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使って理解しよう!Windows Server 8の姿 第6回

旧バージョンのベータテストも振り返りながら考えよう

Windows 8の情報公開は、これまでより劣っている?

2012年05月31日 06時00分更新

文● 横山哲也/グローバルナレッジネットワーク株式会社

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 Windows 8とWindows Server 2012の新しいベータ版が、6月初旬に公開される。Microsoftでは「Release Preview(RP)」と呼んでおり、従来の「Release Candidate(RC)」に相当する。過去の例を見ると、ベータ版からRCで大きく変わった例はあるが、RCから製品版での変更はほとんどないと記憶している。もともとRCは「マイクロソフト社内的にはこのままリリースしてもいいが、念のため一般ユーザーにチェックしてもらう」という位置付けだから、まったく変更がなくても不思議ではないくらいだ。

 開発は順調に進んでいるようだが、あまりはっきりしたことはわからない。過去の(Windows XP以降の)Windowsに比べて情報があまり公開されていないからだ。そこで、旧バージョンのベータテストがどのように行なわれたか、ここで振り返ってみよう。

積極的な情報公開で始まったWindows NT

 現在のWindowsの直接の祖先は、1993年に発売されたWindows NT 3.1である(発売年は英語版、以下同じ)。3.1という数字は、当時広く使われていた16ビットクライアントWindowsのバージョンとの互換性を意識したためで、実質的にはバージョン1と考えてよい。

 Windows NT 3.1のベータテストがあったのかなかったの、筆者は知らない。おそらく広範囲なテストはなかったのではないかと想像する。Windows NT 3.1は、全体のパフォーマンスチューニングが不十分であり、TCP/IPの実装がSTREAMSというライブラリを経由していたことからネットワーク速度が遅かった。1993年当時はTCP/IPは数あるネットワークプロトコルの1つでしかなく、これほど普及すると思っていなかった人も多かったからだろう。

 なお、Windows NT 3.1はドメインコントローラ専用の「Windows NT Advanced Server」と、メンバーサーバーまたはスタンドアロンサーバー用の「Windows NT」の2種類のパッケージが存在した。

 次のバージョンは、性能を大幅に改善し、TCP/IPをネイティブ実装したWindows NT 3.5で、1994年に発売された。クライアント版の「Windows NT Workstation」が登場したのはこのバージョンからである。Windows NT Workstation 3.5は開発コード名を「Daytona」といい、CD-ROMが雑誌の付録などで広く提供された。手元のCDを見ると「1994年11月日本語対応/最終β版」とある(図1)。日本語版の発売が1995年1月31日だから、製品の登場する3か月ほど前である。

図1 雑誌の付録に付いたWindows NT Wirkstation 3.5 (Daytona)

 起動すると「Release Candidate」の文字が表示されるが(図2)、当時は一般的な用語ではなかったので、対外的には「β版」としたのだろう。

図2 起動時に「Release Candidate」の文字が見える

 翌1995年にはWindows 95とAPI(アプリケーションプログラミングインターフェイス)を統合したWindows NT 3.51が発売される。バージョン番号からわかる通り、ほとんど変化がなかった。さらに翌年の1996年にはグラフィック性能を大幅に強化し、ウィンドウスタイルとWindows 95に合わせたWindows NT 4.0が登場した。

 -以上が、Windows NTのおおまかな歴史である。Windows NT 3.5のベータ版配布が目立つが、今思えばRC版の配布であり、実はそれほど重大なことではない。マイクロソフトから提供される資料はというと、これも現在と大きくは変わらない。マイクロソフトのWebサイトは当時から大量の情報であふれていた(ただし日本語はほとんどなかったのに比べ、現在では日本語情報も多い)。

 マイクロソフト最大の技術カンファレンス「TechEd」は、1993年に米国で開催されたのが第1回だそうだから、Windows NT時代にはもう実施されていた。また、書籍の数は少なかったがマイクロソフトから出版された「Windows NTリソースキット」の内容は非常に充実していたし、マイクロソフトの公式教育コースの内容も技術的に深いところまで解説していた。

慌ただしく始まったWindows 2000の情報公開

 マイクロソフトがWindows NTの経験を使い、新たに再設計したのが1999年暮れに登場したWindows 2000である。となっているが、実はカーネル部はWindows NT 4.0とそれほど大きな違いはない。ユーザー管理システムがSAM(Security Account Manager)から、現在も使われる「Active Directory」に変わったことに由来する変更点が多い。そのほかの機能は、ネットワークサービスが追加されているくらいだった。しかし、公式な情報提供量は過去のどのバージョンよりも多かった

 筆者が最初にWindows 2000に触れたのは、1997年10月に「Windows NTイントラネットソリューションズ」という技術カンファレンスのセッションの準備をしているときだ。今だから言うが、このセッションは、エンジニアでブロガーの及川卓也さんの代理で回ってきた仕事だった。及川さんは当時、筆者も在籍していたDEC(ディジタルイクイップメント)に勤務しており、セッションスピーカを引き受けたのだが、そのあとマイクロソフトに転職することになり担当できなくなったため、筆者に依頼があった(その後、及川さんはマイクロソフトも退職、現在はグーグルで活躍中だ)。

