もなおTSMCの28nmプロセスの生産能力は、かなりぎりぎりのところにある。TSMCは必死に28nmプロセスの生産量を増やしており、その生産能力は2012年第2四半期に2.5万枚/月だったのが、同第3四半期には10万枚/月まで拡張したようだ。だがなにしろこれまでのバックログ※1が膨大なので、これを解消するのには最低でも2012年いっぱい、悪ければ2013年第1四半期までかかるだろうと見込まれている。
※1 注文を受けても生産しきれず後回しになっていた分。
この影響をモロに受けたのがNVIDIAである。NVIDIAとしては、GK104/GK107/GK106のラインナップを早期に投入したかったのだが、何しろTSMCの生産能力が逼迫しているだけに、優先順位をつけざるをえなかった。加えてGF110の生産もある。こちらは生産量そのものは少ないとはいえ、生産を逼迫する新たな要因であることは間違いない。
そこでNVIDIAはまずGK104を最優先。ついでGK107と優先順位をつけた。モバイルとOEM向けのみに絞れば、それほど多くの生産量は必要ないから、GK104と同時に生産できる……という腹積もりだったのだろう。だがNVIDIAの予想に反して、結局2012年第3四半期はGK104すら生産量が不足気味となり、市場に製品があまり廻らないという状況になったのは、ご存知のとおりである。
上に述べたとおり、TSMCが急速に生産量を増やしたおかげで、2012年後半にようやくGK107やGK106の量産にかかれるようになった。その結果として、9月以降にやっとGK107やGK106の出荷が可能になったというわけである。
余談であるが、生産量の影響を受けたのはNVIDIAだけではない。携帯電話の分野では、クアルコムの「Snapdragon S4」が高いニーズを得ているが、こちらもやはりTSMCの生産が逼迫した関係で、機器メーカーに十分供給できなかった。そこで困った機器メーカーは、Snapdragon S4の代わりにNVIDIAの「Tegra 3」やテキサス・インスツルメンツ(TI)の「OMAP 5」の採用を決めた。
ここで、Tegra 3はTSMCでも40nm LPGプロセスで製造していたので影響はなかったが、OMAP 5はやはりTSMCの28nmプロセスを使っていたので、当然供給が逼迫した。そのためOMAP 5は、Snapdragon S4以上に市場に製品が出てこない。冷静に考えれば、「そんな状況でなぜTIは機器メーカーから注文を取ったんだ?」となるのだが、結果として悲劇というか、ドタバタ劇が繰り広げられる結果になってしまった。最近ではTegra 3を搭載したタブレットが多いのは、こうした理由も多少関係していたりする。
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