Windows 8でのグラフィックシステムの強化ポイント
DirectXを使う描画システムはWindows Vistaから導入が始まり、Windows 7である程度の完成を見た。Windows 7では描画の無駄をなくし、余計なメモリーを使わないように効率的な描画システムが構築された。その後継となるWindows 8では、利用頻度の高いDirectWriteやDirect2Dのパフォーマンスが改善されている。
DirectWriteの場合、通常のパラグラフ表示では1.5倍、タイトルや見出しなどの大きな文字の表示では3.3倍も描画速度が向上しているという。
描画システムの最適化は、描画のフレームレートや描画中の速度低下の有無、先頭フレーム表示までの時間(DirectXシステムの初期化時間などが影響)、さらにメモリー利用状況やCPU負荷などを測定項目として、Windows 8の開発中に測定を行ない、パフォーマンス改善に取り組んだという。
またWindows 8スタイル環境では、HTML5+JavaScriptでもアプリケーション開発が可能であるため、SVGなどのベクターグラフィック描画機能を、高速で処理することが求められた。Windows 8スタイル環境では、出来の悪いアプリがシステムの足を引っ張らないように時間制限などがあり、そのためには処理を高速でこなさねばならない。そんなときにOSが用意する描画機能が遅くては、アプリケーションが努力してもどうしようもなくなってしまうからだ。
Direct2Dでは、アプリケーション側から受け取った図形指定、表示色などのパラメーターを、Direct3Dが処理できる基本的なポリゴン(おもに三角形)やコマンドに分解する。この処理を「テッセレーション」という。
Windows 8では矩形や直線、楕円といった基本的な図形描画をレンダリングするための、テッセレーション処理を最適化した。これにより、Windows 7と比較して矩形描画で最大4倍以上の描画性能が得られたという(フレームレート比)。この改良は主に、CPU負荷を削減することで可能になったという。
また2D描画では、変則的な表示も少なくない。例えば、地図上の境界線のような描画も高速化する必要がある。そのために「DirectX 11.1」(Windows 8用)では、新たなハードウェア機能として「TIR」(Target Independent Rasterization)を導入した。TIRはアンチエイリアスを行なうパス描画を行なうためのハードウェア機能であり、描画側は、パスを指定するだけで高品質なパス描画が行なえるようになる。
TIRを持つハードウェアで描画する場合、Direct2Dはテッセレーション処理の負担が減り、単位時間内により多くの処理、つまり結果的に高いフレームレートによる表示が可能になる。TIRを使ったSVGの描画は、1.5~5倍程度の性能向上が見られたという(フレームレート比)。ハードウェア処理であるため、Direct2Dやその下で動くDirect3Dとともに、CPUに負荷をかけることがない。ただし、この機能を搭載するのは、DirectX 11.1対応のハードウェアのみだ。
Windows 8はWindows 7で整備されたグラフィックシステムをベースに、さらに最適化とチューニングを行なうことで、パフォーマンスを向上させている。ただしDirect2DのTIRのような新しい機能も利用するため、新しい世代のハードウェアのほうが、より効率的に表示できる。ただしWindows 8は、タブレットなどWindows 7世代よりも幅広いハードウェアで使われる可能性が高い。
Windows 7でもタブレットや超小型PCといったものはあったが、必ずしもハードウェアの最大性能を引き出せていたとは限らなかった。Windows 8での改良は、こうしたWindows 7世代のハードウェアに対しても有効な部分があり、「よりよいWindows 7」として、今のハードウェアを快適に利用できる可能性があるわけだ。
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