 ちょっと慌てたが「必要な技術情報はすべて提供する」という約束で引き受けた。そこで驚いたのは、ほとんどの情報がマイクロソフトのWebサイト上ですでに公開されていたことだ。さすがにOS本体は公開されていなかったが、それ以外の技術的詳細はほぼすべてあった(図3、図4)。

図3 Windows NT 5.0の資料1(1997年開催のPDCより)

図4 Windows NT 5.0の資料2(1997年開催のPDCより)

 このときに評価したのは「Windows NT 5.0ベータ1」だった。そのあと、しばらく動きがなかったが、1998年末には大規模な技術カンファレンスが開かれ「Windows 2000」という名前に変更された。かなり急な変更だったようで、配布されたカンファレンスバッグには「Windows NT 5.0」と印刷されていた。

 1999年4月に「Windows 2000ベータ3」が登場してからは、日本語資料が急速に増えた。まず、マイクロソフト公式カリキュラム、日本でいうMSU(マイクロソフトユニバーシティ)が和訳され、パートナー向けに全国で何度も開催された。筆者は1999年の1年間で、一体何回Active Directoryの講習会を行なったかわからない。もう製品版が出る頃にはすっかり飽きてしまったほどだ。

Windows XPからWindows 7とWindows Server 2008 R2

 Windows XPからしばらくの間、サーバーとクライアントのリリース時期がずれた。2001年のWindows XP、2003年のWindows Server 2003、2006年のWindows Vista、そして2008年のWindows Server 2008である。

 この頃の情報提供は、多くの方がご存じだろう。マイクロソフトから提供されるベータ版は、Windows 2000の時よりもひんぱんにアップデートされたし、提供される情報も多かった。Windows 2000当時のような講習会はなくなったものの、提供される情報は決して減っていない。テクニカルフォーラムも活発になり、多くの議論が行なわれた。

 ちょうどブログの普及期と重なったこともあり、多くのユーザーが検証結果を公開し始めた。その内容は玉石混交だったが、とにかく量は圧倒的に増えた。

 2009年はWindows 7とWindows Server 2008 R2が同時に発売され、久々にサーバーとクライアントの足並みがそろった。Windows Vistaの野心的な、しかし多くのリソースを消費する試みは細部に至るまで調整が施され、見違えるようによくなった。Windows Server 2008 R2についても多くの改善が施され、単なるマイナーチェンジとはいえないOSとなった。おそらくは、Windows XPからの乗り換え先として、ここ数年間は主力OSとなるだろう。

今回のWindows 8とWindows Server 2012の情報公開は?

 さて、Windows 8とWindows Server 2012である。両OSは、Windows XPやWindows Vistaに従来に比べるとベータ版のリリース頻度が低いものの、提供されている情報はさらに増えている。マイクロソフトのWebサイトには相変わらず多くの英語情報があるし、日本語情報についても量と質の両面で大きな改善が見られる。2012年2月29日にWindows 8の新しいベータ版が発表されたその日に、大量の英語情報がアップロードされた。3月2日には日本語情報もあったので、日英同時公開だったのかもしれない。

 このように、公式情報に関しては、従来以上に多くの情報が公開されていることは確かである。しかし、それにもかかわらず、多くの人が「Windows 8/Windows Server 2012の開発情報が入手できない」と主張している。

 たとえば、ユーザー主導のコミュニティ活動は現在も活発だが、マイクロソフトMVPなど、従来大きな役割を担っていたコミュニティ活動が停滞している。

 以前は、マイクロソフトMVP向けに公開されていた「Interim(中間)ビルド」も登場していないし、ベータテスター向けWebサイト「connect」にも、製品が登録されていない。Connectは、許可されたユーザーにだけテスト製品が表示されるため、筆者が登録されていないだけかもしれないが、以前はMVP全体に公開されていたので縮小していることは間違いない。そもそも、ベータ版のリリース頻度が低すぎる。

 他にも、技術カンファレンスでマスコミ向けの開示範囲が狭くなったり、情報統制が強化されたりしている。

 筆者は、2000年台前半からのブログやSNSによる不完全で表面的な情報をマイクロソフトが嫌ったのではないかと想像している。ソーシャルメディアを完全にコントロールすることは不可能である。だから情報開示範囲を制限するというのは、方針としてわからないではない。

 しかし、そもそもマイクロソフトは開発者に対して先行して情報を提供し、開発者の声を製品に活かすことで発展した会社である。ユーザーの直接の声を遮断してしまうような情報開示は、決してマイクロソフトのためにならないと思うのだがどうだろう。

 最近の情報提供の状態が、一時的なものであることを望む。

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